はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 421 [花嫁の秘密]

甘い香りで目が覚めた。

まるでいつもの朝と同じような――こんがりと焼けたトーストにバターがじわりと溶けていく様子や、それにかぶりつくセシルとやけに苦いコーヒーに文句を言うエリック。僕はココアを手にまた騒々しい一日が始まったと素知らぬふりで新聞に目を落とす。

サミーはまばたきをして、香りを辿った。いつもと同じではないことは、目を開ける前から分かっている。キャノン処方の怪しげな薬を飲んだあとは、父の葬儀の時の話をして、それからまた薬を飲んだ。そのおかげか頭痛も治まりぐっすり眠れた。気を失うのとは違う、ちゃんとした睡眠。

身体を起こして枕に背を預ける。誰かいると思ったら、ブラックか。テーブルに食べ損ねた朝食が置いてある。いや、昼食の支度をしてくれているのかもしれない。

「着替えを出してくれ。下で食べる」食欲があればだけど、病気でもないのにベッドで過ごすなんて馬鹿げている。

「今度は俺を従者にするか?」そう言って振り向いたのは、ここにいるはずのないエリックだった。

なぜというのは愚問だろう。ブラックが報告したに違いない。

「カーテンを開けてくれるか?」薄暗いせいで、まったく似ていない二人を見間違えてしまった。それもこれも、エリックがトレードマークの髪を切ったからだ。

「気分はどうだ?」エリックは無表情を装っていたが、奥歯を強く噛み締めているせいで顎がこわばっている。だからか、カーテンを開けてくれという僕の言葉を無視し、椅子を引き寄せベッドわきに座った。

「キャノンのおかげでそう悪くはないよ」サミーは淡々と答えた。軽い口調で返そうとしたが、さすがに何でもないことのようには振る舞えなかった。ブラック相手ならどうにか取り繕えただろう。

「いったいなにがあった」エリックが静かに切り出した。

声に怒りが滲んでいるのは、なにがあったのかもう知っているからでは?そして、その怒りは僕に向いている。

「なにって……ただ、突然やってきて――」どう言えばいい?最初からすべて?僕がクリスのベッドで寝ていたところから?そんなこと言えるはずない。「君はいつここへ?」

僕はどのくらい眠っていた?感覚としてはキャノンが帰ってほんの数時間しか経っていないように思うが、丸一日眠っていた可能性もある。

「少し前に。ちなみに昼食はまだだ。いや、セシルのせいで朝食も食べ損ねたから、昨日の夜からほとんどなにも口にしていないな」

ということは、時間の目測は合っていたようだ。ブラックはすぐさまエリックに報告し、エリックはすぐさまここへ駆けつけた。喜ぶべきか悲しむべきか腹を立てるべきか。「それで君はそんなにひどい顔をしているのか」目の端に捉えたエリックの顔はやつれて見えた。

「お前に言われたくないね。それで、話す気はあるのか?」

エリックは僕に選択肢を与えてはくれない。知りたいことを聞き出すまで絶対に引き下がらないだろう。自業自得はいえ、ブラックの忠誠心をどう判断すべきか迷うところだ。「細かくなにをされたか聞きたいか?それとも――」

エリックはサミーを制した。「サミー、俺はお前にマーカス・ウェストのことを頼まれた。あいつの目的がなんであれ、守ると約束した」

「いや、そんな約束はしていない」馬鹿みたいに怯えていたけど、守って欲しいとかそういうことではなかったはずだ。ただ突如現れたマーカスが不気味すぎて……結局、助けを求めた時点で守って欲しいと言ったようなものか。

けど、この部屋では話したくない。生々しい記憶が断片的にそれでいてはっきりと脳裏に浮かぶ。サミーはベッドの向こうのテーブルに目を向けた。大きめのマグカップにはきっとココアが入っている。温め直されたクロワッサンは、いまはとてもじゃないけど口にできない。

「顔を洗いたい。支度をしたらすぐに降りるから、居間で待っていてくれ」サミーはエリックの顔も見ずに言った。このあと明るい場所で嫌でも顔を突き合わせないといけないと思うと気が滅入る。

「わかった」エリックは立ち上がり言った。「ああ、そうだ。セシルも一緒に来ている。聞かせたくないなら書斎で待っているが、どうする?」

サミーは思わず天を仰いだ。今度は天井の模様がはっきりと見えた。ひとまず意識ははっきりしているらしい。

「セシルが聞きたくないと言えば場所を移すことにするよ」聞きたい内容ではなくても、知りたがりのセシルをのけ者にはできない。判断は彼に任せる。

「それと――」出て行こうとするエリックが、つと足を止めた。

「まだあるのか?」こんな状況だっていうのに、僕をゆっくり休ませる気はないのか?

「ブラックを借りている。しばらくはグラントを使え」エリックはそう言い捨てて、部屋を出て行った。

つづく


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