はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 419 [花嫁の秘密]
朝、街灯の明かりがまだ残っている時間。
ミロード夫人の夜会から帰宅したエリックは、玄関前にクレインが立っているのを見て顔をしかめた。周囲に誰もいないとはいえ、こんなふうに待ち伏せされたことはない。それに昨日の夜――いやほんの数時間前、次の仕事の打ち合わせをしたばかりだ。アクストン通りの俺の部屋で休むと言っていたが、まさかタナーに入れてもらえなかったか?
「何の用だ?お願いだから面倒が起きたと言わないでくれよ」煙草の煙で目が痛いし、いまはとにかくベッドに入って休みたい。
「面倒だけならいいがな」クレインが神妙な面持ちで階段下まで降りてきた。顔を寄せ、声を潜める。「タナーから伝言だ。お前のサミーが襲われた。向こうでブラックが電話を待ってる」
なんの冗談だと言い返す前に走り出していた。頭の中にクレインの言葉がこだましている。襲われた?いったい誰に?無事なのか?怪我の程度は?訊きたいことは山のようにあるが、まずはブラックの報告を受けてからだ。もしかするとクレインが大袈裟に言っただけで、たいしたことではないのかもしれない。
そう考えながらも、そんなはずはないとわかっていた。ブラックは何もないのに連絡してきたりはしない。
細い路地を出るとドアの前に目を眠そうに擦るチャーチが見えた。タナーが面倒を見ている使用人見習いだ。
チャーチはエリックの姿を認めると、中に向かって何か叫びドアを全開にして待った。その動きだけで深刻な状況なのは間違いないと確認できた。エリックの胃がキリキリと痛みだす。不安に押し潰されそうになりながら玄関の奥へと進み、通信室へ入った。タナーがそう呼んでいるだけで、ただ書類や手紙が保管されている部屋に過ぎない。
「ブラックにつながっています」タナーが受話器を差し出す。エリックが受け取ると、タナーは部屋を出てドアを閉めた。
「サミーは無事か?」エリックは前置きもなしに尋ねた。まずは生死を確かめないことにはどうにもならない。
一生分ほどの間があり返事があった。『無事です。ですが――』
エリックはブラックの言葉を黙って聞いていた。ブラックはいったい何を言っている?まるで頭を酒瓶で殴られたかのようにガンガンと痛み、目の前が闇で覆われていく。
『――すぐに追いますか?」
ブラックの問いかけにエリックは瞬いた。闇に取り込まれている場合ではない。
「ユースタスが近くにいる、合流させるからそれまで待て。俺もすぐにそっちへ行く」エリックは受話器を戻した。これ以上はブラックを責めずに話していられなかったからだ。それにいまは一分一秒が惜しくてたまらない。
「タナー、フェルリッジへ行く。手配してくれ」それだけ言えば、事足りる。俺は出発までに用を済ませて駅へ行けばいい。
あの男の次の行き先の見当はついているが、いっそ事務所を潰しておくか。サミーの前に姿を見せた時から気に食わなかった。サミーが奴に会わない選択をしたのは当然と言えば当然で、おそらくそれが奴は気に入らなかったのだろう。
部屋を出ると、壁に寄りかかるようにしてクレインが立っていた。
「俺がすべきことがあるなら言ってくれ。何もないなら上で寝る」クレインはわざとらしくあくびをし、エリックの返事を待った。
「では、ひとつ頼まれてくれ」エリックは躊躇いなく言った。何もなければ放っておくつもりだったが、こうなってしまってはもう何をしても許すつもりはない。
マーカス・ウェストからすべてを奪う。
つづく
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ミロード夫人の夜会から帰宅したエリックは、玄関前にクレインが立っているのを見て顔をしかめた。周囲に誰もいないとはいえ、こんなふうに待ち伏せされたことはない。それに昨日の夜――いやほんの数時間前、次の仕事の打ち合わせをしたばかりだ。アクストン通りの俺の部屋で休むと言っていたが、まさかタナーに入れてもらえなかったか?
「何の用だ?お願いだから面倒が起きたと言わないでくれよ」煙草の煙で目が痛いし、いまはとにかくベッドに入って休みたい。
「面倒だけならいいがな」クレインが神妙な面持ちで階段下まで降りてきた。顔を寄せ、声を潜める。「タナーから伝言だ。お前のサミーが襲われた。向こうでブラックが電話を待ってる」
なんの冗談だと言い返す前に走り出していた。頭の中にクレインの言葉がこだましている。襲われた?いったい誰に?無事なのか?怪我の程度は?訊きたいことは山のようにあるが、まずはブラックの報告を受けてからだ。もしかするとクレインが大袈裟に言っただけで、たいしたことではないのかもしれない。
そう考えながらも、そんなはずはないとわかっていた。ブラックは何もないのに連絡してきたりはしない。
細い路地を出るとドアの前に目を眠そうに擦るチャーチが見えた。タナーが面倒を見ている使用人見習いだ。
チャーチはエリックの姿を認めると、中に向かって何か叫びドアを全開にして待った。その動きだけで深刻な状況なのは間違いないと確認できた。エリックの胃がキリキリと痛みだす。不安に押し潰されそうになりながら玄関の奥へと進み、通信室へ入った。タナーがそう呼んでいるだけで、ただ書類や手紙が保管されている部屋に過ぎない。
「ブラックにつながっています」タナーが受話器を差し出す。エリックが受け取ると、タナーは部屋を出てドアを閉めた。
「サミーは無事か?」エリックは前置きもなしに尋ねた。まずは生死を確かめないことにはどうにもならない。
一生分ほどの間があり返事があった。『無事です。ですが――』
エリックはブラックの言葉を黙って聞いていた。ブラックはいったい何を言っている?まるで頭を酒瓶で殴られたかのようにガンガンと痛み、目の前が闇で覆われていく。
『――すぐに追いますか?」
ブラックの問いかけにエリックは瞬いた。闇に取り込まれている場合ではない。
「ユースタスが近くにいる、合流させるからそれまで待て。俺もすぐにそっちへ行く」エリックは受話器を戻した。これ以上はブラックを責めずに話していられなかったからだ。それにいまは一分一秒が惜しくてたまらない。
「タナー、フェルリッジへ行く。手配してくれ」それだけ言えば、事足りる。俺は出発までに用を済ませて駅へ行けばいい。
あの男の次の行き先の見当はついているが、いっそ事務所を潰しておくか。サミーの前に姿を見せた時から気に食わなかった。サミーが奴に会わない選択をしたのは当然と言えば当然で、おそらくそれが奴は気に入らなかったのだろう。
部屋を出ると、壁に寄りかかるようにしてクレインが立っていた。
「俺がすべきことがあるなら言ってくれ。何もないなら上で寝る」クレインはわざとらしくあくびをし、エリックの返事を待った。
「では、ひとつ頼まれてくれ」エリックは躊躇いなく言った。何もなければ放っておくつもりだったが、こうなってしまってはもう何をしても許すつもりはない。
マーカス・ウェストからすべてを奪う。
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2023-08-16 00:21
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