はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 373 [花嫁の秘密]
「ハニー?何をしている?」
フェルリッジから到着したばかりのダグラスと、今度の長旅についての打ち合わせを終えたクリスは、旅程についてアンジェラと話すため部屋に戻ったのだが、見慣れない光景にそれ以後の言葉を失った。
いや、見慣れないのではなく、一度だけ見たことのあるその姿は、あまりにもクリスの心に強烈な傷跡を残していた。
新妻アンジェラが自分は男だと告白したあの日、いまと同じように男装していた。
アンジェラの男装は可愛いし、かなりそそられるのだが、あの時自分が口にしたひどい言葉を思い出すと自己嫌悪どころではない。あの夜をもう一度やり直せるならと考えなくもないが、結婚直後からひどいことばかりしていたのでもう忘れたいのが本音だ。
クリスの声に振り返ったアンジェラは、にっこりと笑ってメグが差し出していた帽子をちょこんと頭に乗せた。
「どう?似合う?」
「ああ、とても。でも、なぜこんな格好を?」暇だから兄たちの古着――見るからに仕立てあがったばかりだが――で遊んでいるのか?
「変装だよ、侯爵」アンジェラは声を作って、そのおかしさに吹き出した。「これならわたしってばれないでしょ?」その場でくるりと回る。
ばれない?ああ、そういうことか。
「出発は夜の予定だから、変装はいらないよ。でも、とても似合っている。セシルのおさがりかい?」
「そうかしら?出発は夜でも、駅に着くのは日がのぼってからでしょ。それと、これはセシルのおさがりじゃないわ」アンジェラはなぜか腹を立てたようで、クリスは助けを求めてメグを見た。
メグはすでに二人のそばを離れ、隣の部屋へ続くドアから出て行くところだった。案外白状なのだが、本当に困ったときは助けてくれる。いまはそれほどでもないと判断したらしい。
「ハニー、少し座って話をしようか」クリスはアンジェラの肩を抱いて、モスグリーンのソファに座らせた。二人で座ってもまだ余裕があるこのソファは、ソフィアのお気に入りらしい。
「ダグラスは無事到着したのよね?荷物も持って来たの?」アンジェラはクリスの両手を取って、急いたように尋ねた。
「ダグラスはここへ来ることくらいなんでもないよ。それから、持って来てもらったのは、旅の間の荷物だけだ。後は直接向こうに送ってもらう」クリスは要点だけを答え、次の質問に備えた。知りたがりの妻を――いまは少年になっているが――持つのも大変だ。
「出発日はもう決めたの?」
「それはハニーと決めようと思う。ロジャーとここからラムズデンまでの経路や護衛、必要なものを話し合って準備したから、いつでも出発できる。年が明けてまだ三日しか経っていないから、もっとゆっくりしたいならあと一週間先延ばしにしてもいい、どうする?」
「セシルはもうリックたちがいるところへ戻りたいみたいだし、心配だったお母様はここでアビーとうまくやっているから、わたしはいつもで出発できるわ。ラムズデンに入るまではこの格好で行こうと思うけど、いい?」
ハニーにそう言われて、どうしてダメだと言えるだろう。おそらくマーサが協力してこのツイードの衣装を用意したのだろうし、エリックみたいな髪型にしたのも考えたくはないがそのためだろう。
「ハニー、その格好でもいいけど、いったい誰になりきるつもりだい?」
「もちろん、セシルよ。わたしは侯爵の愛人のセシルになりきるの」アンジェラは目をキラキラと輝かせ、得意げに言い切った。
また変なことを、そう思ってもクリスはただ天を仰ぐしかなかった。でもまあ、愛人ということは二人の間のあれこれを制限されたりはしないわけか。悪くないな。
とにかく、ハニーの芝居に付き合った方が旅を楽しめそうだ。
つづく
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フェルリッジから到着したばかりのダグラスと、今度の長旅についての打ち合わせを終えたクリスは、旅程についてアンジェラと話すため部屋に戻ったのだが、見慣れない光景にそれ以後の言葉を失った。
いや、見慣れないのではなく、一度だけ見たことのあるその姿は、あまりにもクリスの心に強烈な傷跡を残していた。
新妻アンジェラが自分は男だと告白したあの日、いまと同じように男装していた。
アンジェラの男装は可愛いし、かなりそそられるのだが、あの時自分が口にしたひどい言葉を思い出すと自己嫌悪どころではない。あの夜をもう一度やり直せるならと考えなくもないが、結婚直後からひどいことばかりしていたのでもう忘れたいのが本音だ。
クリスの声に振り返ったアンジェラは、にっこりと笑ってメグが差し出していた帽子をちょこんと頭に乗せた。
「どう?似合う?」
「ああ、とても。でも、なぜこんな格好を?」暇だから兄たちの古着――見るからに仕立てあがったばかりだが――で遊んでいるのか?
「変装だよ、侯爵」アンジェラは声を作って、そのおかしさに吹き出した。「これならわたしってばれないでしょ?」その場でくるりと回る。
ばれない?ああ、そういうことか。
「出発は夜の予定だから、変装はいらないよ。でも、とても似合っている。セシルのおさがりかい?」
「そうかしら?出発は夜でも、駅に着くのは日がのぼってからでしょ。それと、これはセシルのおさがりじゃないわ」アンジェラはなぜか腹を立てたようで、クリスは助けを求めてメグを見た。
メグはすでに二人のそばを離れ、隣の部屋へ続くドアから出て行くところだった。案外白状なのだが、本当に困ったときは助けてくれる。いまはそれほどでもないと判断したらしい。
「ハニー、少し座って話をしようか」クリスはアンジェラの肩を抱いて、モスグリーンのソファに座らせた。二人で座ってもまだ余裕があるこのソファは、ソフィアのお気に入りらしい。
「ダグラスは無事到着したのよね?荷物も持って来たの?」アンジェラはクリスの両手を取って、急いたように尋ねた。
「ダグラスはここへ来ることくらいなんでもないよ。それから、持って来てもらったのは、旅の間の荷物だけだ。後は直接向こうに送ってもらう」クリスは要点だけを答え、次の質問に備えた。知りたがりの妻を――いまは少年になっているが――持つのも大変だ。
「出発日はもう決めたの?」
「それはハニーと決めようと思う。ロジャーとここからラムズデンまでの経路や護衛、必要なものを話し合って準備したから、いつでも出発できる。年が明けてまだ三日しか経っていないから、もっとゆっくりしたいならあと一週間先延ばしにしてもいい、どうする?」
「セシルはもうリックたちがいるところへ戻りたいみたいだし、心配だったお母様はここでアビーとうまくやっているから、わたしはいつもで出発できるわ。ラムズデンに入るまではこの格好で行こうと思うけど、いい?」
ハニーにそう言われて、どうしてダメだと言えるだろう。おそらくマーサが協力してこのツイードの衣装を用意したのだろうし、エリックみたいな髪型にしたのも考えたくはないがそのためだろう。
「ハニー、その格好でもいいけど、いったい誰になりきるつもりだい?」
「もちろん、セシルよ。わたしは侯爵の愛人のセシルになりきるの」アンジェラは目をキラキラと輝かせ、得意げに言い切った。
また変なことを、そう思ってもクリスはただ天を仰ぐしかなかった。でもまあ、愛人ということは二人の間のあれこれを制限されたりはしないわけか。悪くないな。
とにかく、ハニーの芝居に付き合った方が旅を楽しめそうだ。
つづく
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2023-04-09 01:59
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