はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 364 [花嫁の秘密]

「君がまだここにいたいと言うなら、僕はかまわないよ。でも、君をホテルまで送り届けるのは僕の役目だってことを忘れないで」

サミュエルは怒っているのかしら。それともただ嫉妬しているだけ?

「もちろん、わかっているわ。だからこうしてあなたと歩いているのではなくって?」ジュリエットは猫がのどを鳴らすように、ごきげんな笑い声をあげた。たとえ怒っていたとしてもサミュエルのこういった紳士らしい行為は受けていて心地いい。

サミーが無言で腕を差し出し、ジュリエットは嬉々としてその腕を取った。

ここ最近で気付いたのは、サミュエルを試すような真似をしても、あまりうまくいかないということ。特に今夜の事は失敗だった。

花火を一緒に見られなかったこと気にしているかしら?サミュエルはきっとわたしがラウールを選んだと思っているでしょうね。一緒に来てくれれば、それは違うとすぐにわかったはずなのに、そうできなかったのはあの男のせい。元女優だかなんだか知らないけれど、あんな女を連れてわざわざ邪魔をしに来るなんて悪趣味もいいところ。

エリック・コートニーがわたしに敵意を抱いているのは明らか。けどそれも仕方のないこと。彼の妹はわたしの元恋人と結婚していて、当然よく思ってはいないはず。クリスはなぜあの子と結婚したのかしら。

ジュリエットはサミーの腕にぎゅっとしがみついた。ふいに自分が若かった頃を思い出したからだ。憎らしい侯爵夫人は、ジュリエットが最初の夫と結婚した時と同じ年齢だ。

望まない結婚で得たのはお金と力。いま思えばたいしたことはなかったけれど、あの時のわたしにはあれで十分だった。そう思わないと自分がみじめになるだけ。

わたしの方が先に出会った。クリスも侯爵夫人の地位もわたしのものだった。わたしなら家に鍵を掛けて閉じこもる真似はしない。社交場へ出ないということは夫の居場所を奪っているも同然。世間でどう思われるか気にしたことはないのかしら。

「ジュリエット、気分でも悪い?」

サミュエルの心配する声に、胸を巣食うどす黒い何かが霧散する。彼はクリスにないものを持っている。ジュリエットの気持ちを逆撫でしたりすることもない。

「いいえ、あなたと離れなければよかったと思っていたの」

「でもラウールが用意した場所で、花火はよく見れたんだろう?彼に感謝しないとな」

「ええ、そうね」ゆったりと椅子に座って鑑賞できたし、暖められたひざ掛けまで用意してあって、ラウールの努力は評価したいけど、なにか決め手に欠ける。爵位も持っているし財産も持っているのに、サミュエルを手放すほどではない。

サミュエルはわたしのことどう思っているのかしら。いま以上踏み込んでこないのは、クリスと付き合っていたことが障害になっているからとしか思えない。だとしたら、これ以上の進展は望めないことになる。

それならそれで仕方がないけど、計画は少し変わることになるわね。ひとつ変わらないのは、侯爵夫人を消すことだけ。何もかも手に入れるのは無理だと教えてあげなきゃ。

つづく


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