はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 272 [花嫁の秘密]
ジュリエット・オースティンは劇的な場面を演出するのを得意としている。
サミュエルがフェルリッジを発ったという知らせは、彼がロンドンへ到着する前にすでに耳に入っていた。なぜ急に家族の元を離れたのだろう。クリスと喧嘩でもしたのかしら。けどそれは到底ありえそうにもないことだった。二人の仲がうまくいっているとは思わないけど、サミュエルは穏やかで仮にクリスが喧嘩を吹っ掛けたとしても応じたりしない。
ジュリエットはすぐさまサミュエルを追い、翌早朝にはラッセルホテルのいつもの部屋に舞い戻っていた。ロンドンからそう遠くない田舎屋敷は現ナイト子爵から与えられたもので、完全にジュリエットのものだ。彼が結婚をしたことで、あらゆる場所の子爵邸を自由に使えなくなってしまい、さらには自由にできるお金も減った。
支援の申し出をしてくれた人は何人かいる。見返りを求める卑しい男の世話になるくらいなら、かつての恋人に頼み込む方がましだった。けれども、結婚したクリスは話を十分に聞きもしないうちに拒絶した。あんなみすぼらしい子供を妻にしたのは父親への反発だろうか。もう死んでこの世にいない人の事なんてどうでもいいのに、なぜ素直に一族のしきたりに従わなかったのだろう。
もちろんわたしが相応しくないことは理解している。クリスと出会ったのは最初の結婚が終わった時だった。約二年の付き合いでわかったのは、情熱的なこの赤髪だけでは結婚は無理だということ。
ジュリエットは自分でも予想もしなかったほど、感傷的な気持ちになった。こんな場所でクリスのことを考えるなんて馬鹿げている。せっかくデレク・ストーンが機会を与えてくれたのに、ぐずぐずしていたらサミュエルを取り逃がしてしまう。
でも、なぜデレクはわたしに協力するのかしら。尋ねてもきっと教えてはくれないでしょうけど、ただ親切なわけではないことは理解している。
舞踏室の入り口には、ジュリエットをエスコートするためデレクが待っていた。
「ようやくお出ましか」
「お父様はどちらに?」
「父は広間で寄付金集めをしている。そして君のお目当ての人物は、舞踏室の片隅で退屈そうにしている。君が来たと知れば、とても喜ぶだろうね」黒い瞳に浮かぶのは善意か悪意か。
「もっと楽しい場所へ案内してあげればいいのではなくて?あの人はダンスをするようなタイプではないわ」ジュリエットは思わず指摘せずにはいられなかった。
主催者が客を退屈させるなどあってはならないこと。特にサミュエルのような裕福な人物は、もてなしすぎるくらいがちょうどいい。デレクはこの集まりで大金が動くことを知らないはずないのに、もう少し慎重に行動すべきだわ。
「よく知っているような口ぶりだな。元恋人の弟だから当然か」デレクの視線はサミュエルに向けられていた。
「あなたとこういう話をするのが適切だとは思わないわ」なぜかひどく侮辱されている気分。確かにサミュエルの事を何もかも知っているとは言えない。いえ、ほとんど知らないと言ってもいい。ホテルでたまたま一緒になって楽しい時間を過ごしただけ。サミュエルは淑女らしからぬ愚痴にも真剣に耳を傾けてくれた。結果的にクリスの悪口を言ってしまったようなものだったけど、サミュエルは気にも留めていなかった。
それから何度か会って、散歩やお茶といった健全すぎるデートを楽しんだ。
そのなかでも、キャンベル夫人のパーティーはとても刺激的だった。彼はたかがゲームでも容赦なかった。おかげでわたしの懐は少し余裕もできたし、サミュエルとの仲もより近づいたのではないかしら。
「さあ、行こうか。あいつの驚く顔が目に浮かぶよ」
ジュリエットはデレクの差し出した腕を取って、ようやく舞踏室へと足を踏み入れた。
つづく
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サミュエルがフェルリッジを発ったという知らせは、彼がロンドンへ到着する前にすでに耳に入っていた。なぜ急に家族の元を離れたのだろう。クリスと喧嘩でもしたのかしら。けどそれは到底ありえそうにもないことだった。二人の仲がうまくいっているとは思わないけど、サミュエルは穏やかで仮にクリスが喧嘩を吹っ掛けたとしても応じたりしない。
ジュリエットはすぐさまサミュエルを追い、翌早朝にはラッセルホテルのいつもの部屋に舞い戻っていた。ロンドンからそう遠くない田舎屋敷は現ナイト子爵から与えられたもので、完全にジュリエットのものだ。彼が結婚をしたことで、あらゆる場所の子爵邸を自由に使えなくなってしまい、さらには自由にできるお金も減った。
支援の申し出をしてくれた人は何人かいる。見返りを求める卑しい男の世話になるくらいなら、かつての恋人に頼み込む方がましだった。けれども、結婚したクリスは話を十分に聞きもしないうちに拒絶した。あんなみすぼらしい子供を妻にしたのは父親への反発だろうか。もう死んでこの世にいない人の事なんてどうでもいいのに、なぜ素直に一族のしきたりに従わなかったのだろう。
もちろんわたしが相応しくないことは理解している。クリスと出会ったのは最初の結婚が終わった時だった。約二年の付き合いでわかったのは、情熱的なこの赤髪だけでは結婚は無理だということ。
ジュリエットは自分でも予想もしなかったほど、感傷的な気持ちになった。こんな場所でクリスのことを考えるなんて馬鹿げている。せっかくデレク・ストーンが機会を与えてくれたのに、ぐずぐずしていたらサミュエルを取り逃がしてしまう。
でも、なぜデレクはわたしに協力するのかしら。尋ねてもきっと教えてはくれないでしょうけど、ただ親切なわけではないことは理解している。
舞踏室の入り口には、ジュリエットをエスコートするためデレクが待っていた。
「ようやくお出ましか」
「お父様はどちらに?」
「父は広間で寄付金集めをしている。そして君のお目当ての人物は、舞踏室の片隅で退屈そうにしている。君が来たと知れば、とても喜ぶだろうね」黒い瞳に浮かぶのは善意か悪意か。
「もっと楽しい場所へ案内してあげればいいのではなくて?あの人はダンスをするようなタイプではないわ」ジュリエットは思わず指摘せずにはいられなかった。
主催者が客を退屈させるなどあってはならないこと。特にサミュエルのような裕福な人物は、もてなしすぎるくらいがちょうどいい。デレクはこの集まりで大金が動くことを知らないはずないのに、もう少し慎重に行動すべきだわ。
「よく知っているような口ぶりだな。元恋人の弟だから当然か」デレクの視線はサミュエルに向けられていた。
「あなたとこういう話をするのが適切だとは思わないわ」なぜかひどく侮辱されている気分。確かにサミュエルの事を何もかも知っているとは言えない。いえ、ほとんど知らないと言ってもいい。ホテルでたまたま一緒になって楽しい時間を過ごしただけ。サミュエルは淑女らしからぬ愚痴にも真剣に耳を傾けてくれた。結果的にクリスの悪口を言ってしまったようなものだったけど、サミュエルは気にも留めていなかった。
それから何度か会って、散歩やお茶といった健全すぎるデートを楽しんだ。
そのなかでも、キャンベル夫人のパーティーはとても刺激的だった。彼はたかがゲームでも容赦なかった。おかげでわたしの懐は少し余裕もできたし、サミュエルとの仲もより近づいたのではないかしら。
「さあ、行こうか。あいつの驚く顔が目に浮かぶよ」
ジュリエットはデレクの差し出した腕を取って、ようやく舞踏室へと足を踏み入れた。
つづく
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2022-11-27 18:22
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