はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 270 [花嫁の秘密]

「サミー、支度は出来たのか?そろそろ出ないと――」

なかなか姿を見せないサミーを呼びに部屋までやってきたのだが、相変わらずこいつの正装姿には見惚れずにはいられない。昨夜とはまた違った雰囲気だが、何が違うのだろうか。

「勝手に入ってこないでもらえるかな」鏡台の前に立っていたサミーは振り返りもせず言った。

「勝手も何も、お前が遅いからだろう?何をてこずってる?」エリックはサミーの言葉などまるで無視して部屋の中へずかずかと入った。いつまでも他人行儀な態度を取るなら、思い知らせてやる。

「別に。すぐに降りるから下で待っていてくれ」

使用人にクリスマス休暇をやったらしいが、せめて出かけてからにすれば支度も順調に整っただろうに。

「カフスボタンで悩んでいるのか?」エリックはサミーの背後に立ちぴったりと身を寄せた。手元には紫檀の小箱が置いてあり、カフスボタンがいくつか無造作に転がっている。ダグラスが見たらゾッとしそうだ。「そのサファイアのにしろ」

サミーが反抗する前にエリックはサファイアの埋め込まれたカフスボタンを手に取った。サミーを振り向かせると手首を掴んでそこに口づけた。サミーは目だけで不満を訴えたが、手を引っ込めはしなかった。

「前から思っていたが、お前にルビーは似合わない」まずは右から。袖口を折り返しカフスボタンをはめる。次に左の手首を取って自分の方へ引き寄せた。さっさとしろとサミーが睨んできたがエリックは取り合わなかった。このくらいのご褒美は貰って当然だ。

「なぜ?僕の髪が赤くないからか?」

「いや、お前のこの瞳にはサファイアが似合うからだ。まさか、いまさら赤毛だったらとか思ったりしていないだろうな?」俺がどれだけお前の繊細なこの髪に惚れているか今教えてやってもいいが、残念ながら時間がない。

サミーはそっと目を伏せた。「だとしても、何も変わらないだろう?僕とクリスの歩んできたすべてが逆だったとも限らないし」

すべてが逆でなかったとしても、サミーがメイフィールド侯爵だということははっきりしている。もしかすると妻がいて子もいたかもしれないと思うと、エリックの胸は鋭いかぎ爪で引き裂かれたような痛みに襲われた。もしもなど、考えるべきじゃなかった。

「せいぜい歳がひとつ上なだけで、お前はもっと意地の悪い偏屈な男になっていただろうな」

サミーはムッとしてエリックの手を振り払った。「かもね。あ、そうだ、セシルが僕が君のことをどう思っているのか聞いてきたよ」

「なんだって?」声が裏返った。

サミーは期待した通りの反応を引き出せたからか、満足そうに片方の口の端をあげた。「君が僕の後ろを子犬みたいにくっついて歩いているから、気になったみたいだ」追撃することも忘れない。

あんのっ!くそっ!兄を怒らせてただで済むと思うな。「それで?お前はなんて答えた」エリックは噛みつかんばかりに訊いた。

「別に、どうとも」そう言って、ハンガーにかかる上着を取ると、なめらかな仕草で袖を通した。

「別に?どうとも?」答えなかったてことか?いや、違う。こいつは、この期に及んで別にどうとも思っていないと答えたんだ。昨日の今日でよくもそんなことが言えたもんだ。

「僕を八つ裂きにしたそうな顔をしているところ悪いけど、そろそろ行かないと君の計画とやらが崩れてしまうんじゃないかな」サミーはひらりと手を振り部屋を出た。

「八つ裂きにしたいのはセシルだ。お前は、今夜寝かさないから覚えておけ」エリックは怒鳴るように言い、とにかく追いかけた。

つづく


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