はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 228 [花嫁の秘密]
クリスは書斎から居間へ向かっているところだった。
いまや小さな応接室はこの屋敷の居間となり、大きなモミの木に占拠されているのだ。
かつて、クリスの父が生きていたころは、この屋敷に居間というものは存在しなかった。家族が集う事も団欒する事もなかったのだから、当然と言えば当然だ。
廊下の向こうからメグが背筋をぴんと伸ばし、この屋敷の執事に劣らぬ堂々たる足取りで近づいてくるのが見えた。どうやらモミの木部屋から出て来たところらしい。
「メグ、クリスマスの飾りつけはもう済んでいたか?」
クリスは歩きながら前方のメグに問いかけた。
「いいえ、まだまだこれからといった様相でした」
「誰がいた?」足を止め、メグの頭頂部の分け目の綺麗さに見惚れながら尋ねる。
「奥様とレディ・ラウンズベリー、それとミセス・モーガンがいらっしゃいます」
メグはわずかに眉間に皺を寄せ、そう答えた。
相変わらずメグは堅苦しい。
アンジェラとその母、マーサでいいではないか。とはいえ、さすがに侯爵夫人を呼び捨てには出来ないか……。
「私は部屋へ行くべきだと思うか?それとも、背を向け書斎へ引き返すべきだと思うか?」
「書斎へ引き返される方が賢明かと存じます」
予想通りの答えが返ってきた。あまりの的確さに、クリスは頬を緩め微笑まずにはいられなかった。
「そうだろうね。だが、妻を一人で奮闘させるわけにもいかないからな。にぎやかな我が屋敷の居間へ向かうとするよ」
クリスはやれやれといった表情でメグを見やると、大股で廊下を突き進んだ。
居間の扉の前までやって来ると、わずかに開いた戸の隙間から、案の定ソフィアの声が漏れ聞こえてきた。
だがその声は、いままでクリスが聞いたことのないほど悲しげで、慈しみに満ちたものだった。
クリスは部屋へ入るのを躊躇った。いまこの部屋に入るべきではないと本能で悟った。しかしその場から去ることは出来なかった。
ソフィアはアンジェラに、侯爵家に嫁いだ責務を果たすように諭しているところだった。アンジェラが弱弱しく返事をするのが聞こえる。
クリスは扉を蹴破りたい衝動に駆られた。いますぐに部屋へ押し入り、アンジェラはあなたの娘ではなく息子なのだと叫びたかった。
けれど、そうしなかったのは、アンジェラをはじめコートニー家の誰もがそれを秘密にしているからだ。まして、ソフィアの言葉ひとつひとつが、なかなか子を授からない娘を思い遣ってのものなのだから、クリスに何が言えようか。
「あなたの傷を癒せるのは、クリスだけなのよ。それとあなたたちのかわいい子供」
ソフィアはそれを最後に口を閉じたようだ。カチャカチャと食器が鳴り、紅茶を啜る音が聞こえる。
クリスは足を引いた。この場から去るために。
だが、次の瞬間思い掛けない事が起こった。いや、思い掛けないセリフを耳にすることになった?いや、違う。そんな言葉では言い表せない。
天地がひっくり返るような騒乱が巻き起こった。うむ。これがしっくりくる。
クリスは騒ぎが外へ洩れない為にも、すばやく居間へ滑り込み、ぴったりと扉を閉じた。
つづく
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いまや小さな応接室はこの屋敷の居間となり、大きなモミの木に占拠されているのだ。
かつて、クリスの父が生きていたころは、この屋敷に居間というものは存在しなかった。家族が集う事も団欒する事もなかったのだから、当然と言えば当然だ。
廊下の向こうからメグが背筋をぴんと伸ばし、この屋敷の執事に劣らぬ堂々たる足取りで近づいてくるのが見えた。どうやらモミの木部屋から出て来たところらしい。
「メグ、クリスマスの飾りつけはもう済んでいたか?」
クリスは歩きながら前方のメグに問いかけた。
「いいえ、まだまだこれからといった様相でした」
「誰がいた?」足を止め、メグの頭頂部の分け目の綺麗さに見惚れながら尋ねる。
「奥様とレディ・ラウンズベリー、それとミセス・モーガンがいらっしゃいます」
メグはわずかに眉間に皺を寄せ、そう答えた。
相変わらずメグは堅苦しい。
アンジェラとその母、マーサでいいではないか。とはいえ、さすがに侯爵夫人を呼び捨てには出来ないか……。
「私は部屋へ行くべきだと思うか?それとも、背を向け書斎へ引き返すべきだと思うか?」
「書斎へ引き返される方が賢明かと存じます」
予想通りの答えが返ってきた。あまりの的確さに、クリスは頬を緩め微笑まずにはいられなかった。
「そうだろうね。だが、妻を一人で奮闘させるわけにもいかないからな。にぎやかな我が屋敷の居間へ向かうとするよ」
クリスはやれやれといった表情でメグを見やると、大股で廊下を突き進んだ。
居間の扉の前までやって来ると、わずかに開いた戸の隙間から、案の定ソフィアの声が漏れ聞こえてきた。
だがその声は、いままでクリスが聞いたことのないほど悲しげで、慈しみに満ちたものだった。
クリスは部屋へ入るのを躊躇った。いまこの部屋に入るべきではないと本能で悟った。しかしその場から去ることは出来なかった。
ソフィアはアンジェラに、侯爵家に嫁いだ責務を果たすように諭しているところだった。アンジェラが弱弱しく返事をするのが聞こえる。
クリスは扉を蹴破りたい衝動に駆られた。いますぐに部屋へ押し入り、アンジェラはあなたの娘ではなく息子なのだと叫びたかった。
けれど、そうしなかったのは、アンジェラをはじめコートニー家の誰もがそれを秘密にしているからだ。まして、ソフィアの言葉ひとつひとつが、なかなか子を授からない娘を思い遣ってのものなのだから、クリスに何が言えようか。
「あなたの傷を癒せるのは、クリスだけなのよ。それとあなたたちのかわいい子供」
ソフィアはそれを最後に口を閉じたようだ。カチャカチャと食器が鳴り、紅茶を啜る音が聞こえる。
クリスは足を引いた。この場から去るために。
だが、次の瞬間思い掛けない事が起こった。いや、思い掛けないセリフを耳にすることになった?いや、違う。そんな言葉では言い表せない。
天地がひっくり返るような騒乱が巻き起こった。うむ。これがしっくりくる。
クリスは騒ぎが外へ洩れない為にも、すばやく居間へ滑り込み、ぴったりと扉を閉じた。
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2012-10-02 23:37
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