はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 227 [花嫁の秘密]
三日後、ロジャーとアビーはクリスマスをラウンズベリー領で過ごす為、早朝にフェルリッジを発った。
アビーとすっかり打ち解けたアンジェラは、年明けにロンドンで会いましょうと約束して、馬車が見えなくなるまで見送った。
いつものように朝食を済ませると、サミーは銀行へ行ってくると言って出掛けて行った。領地のひとつラムズデンで問題が起きたらしい。クリスはそのことで年明け早々に、アンジェラをフェルリッジに残したままラムズデンへ発つ。四,五日で戻って来てそのままロンドンへ向かう予定なので、アンジェラは支度をして待つことになっている。
午後、アンジェラはクリスマスの飾りつけの為に、家族用の応接室へ向かった。
「あら、アンジェラ遅いじゃないの。もう飾り付けを始めてるのよ」ソフィアがレースの布地を手に言った。
「お嬢様、いまソフィア様とこれをどの窓に掛けるかで悩んでいたところなんですよ」マーサは、これ以上ソフィア様の好きにさせたら大変な事になりますよと、アンジェラに困った顔を向けた。
「お母様、休憩してお茶でもどう?」
アンジェラは振り返り、メグにお茶を頼んだ。ソフィアに有無を言わせない素早さだ。さすが、十七年もソフィアの娘をしているだけはある。
「蝋燭は届いたの?」ソフィアは布地を丸テーブルに置き、お茶の為に部屋の中央のソファにどっしりと腰をおろした。ソフィアにとってお茶の時間はなによりも優先すべき事なのである。
「心配しないで、完璧よ」
そう言ったものの、届いた蝋燭はいったいどこへ保管されているのだろうか?
あとでメグに聞いてみようと密かに思い、アンジェラはソフィアの向かいの長椅子に腰をおろした。
「あら、そうなの。それならいいんですけどね。ツリーの飾りつけはとても重要なんですから。それはそうと、わたくしはあなたにとても大事な話があるのよ」
お母様は話の内容如何にかかわらず、いつだって話したいことが山積みだわ、とアンジェラは声に出さずに呟いた。それなのになぜか、ソフィアの耳にはしっかりと届いていた。
「何か言ったかしら?」とソフィア。
「何か言った?マーサ」アンジェラはしれっとした顔で、窓辺の椅子に座るマーサに尋ねた。
マーサは一瞬カチカチのスコーンを喉の奥に放り込まれたような顔をしたが、すぐさまにこりと微笑み切り返す。
「お嬢様は、ソフィア様のお話を聞くのが大好きなんです、と申し上げたのです。いつだってソフィア様の膝の上に乗って、催促していらしたじゃありませんか」
「マーサ、わたしはもう子供じゃないのよ」
アンジェラはむきになってそう言ったが、マーサはそうかしら?と伺うような目で見返しただけだった。
もうっ。マーサには叶わない。もちろんお母様にも。
そうこうしているうちに、メグが三人分のティーセットを持って部屋へ入って来た。
手早く支度をすると、メグはまるで話の内容がわかっているのかのように素早く部屋を辞した。
アンジェラはいやな予感がした。
そして、その予感は往々にしてよく当たる。
「最近、あの人の夢をよく見るの。あの人が亡くなって、もう十八年が経ったわ。ああ、なんて長い年月でしょう。けれど、一日だってあの人のことを思い出さなかった日はないのよ。でもね、もう、夫に愛されていた日々がどんなものだったのか思い出せないのよ。悲しい事だわ」
ソフィアはかぶりを振り、ぼんやりと空を見つめた。
父が生きていた頃を思い出しているのか、まるで過去を彷徨うような顔つきでほんの僅かだが目に涙も浮かべている。
アンジェラもマーサも紅茶を口にするどころか、口を挟むことさえできなかった。
アンジェラの記憶が確かなら、母の口からこのような悲しみに満ちた言葉を聞くのは初めてだった。
ソフィアは喉を潤すというよりも、次の言葉を何とか絞り出そうと紅茶を啜った。
「クリスはあなたを大事にしてくれるのでしょう?」ソフィアは答えを求めて尋ねた。
「もちろんだわ」アンジェラは喉の奥が詰まるのを感じながらも、なんとか答えた。
「事件は痛ましいものだったわ」
ソフィアはそう言ったが、アンジェラが実際に何をされたのかは知らない。
そしてアンジェラは次に続く言葉が何であるのかを察した。
きっと母はアンジェラには決して出来ないことを要求するはずだ。
その要求をこのあときっとクリスにもする。
アンジェラは自分が騙した神以外の何者かに救いを求め、ただじっと、ソフィアの言葉に耳を傾けていた。
つづく
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アビーとすっかり打ち解けたアンジェラは、年明けにロンドンで会いましょうと約束して、馬車が見えなくなるまで見送った。
いつものように朝食を済ませると、サミーは銀行へ行ってくると言って出掛けて行った。領地のひとつラムズデンで問題が起きたらしい。クリスはそのことで年明け早々に、アンジェラをフェルリッジに残したままラムズデンへ発つ。四,五日で戻って来てそのままロンドンへ向かう予定なので、アンジェラは支度をして待つことになっている。
午後、アンジェラはクリスマスの飾りつけの為に、家族用の応接室へ向かった。
「あら、アンジェラ遅いじゃないの。もう飾り付けを始めてるのよ」ソフィアがレースの布地を手に言った。
「お嬢様、いまソフィア様とこれをどの窓に掛けるかで悩んでいたところなんですよ」マーサは、これ以上ソフィア様の好きにさせたら大変な事になりますよと、アンジェラに困った顔を向けた。
「お母様、休憩してお茶でもどう?」
アンジェラは振り返り、メグにお茶を頼んだ。ソフィアに有無を言わせない素早さだ。さすが、十七年もソフィアの娘をしているだけはある。
「蝋燭は届いたの?」ソフィアは布地を丸テーブルに置き、お茶の為に部屋の中央のソファにどっしりと腰をおろした。ソフィアにとってお茶の時間はなによりも優先すべき事なのである。
「心配しないで、完璧よ」
そう言ったものの、届いた蝋燭はいったいどこへ保管されているのだろうか?
あとでメグに聞いてみようと密かに思い、アンジェラはソフィアの向かいの長椅子に腰をおろした。
「あら、そうなの。それならいいんですけどね。ツリーの飾りつけはとても重要なんですから。それはそうと、わたくしはあなたにとても大事な話があるのよ」
お母様は話の内容如何にかかわらず、いつだって話したいことが山積みだわ、とアンジェラは声に出さずに呟いた。それなのになぜか、ソフィアの耳にはしっかりと届いていた。
「何か言ったかしら?」とソフィア。
「何か言った?マーサ」アンジェラはしれっとした顔で、窓辺の椅子に座るマーサに尋ねた。
マーサは一瞬カチカチのスコーンを喉の奥に放り込まれたような顔をしたが、すぐさまにこりと微笑み切り返す。
「お嬢様は、ソフィア様のお話を聞くのが大好きなんです、と申し上げたのです。いつだってソフィア様の膝の上に乗って、催促していらしたじゃありませんか」
「マーサ、わたしはもう子供じゃないのよ」
アンジェラはむきになってそう言ったが、マーサはそうかしら?と伺うような目で見返しただけだった。
もうっ。マーサには叶わない。もちろんお母様にも。
そうこうしているうちに、メグが三人分のティーセットを持って部屋へ入って来た。
手早く支度をすると、メグはまるで話の内容がわかっているのかのように素早く部屋を辞した。
アンジェラはいやな予感がした。
そして、その予感は往々にしてよく当たる。
「最近、あの人の夢をよく見るの。あの人が亡くなって、もう十八年が経ったわ。ああ、なんて長い年月でしょう。けれど、一日だってあの人のことを思い出さなかった日はないのよ。でもね、もう、夫に愛されていた日々がどんなものだったのか思い出せないのよ。悲しい事だわ」
ソフィアはかぶりを振り、ぼんやりと空を見つめた。
父が生きていた頃を思い出しているのか、まるで過去を彷徨うような顔つきでほんの僅かだが目に涙も浮かべている。
アンジェラもマーサも紅茶を口にするどころか、口を挟むことさえできなかった。
アンジェラの記憶が確かなら、母の口からこのような悲しみに満ちた言葉を聞くのは初めてだった。
ソフィアは喉を潤すというよりも、次の言葉を何とか絞り出そうと紅茶を啜った。
「クリスはあなたを大事にしてくれるのでしょう?」ソフィアは答えを求めて尋ねた。
「もちろんだわ」アンジェラは喉の奥が詰まるのを感じながらも、なんとか答えた。
「事件は痛ましいものだったわ」
ソフィアはそう言ったが、アンジェラが実際に何をされたのかは知らない。
そしてアンジェラは次に続く言葉が何であるのかを察した。
きっと母はアンジェラには決して出来ないことを要求するはずだ。
その要求をこのあときっとクリスにもする。
アンジェラは自分が騙した神以外の何者かに救いを求め、ただじっと、ソフィアの言葉に耳を傾けていた。
つづく
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2012-09-30 23:28
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