はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
Sの可愛い子犬 10 [Sの可愛い子犬]
アストンがロンドンへ発った。
暫くはジョンとステフ二人きりで過ごす。
いつもは別々の食事も一緒にした。階下にいた時とは比べ物にならないほど豪勢な食事だったが、ステフはあまり食事に興味がないようで、同じものばかり口にしていた。
ジョンも慎ましい食事に慣れていたので、そのほとんどは階下の使用人たちに回された。
アストンの監視の目がなくなった使用人たちは最低限の仕事だけして、あとは自由に過ごしていた。時折、ジョンの姿を見かけてはその待遇の差に腹を立てていた。
「なんだって、あの子供だけが特別扱いなのさ」
「まったくだな……いいもの着て、美味しいもの食べて」
「実はちょっと耳に挟んだんだけど、貴族だったって噂だよ」
「貴族?あんな子が?いつもビクビクして、貴族のかけらもなさそうだけど――」
「ほら、こっちへ来るよ」
図書室から持ち出した本を戻すため、ジョンは階段をおりていた。話し声が聞こえ引き返そうかとも思ったが、気にしても仕方がないので用を済ませることを優先した。
階段を下りきったところで、掃除をしていた使用人たちに囲まれた。
「なあ、お前――貴族だったのか?」
ジョンは声をかけてきた男を見た。屋敷に残った使用人の中では一番若く、おそらくジョンとさほど歳は離れていない。貴族だというだけで敵視しているようには見えなかったが、咄嗟のことに質問に答えることができなかった。
「貴族様がこんなところにいるもんかい。違うに決まっているさ」擦り切れたエプロン姿の女は馬鹿馬鹿しいとばかりに言い捨て、ジョンが否定の言葉を口にするのを待っている。
ジョンはすっかり狼狽え、持っていた本を落としてしまった。
その姿に使用人たちの目の色が変わった。
「へぇ、どうやら本当みたいだね。あたしは貴族なんてものが大嫌いなんだよ」箒を持った女がジョンのふくらはぎをその柄で叩いた。
「いたっ――」
「痛いんだってさ。――もう貴族でもないくせに、働きもせず美味しいもの食べて、このくらい我慢しな。さっ、あたし達は仕事仕事」
笑いながら使用人たちは行ってしまった。
アストンがあの人を雇っている理由が分かった。彼女も貴族が嫌いだからだ。嫌われる理由がそれなら、僕にはどうしようもない。
叩かれた脚はジンジンしていた。でもそれよりも心が痛かった。ここへ来た初日に殴られたことも、今思えばたいしたことない。体に直接与えられる痛みよりも、心をえぐられる方が何倍も辛い。
部屋へ戻るとステフがいた。ジョンは思わずあとずさった。
怖い。またきっとひどい目にあう。
いや違う――嫌でも気持ちよくなっておかしくなる。まるで僕が僕でなくなってしまったかのように。
「来いよ」
手招きをされたが、足が竦んで動けなかった。
「来いって言ってるだろっ」ステフは怒鳴り、跳ぶようにしてジョンのもとまでやってくると襟首を掴みぐっと上に持ち上げた。
ジョンは間近でステフを正視した。怒っているときもそうでないときも、緑色の瞳は宝石のようにきらきらしていて、とてもひどいことをするようには見えない。
でも、実際は違う。
ステフはジョンをベッドに投げ出し馬乗りになると、顔を覗き込み冷たく言い放った。
「知ってるか?お前が俺に逆らったらどうなるのか。お前の兄もここへ連れてこようか?」
どうして……どうしてそんなことを言うのだろうか?
貴族だったら苛められて、借金があったら苛められて、それを一人で我慢しなければならない――どうして?
涙がどれだけ溢れたとしても、誰も助けてはくれない。
「ご……ごめんなさい」ジョンは震える声でなんとか謝った。
つづく
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暫くはジョンとステフ二人きりで過ごす。
いつもは別々の食事も一緒にした。階下にいた時とは比べ物にならないほど豪勢な食事だったが、ステフはあまり食事に興味がないようで、同じものばかり口にしていた。
ジョンも慎ましい食事に慣れていたので、そのほとんどは階下の使用人たちに回された。
アストンの監視の目がなくなった使用人たちは最低限の仕事だけして、あとは自由に過ごしていた。時折、ジョンの姿を見かけてはその待遇の差に腹を立てていた。
「なんだって、あの子供だけが特別扱いなのさ」
「まったくだな……いいもの着て、美味しいもの食べて」
「実はちょっと耳に挟んだんだけど、貴族だったって噂だよ」
「貴族?あんな子が?いつもビクビクして、貴族のかけらもなさそうだけど――」
「ほら、こっちへ来るよ」
図書室から持ち出した本を戻すため、ジョンは階段をおりていた。話し声が聞こえ引き返そうかとも思ったが、気にしても仕方がないので用を済ませることを優先した。
階段を下りきったところで、掃除をしていた使用人たちに囲まれた。
「なあ、お前――貴族だったのか?」
ジョンは声をかけてきた男を見た。屋敷に残った使用人の中では一番若く、おそらくジョンとさほど歳は離れていない。貴族だというだけで敵視しているようには見えなかったが、咄嗟のことに質問に答えることができなかった。
「貴族様がこんなところにいるもんかい。違うに決まっているさ」擦り切れたエプロン姿の女は馬鹿馬鹿しいとばかりに言い捨て、ジョンが否定の言葉を口にするのを待っている。
ジョンはすっかり狼狽え、持っていた本を落としてしまった。
その姿に使用人たちの目の色が変わった。
「へぇ、どうやら本当みたいだね。あたしは貴族なんてものが大嫌いなんだよ」箒を持った女がジョンのふくらはぎをその柄で叩いた。
「いたっ――」
「痛いんだってさ。――もう貴族でもないくせに、働きもせず美味しいもの食べて、このくらい我慢しな。さっ、あたし達は仕事仕事」
笑いながら使用人たちは行ってしまった。
アストンがあの人を雇っている理由が分かった。彼女も貴族が嫌いだからだ。嫌われる理由がそれなら、僕にはどうしようもない。
叩かれた脚はジンジンしていた。でもそれよりも心が痛かった。ここへ来た初日に殴られたことも、今思えばたいしたことない。体に直接与えられる痛みよりも、心をえぐられる方が何倍も辛い。
部屋へ戻るとステフがいた。ジョンは思わずあとずさった。
怖い。またきっとひどい目にあう。
いや違う――嫌でも気持ちよくなっておかしくなる。まるで僕が僕でなくなってしまったかのように。
「来いよ」
手招きをされたが、足が竦んで動けなかった。
「来いって言ってるだろっ」ステフは怒鳴り、跳ぶようにしてジョンのもとまでやってくると襟首を掴みぐっと上に持ち上げた。
ジョンは間近でステフを正視した。怒っているときもそうでないときも、緑色の瞳は宝石のようにきらきらしていて、とてもひどいことをするようには見えない。
でも、実際は違う。
ステフはジョンをベッドに投げ出し馬乗りになると、顔を覗き込み冷たく言い放った。
「知ってるか?お前が俺に逆らったらどうなるのか。お前の兄もここへ連れてこようか?」
どうして……どうしてそんなことを言うのだろうか?
貴族だったら苛められて、借金があったら苛められて、それを一人で我慢しなければならない――どうして?
涙がどれだけ溢れたとしても、誰も助けてはくれない。
「ご……ごめんなさい」ジョンは震える声でなんとか謝った。
つづく
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2022-08-03 22:56
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