はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
伯爵と少年 2 [伯爵と少年]
老婦人マリーとの出会いはアンディにとって幸運だった。
たまたま越して来たその日『何か手伝いをさせて下さい』とアンディが家のドアを叩いたのがきっかけだった。
すでに家族がなく一人きりだった彼女は、素直で礼儀正しいアンディにすぐに惹かれた。それはきっとどこかでアンディが路上で生活をするような子ではなく由緒正しき家の出ではないかと思っていたからにほかならない。いったいどんな事情があったのかは彼女の知るところではなかったが、ちょっとした雑務の報酬として地下の物置を寝床として使うことを許した。
アンディはとてもきれいな顔立ちをしていた。鮮やかな青い瞳は田舎の夏の空を思わせ、マリーは若いころのことを思い出さずにはいられなかった。今は亡き夫と出会ったあの夏。マリーがまだアンディと同じ歳の頃のこと。きらきらと眩しいほど輝いていた。
アンディも汚れを落とし、身なりを整えさえすればこんな生活からはすぐに脱出できるはず。ずっとここにいたっていい。けれどもなぜかアンディはそれを望んでいないように思えた。
だからマリーは下働きの少年と雇い主――というほどのものではないが――という姿勢を崩さなかった。
翌朝アンディとケヴィンは一緒に市場へ出掛けた。ふたりは昨日稼いだお金でパンを買いに来たのだ。
以前は数日何も食べられない日もあったが、マリーと出会いあの貴族の男と出会って困ることも少なくなった。
アンディにはあの男が本当に貴族なのかどうかは分からなかった。ただ、少しの間、ほんの数分我慢すれば銀貨が貰える。男の要求が増えれば、銀貨は1枚ずつ増えるのだ。
報酬のほとんどは使わず貯めてある。アンディにはやらなければならないことがあるから。
五年前自分が捨てられていた場所、ロンドンから遠く離れたあの場所に行って、なくした記憶を取り戻すこと。
当時アンディは十歳くらい。
小さな泉のそばの大きな樫の木の下で目覚めたとき、記憶にあったのは自分の名前だけ。頭のなかは真っ白で訳が分からず泣きじゃくった。泣いても無駄だとわかるまで泣いた後、その場所から離れた。
森を抜け開けた場所まで出ると鉄道沿いに町から町へと移り、何日も何日もそうするうち今の場所に辿り着いた。
それから五年もの間、街をさまよい日々を暮らしている。
アンディとケヴィンは朝一緒にパンを食べるとしばらくして別れた。夜にはまたマリーおばさんの家で合流する。
いよいよあの場所へ向かう。歩いてではなく鉄道を使って。うまくあの場所に辿り着けるか自信がなかったが、お金を貯める間にあの場所にあたりをつけていた。
立てた計画通りに進めば夜までには戻ってこられるはず。
もしもの時のことを考えて、ケヴィンのことはマリーおばさんにお願いしてきた。
マリーおばさんは嫌な顔ひとつせずアンディのお願いを聞き入れてくれた。
つづく
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たまたま越して来たその日『何か手伝いをさせて下さい』とアンディが家のドアを叩いたのがきっかけだった。
すでに家族がなく一人きりだった彼女は、素直で礼儀正しいアンディにすぐに惹かれた。それはきっとどこかでアンディが路上で生活をするような子ではなく由緒正しき家の出ではないかと思っていたからにほかならない。いったいどんな事情があったのかは彼女の知るところではなかったが、ちょっとした雑務の報酬として地下の物置を寝床として使うことを許した。
アンディはとてもきれいな顔立ちをしていた。鮮やかな青い瞳は田舎の夏の空を思わせ、マリーは若いころのことを思い出さずにはいられなかった。今は亡き夫と出会ったあの夏。マリーがまだアンディと同じ歳の頃のこと。きらきらと眩しいほど輝いていた。
アンディも汚れを落とし、身なりを整えさえすればこんな生活からはすぐに脱出できるはず。ずっとここにいたっていい。けれどもなぜかアンディはそれを望んでいないように思えた。
だからマリーは下働きの少年と雇い主――というほどのものではないが――という姿勢を崩さなかった。
翌朝アンディとケヴィンは一緒に市場へ出掛けた。ふたりは昨日稼いだお金でパンを買いに来たのだ。
以前は数日何も食べられない日もあったが、マリーと出会いあの貴族の男と出会って困ることも少なくなった。
アンディにはあの男が本当に貴族なのかどうかは分からなかった。ただ、少しの間、ほんの数分我慢すれば銀貨が貰える。男の要求が増えれば、銀貨は1枚ずつ増えるのだ。
報酬のほとんどは使わず貯めてある。アンディにはやらなければならないことがあるから。
五年前自分が捨てられていた場所、ロンドンから遠く離れたあの場所に行って、なくした記憶を取り戻すこと。
当時アンディは十歳くらい。
小さな泉のそばの大きな樫の木の下で目覚めたとき、記憶にあったのは自分の名前だけ。頭のなかは真っ白で訳が分からず泣きじゃくった。泣いても無駄だとわかるまで泣いた後、その場所から離れた。
森を抜け開けた場所まで出ると鉄道沿いに町から町へと移り、何日も何日もそうするうち今の場所に辿り着いた。
それから五年もの間、街をさまよい日々を暮らしている。
アンディとケヴィンは朝一緒にパンを食べるとしばらくして別れた。夜にはまたマリーおばさんの家で合流する。
いよいよあの場所へ向かう。歩いてではなく鉄道を使って。うまくあの場所に辿り着けるか自信がなかったが、お金を貯める間にあの場所にあたりをつけていた。
立てた計画通りに進めば夜までには戻ってこられるはず。
もしもの時のことを考えて、ケヴィンのことはマリーおばさんにお願いしてきた。
マリーおばさんは嫌な顔ひとつせずアンディのお願いを聞き入れてくれた。
つづく
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2022-03-29 22:13
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