はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

迷子のヒナ 5 [迷子のヒナ]

ヒナとは、ジャスティンが拾ってきた子供だ。

三年前――大切な友人の葬儀の帰りのことだった。
四月にしては風が冷たく、陽が隠れているせいかまだ冬の名残さえ感じられた。

傷だらけで道に横たわっていた子供を最初に発見したのは、ジャスティンの乗っていた馬車の御者だった。悲鳴を上げ馬車を急停止させた御者は車内から顔を出したジャスティンに青い顔を向け、子供が道端にとしどろもどろで言い訳をし、主人が怪我のひとつでもしていないのか気遣うこともせず、馬車を飛び下りていってしまった。

なんてやつだ。ジャスティンは御者の背を見ながら思った。

こいつを長旅に同行させたのは間違いだった。溜息を吐き、胸元から取り出した懐中時計で時間を確認する。別に急いでいるわけではないが、長くロンドンを離れるのはあまりいい事ではない。
腹立たしい御者だが、自分の行く手を子供の死体が遮っているならば、それを排除するのはこいつの仕事だ。ジャスティンは座席に深く座り直し、御者が仕事を終えるのを待った。

「旦那様、まだ生きています!」

なんてことだ。ジャスティンは唸り声を漏らした。これでさらに遅れを取るのは間違いない。

だからどうした、と見捨てられるほどジャスティンは血も涙もない人間ではなかった。それに、友人を亡くしたあととあっては、誰であろうと見捨てる気にはならなかった。

再び窓から顔を出したとき、御者は地面に膝をつき、子供を抱きかかえていた。主の視線に気付いたのか、それとも最初から死にかけた子供を馬車に乗せるつもりだったのかは分からないが、縋るような目つきでこちらを振り仰いだ。

「馬車に乗せろ――いや、外ではなく、中でいい」
仕方がないといった口調だったにもかかわらず、近づいて来た御者が抱えていた子供を目にした瞬間、無意識のうちに、御者から子供をひったくっていた。その時、わずかに子供が呻いた。ジャスティンはすぐに後悔した。怪我の程度も分からないというのに、もっと慎重に抱き寄せればよかった。

「旦那様!町へ戻りますか?」

御者の言葉にハッとし、ジャスティンは子供と自分の汚れた上着に視線をやった。それから御者を見おろし、「いや、この先に小さな宿場町がある。そこまで行け」と虚ろに命じた。

間もなく馬車は走りだし、ジャスティンは膝に抱えた子供をつぶさに観察した。呼吸は浅く目はぎゅっと閉じられている。顔にはいくつかに擦り傷があり、濃い金色の髪は埃と血にまみれ見るも無残な状態だ。

ジャスティンは血に染まった、もとは真っ白だったに違いないクラヴァットをゆっくりと解き、シャツのボタンを外した。これで少しは呼吸が楽になるだろう。

貴族の子供だろうか?
着ているものはみな上等のものだし、傷だらけの手も――

ああ、なんてことだ。爪が剥がれている。

ジャスティンは思わず目を逸らした。爪が剥がれる痛さなら知っている。意図的に剥される痛みよりもマシだと思うほかない。

優しくそれでいてしっかりと華奢な身体を抱き、まだ先だという町の方からこちらへ向かって来はしないかと、窓の外に視線を向けた。

そしてやっと、自分の行動に疑問を持った。
ここまでする必要があるのか?ないかもしれない。けれど、この子が目を開けた時、誰でもない自分を見て欲しい。

「馬鹿な……」そう呟き、かぶりをふる。

疲れているんだ。アンソニーを亡くして心が壊れてしまったのだ。だから、彼と同じキャラメル色の髪に惹かれてしまったのかもしれない。瞳もアンソニーと同じはしばみ色なのだろうか?

ジャスティンは窓の外の景色の端の方に目をやったが、気付けば子供の青白い顔に視線を戻し、長い睫の一本一本を数えていた。こんなくだらないこと、と思いつつもやめられないまま、ほどなくして、一番近い宿場町に到着した。そしてその町で一番小さな宿屋に部屋を取った。

つづく


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