はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

溺れるほど愛は遠のく 9 [溺れるほど愛は遠のく]

須山は昨日の失敗を繰り返すまいと、涼しい顏とは裏腹に胸中穏やかではなかった。

正直、昨日の今日で海をここまで誘い込めただけでも、勿怪の幸いだ。

昨日は気楽にベッドに腰掛けていた海は、今日はいつでも逃げだせるようにか、ドアの近くにちょこんと座っている。

ドアからベッドまでの距離はおよそ三メートルといったところだろうか。いままで部屋の広さなど気にしたことはなかったが、これでは遠過ぎる。この際ベッドは部屋の入口に移動させるべきだ。

「海、そんなにビビるなよ。今日は何もしないからさ」
これは本心だった。もっとも、海がして欲しいと言えばその限りではないが。

海は昨日の昼休み、花村に背負われて教室へ戻って来たときから様子がおかしい。
最初は青い顔をしていたため具合でも悪いのかと思ったが、そうではなかった。花村はその理由を知っていたのだろうか?
そう思った途端、須山の中にこれまで抱いたことのない嫉妬という感情が湧き上がって来た。

あの男は邪魔だ。海に余計な事を吹き込んだものあいつだ。別に知られて困るような事でもないが、やはり海には知られたくなかったのが正直なところだ。

「ビビるわけないじゃん!」
海はムッとしながら、這うようにして部屋の真ん中までやって来た。学生鞄は戸口に置いたままだ。

「そうか?まあ、それならいいけどさ」

海の脇を通り、須山はドアを閉じた。ゆっくりと静かに鍵をかけることも忘れなかった。

昨日、海とした初めてのキスは、須山が想像していた通り最高のものだった。
それなのに、海はそのキスが気に入らなかったようだ。急に不機嫌になり、遊び人呼ばわりし、結果逃げ出した。外には花村が待っていて、二人は仲良く帰って行った。

まったく。もてあそばれているのはこっちの方だ。

「なんで、坊主にしたの?それお母さんがしたの?」
向いに座った途端、海が不思議そうに尋ねた。まるで自分が昨日言ったことを忘れているかのような顔つきだ。

「海がその方がいいって言うからさ」
さっと片方の手の平で頭を撫でる。

「俺は、そういうつもりで言ったんじゃないからな」

わかってる。
俺が坊主になんかするはずがないと海は決めつけていた。だからこそそうしてやろうと思ったし、それで少しでも海が心を許してくれたらと期待したのだ。
海は誰とでも仲良くするけど、意識的か無意識か、相手との距離を詰め過ぎないようにしている。
この三ヶ月で気付いた限りでは、同じ双子で中等部から一緒の島田兄弟とだけは兄弟のように仲良くしている。

「ねえ、のど乾いた」海はそう言って、カーペット敷きの床にコロンと寝転がった。まるで日向ぼっこをする猫のように。

俺は絶対もてあそばれている。

須山がそう思ってもなんら不思議ではないだろう。

つづく


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