はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

溺れるほど愛は遠のく 8 [溺れるほど愛は遠のく]

翌日、忘れていたはずの記憶を呼び覚ましたのは、須山だった。

朝のホームルームが始まるギリギリに現れた須山は、あきらかに昨日までの姿とは違っていた。こちらへ近づいて来るその姿を、クラスの連中のほとんどは口をぽかんと開けた状態で見送っている。
なぜなら、須山の赤ん坊のような細くて柔らかいふんわりとした髪の毛が消え失せていたからだ。
いわゆる丸坊主という状態だ。須山以外のやつならぷっと吹き出しているところだろう。

けれど、海は思わず見惚れた。頭の形が美し過ぎるのか、それとも顔の造りが坊主向きなのか、とにかくいい男は何をしても格好がつくという事だ。

「海、昨日の約束、守れよ」
須山は男も女も虜にするような魅力的な笑みを浮かべ、海の横で立ち止まった。

「約束?俺は約束なんかしてないぞ」

「坊主にしたら、付き合ってくれるって言っただろう?」

「言ってないっ!信用してやってもいいって言っただけだ」

「そうだっけ?じゃあ、とにかく信用はしてくれるわけだ」

「先生来たぞ。席へ戻れよ」傍にいた花村が噛みつかんばかりに言った。

須山は花村など気に留める風でもなく、「じゃ、あとでな」と海に向かって言うと、後ろの自分の席へ向かった。

「お前も席に着けよ」と花村に言い、海は状況の悪化についての対処方法を考えていた。須山にとっては坊主にすることは大したことではなかったようだ。そうでなければ須山程の男がこんなにあっさりと坊主にするはずがない。

それとも本当に本気なのだろうか?
いやそれは絶対ない。

須山は遊んでるだけだ。
そう思うのは決して自分が臆病だからではないと、海は自分に言い聞かせた。

ホームルームが終わると同時に、海の周りにはいつものメンバーが集まって来た。いい加減うんざりするが、なんだか昨日辺りからそれすらどうでもいい気分になってしまっている。

「なあ、海。試すだけでもさ」としつこい須山。

いったい何を試すんだか。

「須山、やめろ。海は嫌がってる」花村の巨体が海の視界から須山を消した。

こういうおせっかいは癇に障る。

「花村、俺がどう思っているかなんてお前には分からないだろう?勝手に決めつけるな」
花村を見上げると首が痛くなるので、海は適当に前を見据えたまま言った。これはいつものことなのだが、今回に限っては花村は酷く傷ついたようだ。

「海……」

しゅんと項垂れる花村に勝ち誇ったような顔を向ける須山。その横で吉沢が珍しく黙って事の成り行きを見守っている。その虎視眈々と獲物を狙う姿に、海は気付いていなかったが、幸い花村は気付いていた。

「それで、俺にどうして欲しいんだ?」頬杖をつき溜息交じりに訊く。

「まあ、そうだな――」須山は考えるような素振りを見せながら、海の耳元に唇を近づけそっと囁いた。「海をもっと味わいたい」

つづく


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