はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
溺れるほど愛は遠のく 6 [溺れるほど愛は遠のく]
家に帰ると、ブッチが玄関先でスフィンクスのように鎮座していた。この格好をしている時はなにか考え事をしている時なのだ。
「ブッチ、陸は今日遅いんだ。それにさユーリの誕生日だからたぶん男臭い匂いをぷんぷんさせて帰ってくるよ」
ブッチは眉間に皺を寄せ不快な顔で鼻をふんと鳴らした。
おそらく、そんなの知ってるよ、とでも言ったつもりだろう。
「雨降りそうだから、中に入れよ」と一応声を掛けて、海は家の中に入った。
夕食後、風呂に入り部屋で宿題をしていた海は、はあっと大きな溜息を吐き、手にしていたペンを投げるようして置いた。
『楓はいま電話に出られなくて――』
たったこれだけの言葉が、午後のあの瞬間から、海の脳内を占拠している。
電話の相手は、海が初めて本気で好きになった相手だった。
一之瀬礼。本人の言う所では不動産会社の社長らしい。
近所の開発予定の土地を視察に来ていたあいつと出会ったのは一年前。島田の家に遊びに行った帰り、パンクした自転車を押してとぼとぼと帰っている時だった。
道を聞かれ、案内し、それがきっかけで、もろもろあって、ふたりは付き合い始めた。
そしてお盆前のある日、海は一之瀬を花火大会に誘った。ただ普通にデートしたかっただけだ。けれど、一之瀬はその日は妻の実家に行かなければならないから駄目だと言った。
海は雷にでも打たれたようなショックを受けた。
二人は好き合っていて、もちろん恋人同士だと思っていたのに、それがただの不倫だったなんてにわかには信じられなかった。
『お前結婚しているのか?』
『ああ、子供もいる』
『子供……なんで、なんで言わなかったんだよっ!』
『別に言う必要はないだろう?』
『あるに決まってんだろう!知ってたらお前なんかと付き合わなかった』
『どうしてだ?』
『どうして?当たり前だろうっ!バカっ!もう、お前とは会わない。連絡もするな――じゃあな。……バイバイ』
鮮明に覚えている別れの言葉。おそらくもっと何か言ったと思うけど、これ以上は思い出せない。一之瀬の事は好きだったけど、俺は奥さんと子供がいるような相手に手を出すような最低な奴にはなりたくなかった。もう遅いけど……。
「楓って……奥さんかな?」と、つい声に出してしまったが、海はそれすら気付かず、独り言をぶつぶつと続ける。「もしかして、俺訴えられる?」
慰謝料とか請求されたらどうしよう。もう一年も前の出来事だし、付き合ってたって言っても、たった一ヶ月だし、そもそも俺はあいつが結婚している事すら知らなかった。俺だって被害者なのに、いまさらなんだよっ!
こっちが慰謝料請求したっておかしくないんだぞ!!
徐々に興奮してきた海は、なぜかふいに、食後のデザートを食べ忘れていることを思いだした。こうしてはいられないと急いで台所へ向かった。冷凍室を開け、山積みのカップアイスの一番端の『まさにいのアイス』を手に取った。
今日は色々あったから、怒られるの承知で食べてやるんだ。
だってさ……悪夢の電話に始まり、須山とキスをして(ほとんど海が誘ったようなものだが)、あげく花村に告白された(これも海が無理矢理言わせたようなものだ)。
一日の出来事にしては、盛りだくさん過ぎる。そのすべてを今日中に忘れるのだ。
つづく
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「ブッチ、陸は今日遅いんだ。それにさユーリの誕生日だからたぶん男臭い匂いをぷんぷんさせて帰ってくるよ」
ブッチは眉間に皺を寄せ不快な顔で鼻をふんと鳴らした。
おそらく、そんなの知ってるよ、とでも言ったつもりだろう。
「雨降りそうだから、中に入れよ」と一応声を掛けて、海は家の中に入った。
夕食後、風呂に入り部屋で宿題をしていた海は、はあっと大きな溜息を吐き、手にしていたペンを投げるようして置いた。
『楓はいま電話に出られなくて――』
たったこれだけの言葉が、午後のあの瞬間から、海の脳内を占拠している。
電話の相手は、海が初めて本気で好きになった相手だった。
一之瀬礼。本人の言う所では不動産会社の社長らしい。
近所の開発予定の土地を視察に来ていたあいつと出会ったのは一年前。島田の家に遊びに行った帰り、パンクした自転車を押してとぼとぼと帰っている時だった。
道を聞かれ、案内し、それがきっかけで、もろもろあって、ふたりは付き合い始めた。
そしてお盆前のある日、海は一之瀬を花火大会に誘った。ただ普通にデートしたかっただけだ。けれど、一之瀬はその日は妻の実家に行かなければならないから駄目だと言った。
海は雷にでも打たれたようなショックを受けた。
二人は好き合っていて、もちろん恋人同士だと思っていたのに、それがただの不倫だったなんてにわかには信じられなかった。
『お前結婚しているのか?』
『ああ、子供もいる』
『子供……なんで、なんで言わなかったんだよっ!』
『別に言う必要はないだろう?』
『あるに決まってんだろう!知ってたらお前なんかと付き合わなかった』
『どうしてだ?』
『どうして?当たり前だろうっ!バカっ!もう、お前とは会わない。連絡もするな――じゃあな。……バイバイ』
鮮明に覚えている別れの言葉。おそらくもっと何か言ったと思うけど、これ以上は思い出せない。一之瀬の事は好きだったけど、俺は奥さんと子供がいるような相手に手を出すような最低な奴にはなりたくなかった。もう遅いけど……。
「楓って……奥さんかな?」と、つい声に出してしまったが、海はそれすら気付かず、独り言をぶつぶつと続ける。「もしかして、俺訴えられる?」
慰謝料とか請求されたらどうしよう。もう一年も前の出来事だし、付き合ってたって言っても、たった一ヶ月だし、そもそも俺はあいつが結婚している事すら知らなかった。俺だって被害者なのに、いまさらなんだよっ!
こっちが慰謝料請求したっておかしくないんだぞ!!
徐々に興奮してきた海は、なぜかふいに、食後のデザートを食べ忘れていることを思いだした。こうしてはいられないと急いで台所へ向かった。冷凍室を開け、山積みのカップアイスの一番端の『まさにいのアイス』を手に取った。
今日は色々あったから、怒られるの承知で食べてやるんだ。
だってさ……悪夢の電話に始まり、須山とキスをして(ほとんど海が誘ったようなものだが)、あげく花村に告白された(これも海が無理矢理言わせたようなものだ)。
一日の出来事にしては、盛りだくさん過ぎる。そのすべてを今日中に忘れるのだ。
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2012-10-15 20:37
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