はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

伯爵と少年 4 [伯爵と少年]

アンディは五年前と同じく痛みで目が覚めた。唯一の違いは目覚めた場所が優しくふんわりとアンディを包み込んでいたことだ。

起き上がりそこからゆっくりと降りた。手に触れる感触の心地よさにうっとりとする。ずっと眠っていたかったけれど、そうしていてはいけないと判断するだけの分別はあった。

アンディを包んでいたふわふわのそれは、四隅に柱があり豪華な刺繍の施された天蓋の付いた大きなベッドだった。アンディが初めて見る色彩の美しさに見とれていると、戸口から声がした。

「気付いたのか」

振り返るとアンディに鞭を振るったあの男がいた。アッシュグレイの瞳に漆黒を思わせる黒髪、アンディを見下ろすほどの長身の体躯に恐怖を覚えた。

まさかここがあの男の家だなんて!

「汚い身なりをして、何か恵んでもらおうと他人の土地に入り込んだのか?どこから来た?」
男は腕を組んでアンディを値踏みするような視線を向けている。

アンディは恥じ入った。確かに着ている服は薄汚れているし擦り切れている。きっとシーツを汚してしまったに違いない。洗濯は得意じゃないけどやってやれないことはない。ロンドンではどんな小さな仕事でも、どんな汚い仕事でもやってきた。

「メアリ、さっさとこれを綺麗にして着替えさせろ」男はそう言って部屋を出て行き、代わりにメアリと呼ばれた女の人が部屋に入ってきてアンディに近寄った。

「何も心配はいらないよ」メアリは言った。マリーおばさんよりもうんと若いけど、パン屋のおばさんよりは歳が上だろうかとアンディはぼんやりと思った。

メアリに導かれるようにして隣の部屋に移動する。そこにはお湯が満たされた小さなたらいが置いてあった。アンディは差し出された手を断って自分で服を脱いだ。アンディにとっては一張羅だったけどメアリの目にはただのぼろ布に見えたに違いない。アンディは恥ずかしさに唇を噛んだ。もう一生分恥を晒している。

体の汚れはメアリによって丁寧に落とされ、ひと目でわかるほどの上等な服を着せられた。これまで触れたこともないはずのそれはなぜか懐かしかった。

「メアリさん、ありがとうございます」アンディは心からお礼を言った。

「それで、こんな所までどうして来たんだい?村の子ではないだろう?」メアリは問い、アンディの返事を待たずして続ける。「エドワード様がぼろ布を抱えてお帰りになったときはびっくりして腰を抜かしそうになったよ。まさか子供だなんて思いもしなかったからね」そのぼろ布を片付けながら言う。

「あの、ぼくロンドンから来ました」

「へぇ、ロンドンねぇ……それにしても、こうして綺麗にしてみると貴族のお坊ちゃまに見えるねぇ。エドワード様のお小さい頃を思い出すよ」

アンディはメアリのその意見には同意できなかった。
男――エドワード様は何もかもアンディと違った。威厳、風格、貫禄、何と呼べばいいのかとにかくアンディの持っていないものすべてを持っていた。背の高さも大きな手も全部違う。

「エドワード様は貴族の方なんですか?」アンディは訊ねた。
「そうさ、伯爵様さ」メアリは胸を張って少し得意げに返した。
「伯爵様――」

アンディの貴族に対する不信感が表情を曇らせた。貴族は服従をするべき相手でもちろん逆らうなど論外。そして恐れるべき存在だ。これまでの経験で身に染みていた。

「メアリが伯爵様のお世話をしているの?」アンディは恐怖を隠すようにして質問を続けた。

「あたしだけじゃどうにもならないよ。お屋敷を掃除するだけでも大変なのに、お世話までひとりでなんて無理に決まってるさ。そうは言っても、ここはよそに比べりゃ大分小ぢんまりとしたお屋敷だけどね。まあここはね、いわゆる別邸なのさ。別のところに大きなお屋敷があるんだけど、エドワード様がこちらがいいと言ってね。それで、住込みは執事のスティーヴンとあたしだけで、あとは通いのメイドが二人とお屋敷の離れに馬丁がいるだけさ。あとは庭師のじいさんが森を抜けた先の村から、時々やってくるぐらいさ」

メアリはよく喋った。もしかすると普段喋る相手がいないのかもしれない。執事のスティーヴンさんは分からないけどエドワード様はお喋りとは程遠そう。

メアリはまだおしゃべりを続けている。アンディにその相手が務まるとは思えなかったけど、聞いているだけでいいみたいだからただじっと黙って耳を傾けていた。

つづく


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