はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
満ちる月 8 [満ちる月]
「ふぅん、あそこにいたのか」
空は何とか動揺を隠そうと、全神経を集中させ感情を抑え込んだ。
「あ、あの、たまたま聞こえてきただけで、その…聞くつもりは……」
しどろもどろになる望月を見ながら、空は不謹慎にも望月の事をかわいいと思ってしまった。
今この状況でそんな事を思うとは、どこまで自分は間抜けなのかと、空は思わずふっと笑みをこぼした。
その笑いを望月は勘違いしたらしく、空に問う。
「あの、それじゃあ引き抜きの話は断るんですか?」
ほっとするような望月の口調に、空は無表情で言葉を返す。
「君に言う必要があるのか?」
「そ、それは、空さんは一応店のマネージャーだし、店長としては知っておく必要があるのではないかと」
望月は慌てて言葉を言い添える。
「一応ね――」空はぽつりと言うと悲しげに望月を見た。「君の言うとおりだね。僕はこの店ではただの飾りのようなものだからね。マネージャーなんて名が付いているけど、実際、社長にここへ行けと言われた時は降格人事もいいところだと思ったくらいだ」
空のその言葉に、望月が複雑な表情で視線を脇に逃がした。
おそらく望月も気づいているのだ。
空のような人がこの店のマネージャーをしている違和感に。
僕はそれだけ彼に評価されているのだろうか?それはそれで思わず喜んでしまいそうなのだが。
だが、急に望月の事を苛めたくなってしまった。
子供じみた考えだが、すんなりと引き抜きの話を断り安堵させたくないと。
「まだ断ると決めたわけではない。あちらの会社はどうやら僕を正当に評価してくれているようだから」
ほら、思った通り、逃がしていた視線を僕に戻した。
素直というか、単純というか、面白いくらい真っ直ぐな反応をしてくれる。
「でも……」
望月は何か言いかけ口をつぐんだ。
何を言おうとしたかくらいは想像がつく。
同じ店に働きながら、実際望月と空は別々の会社に属しているのだ。だから、望月は口を差し挟むことはできないと判断したのだ。
全く面倒な事だ。
もし今、「行かないで下さい」と一言言われただけで、この胸に望月を掻き抱き耳元で「行かない」と甘く囁いてしまいそうだったのに。
あまりに自分に都合のいい妄想に、呆れてため息が漏れる。
「それで、君は僕にどうして欲しいのだ?僕がいなくなったところでこの店には何の影響もないだろう?それとも僕が店の情報を持ち出して、この店にダメージを与えるとでも」
望月がそんなこと思うはずもないと冗談めかして言った。
けれど、その瞬間望月の表情が明らかに一変した。青ざめた顔で、黒い瞳が困惑の色に染まった。
空はカッとなった。
自分の甘い妄想は一瞬にして掻き消された。望月は空の事をそんな奴――会社の情報を持って他社に行くような奴――だと思っていたのだ。
いつから望月は僕の事をそんな風に思っていたのだろうか?嫌われてはいないと、むしろ恋愛感情を抜きにすればそこそこ好かれているとさえ思っていたのに。
空は望月へ激しい憎しみのような感情を覚えた。
もはや望月が自分を見る目も、蔑んでいるようにしか見えなかった。
つづく
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空は何とか動揺を隠そうと、全神経を集中させ感情を抑え込んだ。
「あ、あの、たまたま聞こえてきただけで、その…聞くつもりは……」
しどろもどろになる望月を見ながら、空は不謹慎にも望月の事をかわいいと思ってしまった。
今この状況でそんな事を思うとは、どこまで自分は間抜けなのかと、空は思わずふっと笑みをこぼした。
その笑いを望月は勘違いしたらしく、空に問う。
「あの、それじゃあ引き抜きの話は断るんですか?」
ほっとするような望月の口調に、空は無表情で言葉を返す。
「君に言う必要があるのか?」
「そ、それは、空さんは一応店のマネージャーだし、店長としては知っておく必要があるのではないかと」
望月は慌てて言葉を言い添える。
「一応ね――」空はぽつりと言うと悲しげに望月を見た。「君の言うとおりだね。僕はこの店ではただの飾りのようなものだからね。マネージャーなんて名が付いているけど、実際、社長にここへ行けと言われた時は降格人事もいいところだと思ったくらいだ」
空のその言葉に、望月が複雑な表情で視線を脇に逃がした。
おそらく望月も気づいているのだ。
空のような人がこの店のマネージャーをしている違和感に。
僕はそれだけ彼に評価されているのだろうか?それはそれで思わず喜んでしまいそうなのだが。
だが、急に望月の事を苛めたくなってしまった。
子供じみた考えだが、すんなりと引き抜きの話を断り安堵させたくないと。
「まだ断ると決めたわけではない。あちらの会社はどうやら僕を正当に評価してくれているようだから」
ほら、思った通り、逃がしていた視線を僕に戻した。
素直というか、単純というか、面白いくらい真っ直ぐな反応をしてくれる。
「でも……」
望月は何か言いかけ口をつぐんだ。
何を言おうとしたかくらいは想像がつく。
同じ店に働きながら、実際望月と空は別々の会社に属しているのだ。だから、望月は口を差し挟むことはできないと判断したのだ。
全く面倒な事だ。
もし今、「行かないで下さい」と一言言われただけで、この胸に望月を掻き抱き耳元で「行かない」と甘く囁いてしまいそうだったのに。
あまりに自分に都合のいい妄想に、呆れてため息が漏れる。
「それで、君は僕にどうして欲しいのだ?僕がいなくなったところでこの店には何の影響もないだろう?それとも僕が店の情報を持ち出して、この店にダメージを与えるとでも」
望月がそんなこと思うはずもないと冗談めかして言った。
けれど、その瞬間望月の表情が明らかに一変した。青ざめた顔で、黒い瞳が困惑の色に染まった。
空はカッとなった。
自分の甘い妄想は一瞬にして掻き消された。望月は空の事をそんな奴――会社の情報を持って他社に行くような奴――だと思っていたのだ。
いつから望月は僕の事をそんな風に思っていたのだろうか?嫌われてはいないと、むしろ恋愛感情を抜きにすればそこそこ好かれているとさえ思っていたのに。
空は望月へ激しい憎しみのような感情を覚えた。
もはや望月が自分を見る目も、蔑んでいるようにしか見えなかった。
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2011-06-19 23:37
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