はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
満ちる月 7 [満ちる月]
店のランチタイムが終わると、やっと従業員が食事にありつける。
まかないは一番下っ端のシェフ――シェフと呼べるか疑問だが――が作っているので、時々とんでもないものが出てくる。
今日は時間がないため無難なアマトリチャーナが出てきて、みんなのホッと一安心する溜息の様なものが聞こえた気がした。
そこで話題になったのが、この店から数軒挟んだ場所に、同じ様な店が出店するというものだった
確かにそこには空き店舗があり、近々解体工事に入ると知らせがあったのだという。
早く知らせてくれと、店長なのに誰よりも遅い情報の入手に苦笑した。
本社ではすでにこの出店について話し合われているようだ。
どうやらライバル会社によるもので、既存の店舗の潰しに掛かるみたいだった。
そこで望月はふっと、先日の和食店での出来事が頭をよぎった。
空が、おそらくだが引き抜き交渉されていた事を。
しかしそうだとしても、ライバル会社へ移って、数軒先の店に係るなんて、そんなことありえないと思った。
営業終了後片付けも終わり、厨房のコックたちも仕込みを終え、店には望月と空だけが残されていた。
今日も空さんは店に顔を出している。
べつにおかしいことではないが、でもどうして急に。
なんだか不思議な気がする。
空は暫くパソコンに向かっていたかと思うと、今はセラーを覗いている。
望月はふと来月の一周年のイベントの事を思い出し、空に声を掛けた。
「空さん、ちょっといいですか?」
空が手にしていたワインをセラーに戻し望月の方を見た。
「なんだい?」
「一周年のワインの事で」
イベントに向けて特別メニューを厨房と相談して決めている最中だった。それに合わせてワインも選ばなければならない。ワインとチーズに関しては、高塚物産からすべて仕入れているので、出来れば空と相談したいと思っていたのだ。
「僕にわざわざ聞かなくても、君のリストはなかなかよくできているよ」
空はきっとワインリストを見てそういっているのだろう。
「ワインリストは俺が作ったんじゃないですよ」
なんとなく気恥ずかしくてそう言った。
「リストはソムリエに任せているんだろうけど、ワインを選んでいるのはほとんど君だろう?」
「そ、そうですけど……」
自分が褒められているような気がしたが、ソムリエの佐野くんに悪い気がして複雑な表情をしてしまった。
「ああ、別に佐野くんがどうとか言っているのではないんだ。ただ、君は店長としてとても頑張っていると言いたかった」
そう言って空は極上の笑みを望月に向けた。
なんてきれいに微笑むのだろうか。
望月は思わず見惚れてしまった。自分に少しでもこんな顔が出来たら、あの人は俺の方を向いてくれたのだろうかと、途方もない事を思ってしまっていた。
「あの、でも、俺なんかよりずっと空さんの方が詳しいし――」
そう言って望月は思わずしまったと顔を歪めた。
空は高塚物産では相当なやり手の営業マンで、そこからレストランプロデュースを一手に任されるまでになったらしい。だから自分の会社の商品に詳しいのは当たり前だ。
けれどそんな空がなぜか、他社に出向という形で、実質の降格人事を受けているのだから、なんとなく余計な事を口にしてしまったと、望月は空の顔を覗き見るような顔をした。
それでも空はいつもの目を細めた優しい顔で、そうだねと返事をした。
望月はほっと胸をなでおろし、その空の優しい笑みに促される様に、なぜだか、つい、先日和食店で自分が耳にしてしまったことについて尋ねてしまった。
その瞬間、二人の間に明らかに凍てついたような冷たい空気が漂った。
つづく
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まかないは一番下っ端のシェフ――シェフと呼べるか疑問だが――が作っているので、時々とんでもないものが出てくる。
今日は時間がないため無難なアマトリチャーナが出てきて、みんなのホッと一安心する溜息の様なものが聞こえた気がした。
そこで話題になったのが、この店から数軒挟んだ場所に、同じ様な店が出店するというものだった
確かにそこには空き店舗があり、近々解体工事に入ると知らせがあったのだという。
早く知らせてくれと、店長なのに誰よりも遅い情報の入手に苦笑した。
本社ではすでにこの出店について話し合われているようだ。
どうやらライバル会社によるもので、既存の店舗の潰しに掛かるみたいだった。
そこで望月はふっと、先日の和食店での出来事が頭をよぎった。
空が、おそらくだが引き抜き交渉されていた事を。
しかしそうだとしても、ライバル会社へ移って、数軒先の店に係るなんて、そんなことありえないと思った。
営業終了後片付けも終わり、厨房のコックたちも仕込みを終え、店には望月と空だけが残されていた。
今日も空さんは店に顔を出している。
べつにおかしいことではないが、でもどうして急に。
なんだか不思議な気がする。
空は暫くパソコンに向かっていたかと思うと、今はセラーを覗いている。
望月はふと来月の一周年のイベントの事を思い出し、空に声を掛けた。
「空さん、ちょっといいですか?」
空が手にしていたワインをセラーに戻し望月の方を見た。
「なんだい?」
「一周年のワインの事で」
イベントに向けて特別メニューを厨房と相談して決めている最中だった。それに合わせてワインも選ばなければならない。ワインとチーズに関しては、高塚物産からすべて仕入れているので、出来れば空と相談したいと思っていたのだ。
「僕にわざわざ聞かなくても、君のリストはなかなかよくできているよ」
空はきっとワインリストを見てそういっているのだろう。
「ワインリストは俺が作ったんじゃないですよ」
なんとなく気恥ずかしくてそう言った。
「リストはソムリエに任せているんだろうけど、ワインを選んでいるのはほとんど君だろう?」
「そ、そうですけど……」
自分が褒められているような気がしたが、ソムリエの佐野くんに悪い気がして複雑な表情をしてしまった。
「ああ、別に佐野くんがどうとか言っているのではないんだ。ただ、君は店長としてとても頑張っていると言いたかった」
そう言って空は極上の笑みを望月に向けた。
なんてきれいに微笑むのだろうか。
望月は思わず見惚れてしまった。自分に少しでもこんな顔が出来たら、あの人は俺の方を向いてくれたのだろうかと、途方もない事を思ってしまっていた。
「あの、でも、俺なんかよりずっと空さんの方が詳しいし――」
そう言って望月は思わずしまったと顔を歪めた。
空は高塚物産では相当なやり手の営業マンで、そこからレストランプロデュースを一手に任されるまでになったらしい。だから自分の会社の商品に詳しいのは当たり前だ。
けれどそんな空がなぜか、他社に出向という形で、実質の降格人事を受けているのだから、なんとなく余計な事を口にしてしまったと、望月は空の顔を覗き見るような顔をした。
それでも空はいつもの目を細めた優しい顔で、そうだねと返事をした。
望月はほっと胸をなでおろし、その空の優しい笑みに促される様に、なぜだか、つい、先日和食店で自分が耳にしてしまったことについて尋ねてしまった。
その瞬間、二人の間に明らかに凍てついたような冷たい空気が漂った。
つづく
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2011-06-17 00:14
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