はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 392 [花嫁の秘密]
もっと荒涼とした場所だと思っていた。
石造りの屋敷は外から見ると寒々とした雰囲気があったものの、中に入ってみるととても暖かく調度品ひとつひとつに温かみも感じられた。土地柄日が暮れるのが早く、庭を見て回るのは明日になってしまったけど、きっと想像した通りの素敵な庭園が見られるはず。
アンジェラは金縁のティーカップをそろりと持ち上げた。華奢な持ち手がいまにもポッキリ折れてしまいそう。紅茶はほんのりりんごの香りがした。
長旅の末の出迎えが二人だけなのを見たとき、てっきり歓迎されていないものだと思った。寒いから仕方ないわと思っても、クリスの足を引っ張っているという気持ちは拭えない。もっと早くに、例えば問題が発覚した時すぐにここへ来ることもできた。けれどそうできなかったのは、言うまでもなくすべてわたしのせい。
「奥様、お部屋の支度が整いました。すぐにでもご案内できますが――」
出迎えてくれたうちの一人、家政婦長のミセス・ワイアットが脇のドアから再び姿を見せた。屋敷の中へ案内してくれて、紅茶とスコーンを持ってきてくれた時以来だ。
そしてアンジェラはいまそのスコーンにかぶりついている。遠慮なく大きな口を開けて。一旦スコーンを皿に戻すことも考えたが、かえってその方が無作法な気がしてそのまま食べることにした。
たっぷり時間をかけて味わって、カップの紅茶を飲み干して、ミセス・ワイアットに向き直った。
「まだここにいるわ」もしかするとクリスも来るかもしれないし。休む間もなく書斎に行ってしまったけど、たぶんもう少ししたら戻ってくるはず。こんなに美味しいスコーンを食べ逃すなんて、もったいないもの。「ねえ、ミセス・ワイアット。あとで屋敷の中を案内してくれるかしら?」
「はい!奥様、もちろんでございます」ミセス・ワイアットはにっこりと笑った。ふっくらとした頬にえくぼが浮かぶ。お母様より少し若いくらいかしら。それともマーサと同じくらい?
「よろしくね」アンジェラも笑顔で返した。
ミセス・ワイアットは今回の訪問を心から喜んでくれている。受け入れられなかったらどうしようという心配も、杞憂に終わってよかった。と思いたいけど、まだ何も始まっていない状態では何とも言えない。
クリスが土地管理人と弁護士を交えてどんな話し合いをするのか、ここで待つしかないのかしら。わたしにもできることがあるはず。
せめて帳簿くらい読めたらと思う。兄たちと同じように学校へ行っていたら違ったのかもしれないけど、こういう生き方を選択したのは自分自身でいまさらどうしようもない。けど、勉強ならいまからでもできるのでは?クリスと一緒に帳簿を見ながら、少しずつ学んでいけば、いつかは一緒に難しい書類仕事もできるようになるかも。
アンジェラはため息を漏らした。できることといえば、刺繍や編み物くらい。踊るのは下手だし、歌も上手とは言えない。乗馬くらいはと、練習はしているけどポニーで庭をぐるぐるするくらいが精一杯。何でもできる兄たちがうらやましい。
「わたしって本当に役に立たないわね」ぽつりとつぶやいたとき、クリスが大股で部屋を横切ってこっちに来るのが見えた。手に何か持っている。
クリスは視線に気づいて、手に持っているものをサッと上にあげてみせた。「手紙はここでも読めると思ってね。クラーケンにも帳簿を書斎に運んだらここへ来るように言っておいたから、一緒にミセス・ワイアットのスコーンをいただこう」
あら。この素晴らしくおいしいスコーンはミセス・ワイアットが焼いたのね。あとで作り方を教わろうかしら。「ええ、一緒に食べましょ」
つづく
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石造りの屋敷は外から見ると寒々とした雰囲気があったものの、中に入ってみるととても暖かく調度品ひとつひとつに温かみも感じられた。土地柄日が暮れるのが早く、庭を見て回るのは明日になってしまったけど、きっと想像した通りの素敵な庭園が見られるはず。
アンジェラは金縁のティーカップをそろりと持ち上げた。華奢な持ち手がいまにもポッキリ折れてしまいそう。紅茶はほんのりりんごの香りがした。
長旅の末の出迎えが二人だけなのを見たとき、てっきり歓迎されていないものだと思った。寒いから仕方ないわと思っても、クリスの足を引っ張っているという気持ちは拭えない。もっと早くに、例えば問題が発覚した時すぐにここへ来ることもできた。けれどそうできなかったのは、言うまでもなくすべてわたしのせい。
「奥様、お部屋の支度が整いました。すぐにでもご案内できますが――」
出迎えてくれたうちの一人、家政婦長のミセス・ワイアットが脇のドアから再び姿を見せた。屋敷の中へ案内してくれて、紅茶とスコーンを持ってきてくれた時以来だ。
そしてアンジェラはいまそのスコーンにかぶりついている。遠慮なく大きな口を開けて。一旦スコーンを皿に戻すことも考えたが、かえってその方が無作法な気がしてそのまま食べることにした。
たっぷり時間をかけて味わって、カップの紅茶を飲み干して、ミセス・ワイアットに向き直った。
「まだここにいるわ」もしかするとクリスも来るかもしれないし。休む間もなく書斎に行ってしまったけど、たぶんもう少ししたら戻ってくるはず。こんなに美味しいスコーンを食べ逃すなんて、もったいないもの。「ねえ、ミセス・ワイアット。あとで屋敷の中を案内してくれるかしら?」
「はい!奥様、もちろんでございます」ミセス・ワイアットはにっこりと笑った。ふっくらとした頬にえくぼが浮かぶ。お母様より少し若いくらいかしら。それともマーサと同じくらい?
「よろしくね」アンジェラも笑顔で返した。
ミセス・ワイアットは今回の訪問を心から喜んでくれている。受け入れられなかったらどうしようという心配も、杞憂に終わってよかった。と思いたいけど、まだ何も始まっていない状態では何とも言えない。
クリスが土地管理人と弁護士を交えてどんな話し合いをするのか、ここで待つしかないのかしら。わたしにもできることがあるはず。
せめて帳簿くらい読めたらと思う。兄たちと同じように学校へ行っていたら違ったのかもしれないけど、こういう生き方を選択したのは自分自身でいまさらどうしようもない。けど、勉強ならいまからでもできるのでは?クリスと一緒に帳簿を見ながら、少しずつ学んでいけば、いつかは一緒に難しい書類仕事もできるようになるかも。
アンジェラはため息を漏らした。できることといえば、刺繍や編み物くらい。踊るのは下手だし、歌も上手とは言えない。乗馬くらいはと、練習はしているけどポニーで庭をぐるぐるするくらいが精一杯。何でもできる兄たちがうらやましい。
「わたしって本当に役に立たないわね」ぽつりとつぶやいたとき、クリスが大股で部屋を横切ってこっちに来るのが見えた。手に何か持っている。
クリスは視線に気づいて、手に持っているものをサッと上にあげてみせた。「手紙はここでも読めると思ってね。クラーケンにも帳簿を書斎に運んだらここへ来るように言っておいたから、一緒にミセス・ワイアットのスコーンをいただこう」
あら。この素晴らしくおいしいスコーンはミセス・ワイアットが焼いたのね。あとで作り方を教わろうかしら。「ええ、一緒に食べましょ」
つづく
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2023-05-20 23:43
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