はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 220 [花嫁の秘密]
「犯罪組織?」
朝の図書室に、サミーのやや侮蔑混じりの声が響いた。
たったいまエリックは突拍子もない事を口にした。
ジュリエットが犯罪組織の仲間入りをしたとかどうとか。こいつは頭がいかれたのだろうか?
サミーは傍にあったケットを身に纏い、火が入ったばかりの暖炉の前に歩み寄った。
「ああ、だが、表面上はそうは見えない」
エリックはサミーのくしゃくしゃの髪の毛に指を差し入れながら、ぴったりと背後に寄り添った。
「勝手に触るなっ!」
強い口調で抗議をするが、エリックは全く気にする様子もない。サミーの髪を適当に梳くと、すぐ後ろの背もたれの高い硬い椅子に腰かけた。わざわざ一番座り心地の悪い椅子を選ぶとは、馬鹿な奴。
「ロンドンから知らせが来た」そう言って懐から手紙を取り出す。「まあ、話した方が早いから、これは見せないが――」これ見よがしに手紙をひらつかせ、すぐに懐に仕舞った。
「知らせ?そんなのいつ来た?郵便はまだだろう?――もしかして、君のスパイがここへわざわざ届けに来たのか?」
「スパイね……。これを持ってきたのはただの運び屋だ。そんなことより、少し作戦が変更になりそうだ」
「犯罪組織が絡んできたからか?」サミーは嘲笑した。
「そんなに笑いごとでもないんだが――まあ、いいからお前も座れ」
エリックは適当な椅子に腰かける様に手を振り、すらりとした長い脚を組んだ。
エリックにしては珍しく真面目な表情だ。時折こいつはこういう顔を見せるが、本当に真剣な時があるのかサミーは常々疑わしく思っている。
言われた通りにするのは癪だが、サミーは深く沈み込む大きめのソファに座りエリックに向き合った。膝を抱えるようにしてソファの上に足を乗せると、ケットで首から下をすっぽりと覆った。
そこでやっとエリックはもったいぶったように話を切り出した。
「とある紳士クラブ――とでも言っておこうか、そこの会員でもある、そうだな……ミスターXとでもしておくか――」
「ちょっ!ちょっと待て。エリック、君はこんなぼやけた話を僕に聞かせようとしているのか?ミスターXだと?そんなまわりくどい話し方をするなら、僕は失礼するよ。ここはあまりにも寒い」
サミーはぶるっと身を震わせた。暖炉に火が入ってしばらく経つというのに、部屋どころか暖炉の目の前を陣取る自分の身体さえ温まらない。エリックは重要な話があると言ったわりに、肝心な部分は話す気はないようだし、これなら部屋へ戻って休んだ方がマシだ。
抱えていた足をおろし、サミーは立ち上がろうとした。
「わかったから、上げた尻を元の位置に戻せ。まったくお前はせっかちだな」冗談も分からないのかといった口調だが、おそらくエリックは全部話す気はないだろう。
サミーは渋々と腰をおろし、足を元に戻した。ぎゅっと膝を抱えるが、身体の震えは収まらない。
「エリック、ちょっと火を大きくしてくれないか?」
「客を使用人代わりに使うのか?」そう言いながらもエリックは立ち上がって、暖炉脇の真鍮製の石炭入れから、石炭をスコップですくい、暖炉に放った。「これでいいか?」
「ああ、ありがとう」礼を言うほどでもないが、こう言っておけばエリックが満足する事をサミーは知っている。
「お前、風邪引いたんじゃないのか?」
「さあね。ここ最近見たことないほど雪が降ったんだから、その可能性はあるだろうね」
「ふんっ。あんな格好で寝るからだ」
エリックの言葉に、サミーは前夜の出来事をおぼろげだが思い出した。
今朝目を覚ました時に、隣に眠る男を見て慌ててベッドから逃げだしたのは言うまでもない。問題は、なぜ一緒のベッドで眠ることになったのかという事だ。
いや、そんなの分かり切っている。
サミーは酒に弱い。
それも自分が思う以上に。いままでエリック以外の前で醜態を晒してないのが不思議なくらいだ。
以前一度だけ、クリスの前で情けない姿を見せた事があった気がするが、ほとんど記憶にない。なにせ、酔っていたのだから。
酔っぱらって正体をなくしたサミーを、エリックは悪びれることもなく自分の欲を満たす道具として利用する。腹が立つが、記憶もあいまいだし、なによりサミーもこの男を利用しているのだ。愛する人と同じ瞳の色に惑わされている間だけ、自分自身を解放できる。
その代わり、酔いがさめた時から始まる自己嫌悪にしばらくの間悩まされることになる。
「それで、話をする気はあるのか?簡潔に分かりやすく頼むよ。ジュリエットがなぜ犯罪組織に目をつけられたのか――」
サミーは昨夜の出来事を思い起こさせるエリックの言葉は、聞かなかったことにした。用件を済ませるためだけに、わざわざ図書室で二人きりになっているのだという視線をエリックに向け、相手が口を開くのを待った。
エリックがうんざりといった溜息をついた。サミーのつれない態度に、いい加減苛立ちを抑えきれなくなっているようだ。
もしかすると、この関係はそう長くは続かないのかもしれないと、お互いがこの瞬間に思っていようとは、互いに知る由もなかった。
つづく
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朝の図書室に、サミーのやや侮蔑混じりの声が響いた。
たったいまエリックは突拍子もない事を口にした。
ジュリエットが犯罪組織の仲間入りをしたとかどうとか。こいつは頭がいかれたのだろうか?
サミーは傍にあったケットを身に纏い、火が入ったばかりの暖炉の前に歩み寄った。
「ああ、だが、表面上はそうは見えない」
エリックはサミーのくしゃくしゃの髪の毛に指を差し入れながら、ぴったりと背後に寄り添った。
「勝手に触るなっ!」
強い口調で抗議をするが、エリックは全く気にする様子もない。サミーの髪を適当に梳くと、すぐ後ろの背もたれの高い硬い椅子に腰かけた。わざわざ一番座り心地の悪い椅子を選ぶとは、馬鹿な奴。
「ロンドンから知らせが来た」そう言って懐から手紙を取り出す。「まあ、話した方が早いから、これは見せないが――」これ見よがしに手紙をひらつかせ、すぐに懐に仕舞った。
「知らせ?そんなのいつ来た?郵便はまだだろう?――もしかして、君のスパイがここへわざわざ届けに来たのか?」
「スパイね……。これを持ってきたのはただの運び屋だ。そんなことより、少し作戦が変更になりそうだ」
「犯罪組織が絡んできたからか?」サミーは嘲笑した。
「そんなに笑いごとでもないんだが――まあ、いいからお前も座れ」
エリックは適当な椅子に腰かける様に手を振り、すらりとした長い脚を組んだ。
エリックにしては珍しく真面目な表情だ。時折こいつはこういう顔を見せるが、本当に真剣な時があるのかサミーは常々疑わしく思っている。
言われた通りにするのは癪だが、サミーは深く沈み込む大きめのソファに座りエリックに向き合った。膝を抱えるようにしてソファの上に足を乗せると、ケットで首から下をすっぽりと覆った。
そこでやっとエリックはもったいぶったように話を切り出した。
「とある紳士クラブ――とでも言っておこうか、そこの会員でもある、そうだな……ミスターXとでもしておくか――」
「ちょっ!ちょっと待て。エリック、君はこんなぼやけた話を僕に聞かせようとしているのか?ミスターXだと?そんなまわりくどい話し方をするなら、僕は失礼するよ。ここはあまりにも寒い」
サミーはぶるっと身を震わせた。暖炉に火が入ってしばらく経つというのに、部屋どころか暖炉の目の前を陣取る自分の身体さえ温まらない。エリックは重要な話があると言ったわりに、肝心な部分は話す気はないようだし、これなら部屋へ戻って休んだ方がマシだ。
抱えていた足をおろし、サミーは立ち上がろうとした。
「わかったから、上げた尻を元の位置に戻せ。まったくお前はせっかちだな」冗談も分からないのかといった口調だが、おそらくエリックは全部話す気はないだろう。
サミーは渋々と腰をおろし、足を元に戻した。ぎゅっと膝を抱えるが、身体の震えは収まらない。
「エリック、ちょっと火を大きくしてくれないか?」
「客を使用人代わりに使うのか?」そう言いながらもエリックは立ち上がって、暖炉脇の真鍮製の石炭入れから、石炭をスコップですくい、暖炉に放った。「これでいいか?」
「ああ、ありがとう」礼を言うほどでもないが、こう言っておけばエリックが満足する事をサミーは知っている。
「お前、風邪引いたんじゃないのか?」
「さあね。ここ最近見たことないほど雪が降ったんだから、その可能性はあるだろうね」
「ふんっ。あんな格好で寝るからだ」
エリックの言葉に、サミーは前夜の出来事をおぼろげだが思い出した。
今朝目を覚ました時に、隣に眠る男を見て慌ててベッドから逃げだしたのは言うまでもない。問題は、なぜ一緒のベッドで眠ることになったのかという事だ。
いや、そんなの分かり切っている。
サミーは酒に弱い。
それも自分が思う以上に。いままでエリック以外の前で醜態を晒してないのが不思議なくらいだ。
以前一度だけ、クリスの前で情けない姿を見せた事があった気がするが、ほとんど記憶にない。なにせ、酔っていたのだから。
酔っぱらって正体をなくしたサミーを、エリックは悪びれることもなく自分の欲を満たす道具として利用する。腹が立つが、記憶もあいまいだし、なによりサミーもこの男を利用しているのだ。愛する人と同じ瞳の色に惑わされている間だけ、自分自身を解放できる。
その代わり、酔いがさめた時から始まる自己嫌悪にしばらくの間悩まされることになる。
「それで、話をする気はあるのか?簡潔に分かりやすく頼むよ。ジュリエットがなぜ犯罪組織に目をつけられたのか――」
サミーは昨夜の出来事を思い起こさせるエリックの言葉は、聞かなかったことにした。用件を済ませるためだけに、わざわざ図書室で二人きりになっているのだという視線をエリックに向け、相手が口を開くのを待った。
エリックがうんざりといった溜息をついた。サミーのつれない態度に、いい加減苛立ちを抑えきれなくなっているようだ。
もしかすると、この関係はそう長くは続かないのかもしれないと、お互いがこの瞬間に思っていようとは、互いに知る由もなかった。
つづく
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2012-08-03 00:08
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