はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
Sの可愛い子犬 2 [Sの可愛い子犬]
今まで、その中にさえ入った事のなかった厩舎の掃除が、ジョンの仕事になった。
しかし思うようには働けず、いつまでたっても仕事は終わらなかった。
泣きたい気持ちを我慢し、それに耐えたのは貴族のプライドがあったからなのか、ただそうするしかなかったのかは分からない。
ある日厩舎の前で馬にブラシをかけていたら、アストンがやって来た。食後なのかでっぷりとしたアストンのお腹のボタンは、いまにもはじけそうになっている。ジョンは空腹の腹を押さえ、今や主人となった男の前で頭を垂れた。挨拶をするべきなのはわかっていたが、喉の奥が張り付き声が出なかった。
アストンは汚いものを見るような目をジョンに向け、侮蔑の言葉を吐いた。
汚い身なりでも、ジョンのその瞳だけは輝きを失っていなかった。アストンを睨みつける勇気はなかったが、ぐっと唇を噛み侮辱の言葉にも耐えた。
それでも、ここにきて一ヶ月を過ぎる頃には、その輝きは失せようとしていた。
自尊心はとことんまで傷つけられ、心も体もまともではいられなくなっている。
それに貴族と言っても所詮は次男だ。爵位を継げる訳でもないし、そもそも教育さえも兄とは違う。
貴族のプライドなんかよりも、それを捨てることで、今の状況が変わるなら喜んで捨てようとさえ思っていた。
ジョンは周りの目を盗んでは、自分だけが知っている秘密の場所に来ていた。
屋敷の裏手の小道を抜けた先に大木があり、その木の幹の根元には大きな穴が開いている。ジョンがすっぽり入れるほどの大きさだ。幼いころから、かくれんぼをする時には必ずここに隠れた。
辛い日々も、ここに来ればその気持ちも少しは和らぐ。
「お前、ここで何してる?」
ジョンは突然声を掛けられ飛び上がりそうな程驚いた。
誰も知らない秘密の場所なのにどうしてと思いながら顔を上げると、同じ年頃の少年がジョンを見下ろしていた。
「きみは?」
「俺が先に訊いたんだけど――」
少年はあからさまに不機嫌になった。両手を腰に当て、ジョンがまともな答えを返すのを待っている。
「僕は……ここは僕だけの秘密の場所なんだ」
「なんでお前の?この土地はうちの土地だよ。だからここも俺のものさ」
ジョンは気付いた。目の前の少年は、アストンの息子なのだ。いるのは知っていたが、目にするのは初めてだった。
「あ、あの……」
その時、少年が少し動きジョンを照らしていた光が遮られ、顔がはっきりと見えた。
金色のくりくりとした髪の毛がきらきら輝いていた。エメラルドの瞳が綺麗だと思った。
「お前、馬丁見習いだろ。こんなとこで仕事をさぼって何してる?」
「どっ、どうして……?」厩舎で働いているってわかったんだろう?
少年はくすりと笑うと「だって、お前くさいもん」と冷たい言葉を浴びせた。
その瞬間、ジョンの中の何かが壊れた。
どうして父は借金を残して死んだのだろう。どうして母は一人逃げて、兄は今までと変わらず学校に行けて、どうして自分だけがこんな目に遭うのだろう――
ずっと我慢していた――どんなに辛くても、泣いたら負けだと我慢してきた涙が頬を伝った。
それからジョンは穴から出てふらりと立ち上がり、そのまま唯一の居場所の厩舎へと向かった。
つづく
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しかし思うようには働けず、いつまでたっても仕事は終わらなかった。
泣きたい気持ちを我慢し、それに耐えたのは貴族のプライドがあったからなのか、ただそうするしかなかったのかは分からない。
ある日厩舎の前で馬にブラシをかけていたら、アストンがやって来た。食後なのかでっぷりとしたアストンのお腹のボタンは、いまにもはじけそうになっている。ジョンは空腹の腹を押さえ、今や主人となった男の前で頭を垂れた。挨拶をするべきなのはわかっていたが、喉の奥が張り付き声が出なかった。
アストンは汚いものを見るような目をジョンに向け、侮蔑の言葉を吐いた。
汚い身なりでも、ジョンのその瞳だけは輝きを失っていなかった。アストンを睨みつける勇気はなかったが、ぐっと唇を噛み侮辱の言葉にも耐えた。
それでも、ここにきて一ヶ月を過ぎる頃には、その輝きは失せようとしていた。
自尊心はとことんまで傷つけられ、心も体もまともではいられなくなっている。
それに貴族と言っても所詮は次男だ。爵位を継げる訳でもないし、そもそも教育さえも兄とは違う。
貴族のプライドなんかよりも、それを捨てることで、今の状況が変わるなら喜んで捨てようとさえ思っていた。
ジョンは周りの目を盗んでは、自分だけが知っている秘密の場所に来ていた。
屋敷の裏手の小道を抜けた先に大木があり、その木の幹の根元には大きな穴が開いている。ジョンがすっぽり入れるほどの大きさだ。幼いころから、かくれんぼをする時には必ずここに隠れた。
辛い日々も、ここに来ればその気持ちも少しは和らぐ。
「お前、ここで何してる?」
ジョンは突然声を掛けられ飛び上がりそうな程驚いた。
誰も知らない秘密の場所なのにどうしてと思いながら顔を上げると、同じ年頃の少年がジョンを見下ろしていた。
「きみは?」
「俺が先に訊いたんだけど――」
少年はあからさまに不機嫌になった。両手を腰に当て、ジョンがまともな答えを返すのを待っている。
「僕は……ここは僕だけの秘密の場所なんだ」
「なんでお前の?この土地はうちの土地だよ。だからここも俺のものさ」
ジョンは気付いた。目の前の少年は、アストンの息子なのだ。いるのは知っていたが、目にするのは初めてだった。
「あ、あの……」
その時、少年が少し動きジョンを照らしていた光が遮られ、顔がはっきりと見えた。
金色のくりくりとした髪の毛がきらきら輝いていた。エメラルドの瞳が綺麗だと思った。
「お前、馬丁見習いだろ。こんなとこで仕事をさぼって何してる?」
「どっ、どうして……?」厩舎で働いているってわかったんだろう?
少年はくすりと笑うと「だって、お前くさいもん」と冷たい言葉を浴びせた。
その瞬間、ジョンの中の何かが壊れた。
どうして父は借金を残して死んだのだろう。どうして母は一人逃げて、兄は今までと変わらず学校に行けて、どうして自分だけがこんな目に遭うのだろう――
ずっと我慢していた――どんなに辛くても、泣いたら負けだと我慢してきた涙が頬を伝った。
それからジョンは穴から出てふらりと立ち上がり、そのまま唯一の居場所の厩舎へと向かった。
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2022-07-18 16:05
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