はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 1 [花嫁の秘密]

十九世紀後半英国――

アップルゲート邸へと続く道をのんびりと馬車が進んでゆく。
屋敷のその名にふさわしく、並木道にはリンゴの木が立ち並び、ピンク色の蕾、小さな白い花を咲かせている。
馬車が屋敷へと辿り着き、使用人に手を添えられ、屋敷の女主人ミセス・コートニーが降り立った。

「あぁ、わたくしの天使――」
ミセス・コートニーは玄関で出迎えた娘のアンジェラに抱きついた。
「お帰りなさい、お母様。ロンドンはどうだった?楽しかった?」
アンジェラは好奇心いっぱいの瞳を輝かせ、母の腕に絡みつく。
「まあ、まあ、おてんばね」
そう言って二人はティールームへ連れ立って行った。

この屋敷には現在、ミセス・コートニーと娘のアンジェラが住んでいる。
アンジェラはコートニー家の末娘、上には兄が三人いる。

その三人の兄は現在ロンドンにいる。
長男のロジャーは、コートニー家七代目の当主で、ラウンズベリー伯爵の称号を頂いている。ロジャーは現在三十歳になるので、アンジェラとは十五歳も年が離れていることになる。
次男のエリックは自称ジャーナリスト。
三男のセシルは学生だ。

アンジェラは兄たちを羨ましく思っていた。というのも、アンジェラはこの屋敷の敷地から外へ出たことがない。
アンジェラの知らないロンドンでの生活、学校での生活、社交界、クラブ、一度でいいから覗いてみたい世界だ。しかしそう思う一方で、この屋敷から出て知らない場所へ行くことを恐れている。

女の子が欲しくてやっと授かった娘を、アンジェラの母ソフィアは溺愛している。
ソフィアはアンジェラを身ごもっている時に六代目のラウンズベリー卿である夫を亡くしている。
待ちに待った妊娠、高齢だったこともあり、身体に掛かる負担は予想以上に大きかった。そこに夫の死が重なり、難産の末、数日間意識不明で生死を彷徨ったのだ。
それ故、意識が戻って初めて見た我が子が天使に見えたのも頷ける。天使を意味するアンジェラという名前を洗礼名に選んだのもそれが理由だ。

「お母様、早く訊かせて?」アンジェラのヘーゼルの瞳がきらきらと輝く。
長椅子に並んで腰掛け、アンジェラは母の顔を覗きこむ様にして問いかける。母はいつもロンドンへ出掛けた後、アンジェラに楽しい話を聞かせてくれるのだ。

「それがね……すごい噂を耳にしたのよ」
ソフィアはたっぷりと含みを持たせて、アンジェラの好奇心に満ちた顔を伺う。

アンジェラはそんな母を見つめ、次の言葉をじっと待つ。
「ほら、チャリティーの集まりに参加したでしょ。その時にね、ロンドンの社交界での噂を耳にしたのよ。わたくしは、最初は聞き間違いだと思ったの、でも、本当なんですって。もう、わたくしなんて何年もそういう場所へ顔を出してないでしょ、だけど皆さまは違うからね。あっ、マーサ、先に紅茶をお願い」

ソフィアの話はいつもこうだ。話ベタなのか、話したいことがあり過ぎてまとまらないのかは分からないが、本題に入るまでが長いし、結局何が言いたかったのか分からない時もある。それでも、アンジェラには知らない世界の話は楽しくて、もっと聞かせてといつもねだってしまうのだ。

ソフィアは頼んだ紅茶を喉に通すと、続きを話し始めた。

「その噂って言うのが、あなたの事なのよ、アンジェラ」
ソフィアは舞台女優のように仰々しく大袈裟にその言葉を言い切って、満足そうに肩をそびやかした。

そうはいっても、母の言葉の意味が分からないアンジェラはきょとんと得意そうな母の顔を見る。
横槍を入れると、母の話は余計に遠回りをするため、アンジェラは大きな瞳をさらに見開き、その目で次の言葉を促すのだ。

ソフィアはまた紅茶を口に運び、喉を潤すと、アンジェラの手を取り話を続ける。
「少し前まではね、社交界の噂の中心は、ほら、何て言ったかしら……まあ、いいわ、とある公爵夫人だったんだけど――その公爵夫人は社交界をデビューしてから結婚してもなお中心で居続けたのに、それが今はアンジェラ、あなたが社交界の噂の的なのよ」
ソフィアは息を継いだ。
「ラウンズベリー伯爵の妹君は、それはそれは美しいらしい。誰の目にも触れることなく、領地の屋敷で大切に育てられている。あとは、なんだったかしら……あっ、そうそう、社交界デビューが待ち遠しい、それに、そんなに美しいならデビューする前に求婚するべきだ――本当に素敵だわ」

そんな噂、どうして広まったのかしら?
うっとりとする母を見つめながら、アンジェラは困惑していた。

「そんな噂当てにならないわ。それに、わたしはずっとお母様の傍にいるんだから、結婚なんてしないわ」
「ええ、もちろんですよ。わたくしが生きているのもアンジェラ、あなたのおかげなのよ。離れるなんて考えられないわ」
そう、だから、ソフィアはアンジェラをこの屋敷に閉じ込めるようにして傍から離さないのだ。
それは、アンジェラにもわかっている、それなのに、「でも、少しくらい寂しくても、あなたがいい家柄の家に嫁げるなら、お母さまは我慢するわ。それに、孫も楽しみだわ」と、母はまだうっとりとしたまま話を終えた。

つづく


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