はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

裏・花嫁の秘密 ブログトップ
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裏・花嫁の秘密 2-4 [裏・花嫁の秘密]

「さっそく自分の椅子を取り戻したわけだ」

書斎机に向かうサミーは、深い溜息をついた。
約ひと月ぶりに聞こえた声は明らかに招かれざる客だ。書類に向く顔を上げる事さえ躊躇われる。心底面倒だ。

「ミスター・コートニー困ります!」ダグラスの慌てた声。

「俺は名乗ってないはずだが」

エリックの事を分からない奴がいるものか!それにこいつは一度ここへ来ているではないか。正確には二度か……。

指先で机を鳴らす。苛立っているわけではないが、それに近い状態だ。

サミーは渋々顔をあげた。
名乗りもしない男の侵入をやすやすと許すとは、お前の仕事振りはこの程度なのかとダグラスをねめつけた。

「いいからもうさがって」思いのほか苛ついた声が出てしまった。「彼はすぐに帰るから、お茶は出さなくていい」と今度は穏やかに言い添えた。

「そうだな、俺はお茶なんかよりもアルコールの方がいい」

エリックは図々しく部屋の中ほどにあるソファに腰を落ち着けた。

「アルコールもなしだ」
手元の書類を引き出しにしまい、机に肘をつき、顔の前で指を組み合わせた。

「いったいなぜ俺がここへ来たのか不思議そうな顔だな」

なにか可笑しそうな顔でこちらを向くエリックに落ち着かない気持ちになる。
サミーは平静を装い憮然と言葉を返す。

「別に。ただ迷惑なだけだ」

「ふーん。せっかくお前が欲しそうな情報を持って来てやったのにな。お前は領主のまねごとで忙しいって訳か――」
エリックが立ち上がり戸口へ向かう。
サミーは咄嗟にエリックを追う。
背後から腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。
エリックがぐらつき、サミーにもたれ掛かった。エリックは待ってましたとばかりにサミーをぐっと抱き「いい抱き心地だ」と頭上で囁いた。

僅かに呼吸が乱れる。だがなんとか気付かれないようにサミーは言葉を絞り出した。
「わざとよろけた振りをするなんて、随分と子供じみてるんだな」

「お前相手だ、このくらいでいい」

「いい加減離してくれないかな。それと、話があるならさっさとして貰おうか」
サミーは身体の力を抜き、エリックが早く離れてくれることを祈った。

「何の書類を見ていた?」
エリックはサミーの顔を覗き込み言った。

「土地管理に関するものだ。それより早く離れろ。僕は立っているよりも、すぐ傍の座り心地のいい椅子に座りたい」
サッと、視線を後方の椅子へ走らせる。エリックは降参という様なジェスチャーでサミーを離した。

サミーは素早く退き、守りを固めるように目的の椅子に座った。

つづく


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裏・花嫁の秘密 2-5 [裏・花嫁の秘密]

意外だった。
だから思わず「エリック」と、立ち上がって呼び止めてしまっていた。

言ってしまってから、彼の名を呼んだ自分の声が縋り付くような声になってしまっていたことに驚いた。

エリックはサミーが椅子に座るや否や、その場で、ロイをコートニー家の屋敷で面倒見る事になったと報告した。そして、それだけ言うと、エリックは踵を返し部屋を出ようとしたのだ。

別に用事が済んだのだから帰るのは当たり前だが、あまりにあっさりし過ぎていて、拍子抜けしたというか何というか……。

サミーは慌てて取り繕うような言葉を探す。
「アンジェラは元気なの?」
思いついた言葉はそれだけだった。

「ああ」エリックは短く答え、また一歩戸口へと足を進めた。

「エリック……」
今度は最初よりももっと悲壮感漂う声だった。引き留めたいのかどうかも分からないのにどうしてこんなふうに彼の名を呼んだのだろうか。

エリックはサミーに向き直り、大股で近づいて来た。それを見たサミーは、つい、後ずさり椅子にぶつかり、ストンと腰をおろした。

エリックがサミーを見下ろし、言う。
「エリック?……待って……行くな……そう言いたいのか?」

「ただ、もっと、アンジェラのことを聞かせてくれ」
サミーは俯きぼそぼそと言った。

エリックは舌打ちをした。

「ハニーはもうすぐこっちへ戻ってくる。それは知っているだろう?その事でちょっとした揉め事が起きている。端的に言えば、マーサの代わりをする者がいない。それを解決するために今からロンドンへ行くところだ」
エリックは淡々と説明した。

「マーサの代わり?そんなのできる人なんていないだろう?」

「そうだ、だから困っている。きちんとした者をつけないと、マーサも母様も納得しないからなぁ」

「ラウンズベリー伯爵夫人も?それはそうか――大切な娘の世話をマーサ意外に任せるなんて考えられないんだろうね」そこまで言って、サミーはふと湧いた疑問をエリックに問う。

「なあ、伯爵夫人は本当にアンジェラの秘密を知らないの?そんなことあり得るのか?」

サミーのもっともな疑問に、エリックは表情を和らげた。

「母様は……少し変わっているんだ。昔からだけど、父様が亡くなってからは余計に」エリックは思い出し笑いをしながら「セシルなんて、ハニーが生まれるまではドレスを着せられていたんだから、母様の女の子に対する想いというか執着は相当なものだ」と、懐かしむ様に言った。

「けど、彼女はとても聡明だ。今回の事も身代金目的の誘拐で落ち着いたけど、伯爵夫人は大した理由も聞かないまま納得したんだろう?それは事を荒立てればアンジェラの評判はズタズタになると分かっているからだ。誰も犯人と数日いて無事だったとは思わないだろうからね」

「ああ、それは否定しない。母様は余計なことは聞かなかった。犯人がどうなったのかすら。きっと自分で八つ裂きにしてやりたかったはずだ」

「――すごい精神力の持ち主だね」

「サミー、言っておくが母様は再婚する気はないぞ」

「伯爵夫人を褒めるとそうなるのか。気を付けるよ」

サミーは軽く微笑み、立ち去るエリックの背を見送った。




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裏・花嫁の秘密 3-1 [裏・花嫁の秘密]

「よくここが分かったな」

「というよりも、僕が来る事を分かっていて、君が待っていたんだろう?」

ロンドンにあるエリックの住まいのひとつにサミーは来ていた。エリックはいくつも部屋を借りていて、いつ、どの屋敷にいるのかは誰にもわからない。ただ兄であるロジャーだけは、なぜだか居場所を特定するのに長けている。

サミーは特に誰かに所在を確かめた訳ではなかったが、すんなりとエリックの居場所を突き止めていた。

「俺がお前を待つ理由でもあるのか?」
狭いアパートの室内で、エリックは安楽椅子にふんぞり返っている。サミーは戸口から一歩中へ足を踏み入れ、慎重に自分の座るべき椅子を探す。だが、部屋が狭すぎて、どこに座ってもエリックと適切な距離を保てそうになかった。

「何を怖がっている?」エリックはサミーを挑発するかのように、嘲りの笑みを浮かべる。「案外、憶病なんだな。座らないなら立ったままでもいいし、何か飲みたければそこのワゴンに何でも揃っている。用件をさっさと言え」
エリックは片手をあげ、ワゴンの酒瓶を指し示す。

サミーはエリックの見え透いた下心を無視し、出入り口に一番近い椅子に腰を下ろした。

座る必要などなかったが、実のところサミーは疲れていた。

フェルリッジを出る時、クリスたちはオークロイドの催す狩猟パーティー参加の為に、荷造りをしていた。滞在期間が短いとは言え、荷物は相当な量になる。
出掛ける事を渋っていたくせに、アンジェラの方が乗り気というだけで、クリスはだらしなく頬を緩め、準備にいそしんでいた。

そんな二人を横目に、サミーはロンドンへ向かう前に少し寄り道をしている。

メイフィールド・カッスル

ロンドンとは反対方向だ。フェルリッジから更に南に位置する、メイフィールドの本領。絶壁の上に立つ、中世の石造りの古ぼけた城だ。

代々、当主はここで過ごしていた。特に、祖父はこの城がお気に入りだった。

だが、父だけは違った。赤毛の妻を迎えなかった事で、この地から追い出され、フェルリッジにある屋敷へ移り住んだ。そして、爵位を受け継いだ後も、二度とメイフィールド領へ戻る事はなかった。

クリスも同じだった。本領へ行く事はほとんどない。

叔父が亡くなり、メイフィールド・カッスルには住む者がいなくなった。手入れも行き届かず朽ちていこうとしている。

サミーにとっても居心地いい場所でも、住みたい場所でもなかった。だが、サミーはもしもの為に準備をしていた。

もしも……。

つづく


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裏・花嫁の秘密 3-2 [裏・花嫁の秘密]

「新聞に記事が載って、三日。予想通りだ。そのことで来たんだろう?」
エリックは片眉を大仰にあげてみせた。

「僕の言った通りじゃないか。待っていたんだろう?」
サミーも負けじと返す。

まったく。部屋へ入り人の顔を見るなりビクつきやがって。近づけば犯されるとでも思っているのか?

エリックは苦々しい思いを胸にしまい、久しぶりにサミーの顔を見れたことに、安堵と喜びの入り混じったため息をついた。

「それで、何か言う事があって来たんだろう?」

「どうして、事故の事を新聞に載せたんだ?クリスをフェルリッジから遠ざけて何を企んでいる。それとも、ただ、あの女を追い詰めるための作戦なのか?」

「お前は頭はいいが、面倒な奴だ」
無造作に束ねられていた髪の毛を結びなおしながら、エリックは言った。

「面倒なのはお前だ」

「俺は、ひとつの行動で、複数の結果を求める。クリスをオークロイドのところへ行かせ、あの女を揺さぶり――あとは、俺の個人的な用事も片付ける。これで満足か?」

エリックは立ちあがりサミーに近づく。サミーは警戒した表情を一瞬浮かべたが、すぐに平気だというようなすました顔に戻った。

それを黙って見ているエリックではない。

「お前は俺といる時は、素直じゃないくせに、かえって、ありのままを晒している」一歩、また一歩と近づく。「俺の事を意識し過ぎなんだ。拒絶する事をやめて受け入れればそれでいいのに、いったい俺のどこが不満だった?善くしてやっただろう。あんなにいい声で啼いていたくせに、違うとは言わせない」

サミーの目の前に立ち、ゆっくりとその頬に触れる。サミーは目を逸らし、唇を引き結んだ。

エリックは屈み込み肘かけに両手をつくと、サミーを椅子と自分との間に閉じ込めた。
「俺はこれから出掛けなきゃいけないんだ。お前の相手をしている暇はない。けど、ここまで来たんだ、キスくらいしてやる」
そう言って、唇を重ねる。

ゆっくりとしていては相手に逃げられるのがおちだと、エリックは荒々しく口づけた。抵抗する隙を与えず、欲望丸出しで、素早く唇を開かせその中へ滑り込む。いつの間にか肘かけに置いていた手は、両方ともサミーを捉え、身動きできなくしている。

サミーは完全に虚を突かれた様子で目を見開いたままだ。

あれだけ警戒しておきながらこれだ。
エリックは笑いそうになるのを堪えながら、息が切れるまで口づけた。

「お前はかわいいな。幼い子供のようだ」

つづく


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裏・花嫁の秘密 3-3 [裏・花嫁の秘密]

エリックが迫って来て、逃げようと思うのに身体は思うように動いてくれなかった。あっという間に口づけられ、荒々しくも繊細な口づけになすすべなく、自らを明け渡していた。

身体はあまりにも素直で、エリックのキスの心地よさにしっかりと反応してしまった。唇を離され、呼吸を整える間、エリックは意地の悪い笑みを浮かべ、サミーの下腹部に視線を落としている。

サミーは平静を装い、目にかかる前髪を指先で払う。

「君の個人的な用件には興味はないが、ここを離れるつもりか?」

「ああ、しばらくな」

「あの女の事は放っておくのか?」
実の所、サミーはジュリエットには興味がなかった。もちろんアンジェラを傷つけた報いは、当然受けさせるつもりだったが。

「いい事教えてやろう。あの女、新聞記事を見て心底驚いていたそうだ。どうやら、目的を達していたと思っていたらしい。田舎の屋敷から慌ててここへ戻って来ている。今はラッセルホテルに滞在している。金もないくせに一流のホテルに泊まるとは、どこまでも愚かな女だ」

「もしかして、密偵でも送り込んでいるのか?」

「悪いか?」

「いや。彼女はどうするつもりだと思う?まだアンジェラの命を狙うと思うか?」

「さあね。とにかく、何かする前に、こっちが息の根を止めてやる」

「ふうん。それで、どこへ行く?」

「気になるのか?」
耳元で囁かれ、サミーは体中が痺れるのを感じた。
エリックは簡単に距離を詰めてくる。少し離れたと思えば、次の言葉を発する時には息のかかるくらい近くに居る。

エリックに抱かれて以来、自分でもどうしたいのか分からないまま、彼を近くに感じたいと思ってしまう。

ただ一度、身体の交わりを持っただけで、こんな気持ちになるのは初めてだった。
慰めをエリックに求めるべきではなかったのだ。おそらくエリックの中にアンジェラを見ているのだろう。はちみつ色の柔らかな髪もヘーゼルの瞳もアンジェラのものと同じだ。

「別に。それなら、こっちはこっちで好きにさせてもらうだけさ。ジュリエットはおそらくここでパトロンを見つけるつもりだろうから、僕もラッセルに滞在しようかな」

エリックの眼の色が変わった。ヘーゼルのはずの瞳が一瞬濃いグリーンに見えた。

エリックにぐっと肩を掴まれ、サミーは呻き声を漏らした。

「言っておくが、余計な事はするな。こっちは用意周到に獲物を追いこんでいるんだ。まして、お前があの女のパトロンになろうなどと思うなよ」エリックは一度言葉を切り、サミーを足が浮くほど抱き上げ、頬に唇を寄せた。「お前は俺のものだ。今後一切その肌を誰にも触れさせるな。わかったな!」

僕は君のものじゃないと、大声で言ってやりたいのに、結局口から出た言葉は「耳元で、大きな、声、出すな」だった。

つづく


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裏・花嫁の秘密 3-4 [裏・花嫁の秘密]

サミーはなかば追い出されるような形で、エリックのアパートから出た。

気に入らない。お前は俺のものだと言い、それを示すようなキスをされ、それでもその次には何もなかったかのようにエリックは平然としている。

「くそっ!」

サミーはらしくない罵り言葉を吐き、石畳の道を馬車を避けながら横切る。
ここからリード邸までは徒歩で三十分ほど。だが、サミーはリード邸ではなく、反対方向へ歩を進めた。

ほんの少し進んだところで、ふと、振り返り、先ほど自分が出てきた建物へ視線を向けた。

それと同時に扉が開き、エリックが出て来た。そして、建物の前に停まっていた馬車に乗り込みすぐさまこちらへ向かって走り出した。

サミーは咄嗟に車道に背を向け、その馬車が通り過ぎるのを待ち、自分も近くの辻馬車に乗り込んだ。

我ながら馬鹿馬鹿しいと思いながら、サミーはエリックの後をつけた。
ほどなくして、エリックを乗せた馬車は瀟洒なテラスハウスの立ち並ぶ界隈へと来ていた。馬車はとある邸宅の前で止まり、エリックは従者がステップをおろす前に軽やかに飛びおり、扉を叩いた。そして扉が開くと、エリックは邸内へと入って行った。

ここがメリッサの住むテラスハウスだということが、サミーにはすぐに分かった。正面玄関前に乗りつけるとは、あまりにも堂々としすぎている。だが二人の関係は公然のもので、こそこそ裏口から出入りする必要などないのだ。

しばらくすると、旅行用のドレスに身を包んだメリッサがエリックと共に出て来た。荷物はすでに従者により積まれている。

二人がこれからどこかへ旅行に出掛ける事は明らかだった。

用事はこれか――

サミーは苛立つ感情を抑えつけ、自分の目的の為、ラッセルホテルへ向かった。エリックは余計な事をするなと言ったが、自分は他の女――実際は男だが――と好きにやっている。なら、こっちも好きにさせて貰う

はっきり言って、エリックのようにまわりくどい事をするつもりはなかった。直接ジュリエットを揺さぶり、出方を見る。本当は首を締め上げてやりたいところだが、ひとまずこの国から追い出すか、それが出来なければ債務者監獄へ送り込むかだ。

そうなったとき、ナイト卿は黙って見ているのだろうか。

子を生さなかった彼女はもはや一族の者とは言えないだろう。ということは、金遣いの荒い彼女をあっさり見捨てるのが当然の見方だろう。

すでに、ロンドンの子爵邸を明け渡させ、田舎の小さな屋敷のみを与え追い払っているのだから、今後彼女がどんな目に遭おうとも無関係を装うだろう。

そう思うと、サミーは今後の行動を起こしやすかった。まずは彼女をじっくりといたぶるところから始めよう。

ホテルのロビーへ足を踏み入れた時、ちょうど獲物が優雅にラウンジでお茶を楽しんでいた。

サミーは口元を冷酷そうにゆがめると、迷わずそこへ向かった。



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裏・花嫁の秘密 4-1 [裏・花嫁の秘密]

本編第八部、スピンオフ『不器用な恋の進め方』第三部の
クリスとアンジェラがオークロイドパークに到着したあと…



ロンドンのリード邸のノッカーを激しく叩きながら、エリックは激怒していた。

ほんの少し目を離しただけで、サミーはとんでもないことをしでかしてくれた。

エリックは悪態をつきながら、扉が開かれるのを待った。

ゆっくりと扉が開き、屋敷の執事が怪訝そうな顔を覗かせた。

「いつまで待たせる気だ!」
エリックは名乗りもせず、屋敷内へ入ると迷わず図書室へ向かった。

サミーにこの屋敷での居場所と言えば、図書室しかない。数日前にホテルを引き払って、いまはここにいる事は確認している。

メリッサとロンドンを発ってから間もなくして、サミーがジュリエット・オースティンに接触したと報告があった。
ジュリエットは一方的な恨みから侯爵家の馬車を襲い、アンジェラを監禁した黒幕とされている女だ。

エリックは歯ぎしりする思いで、その報告を受けたが、事情があってすぐにロンドンへ戻ることが出来なかった。

接触しただけならまだしも、三流の新聞にゴシップが載る始末だ。

「ミスター・コートニー困ります」

白髪頭の小柄な執事が、歳の割には素早い動きでエリックの前に立ちはだかった。

「言っておくが、ここにあいつがいる事は知っている。邪魔をする気なら、職を失うことを覚悟するんだな」
エリックは足を止めず、怒気を前面に押し出し言った。

「誰も屋敷に入れてはいけないとの命を受けております。あなたさまをこれ以上先へお通しすれば、わたしの仕事は間もなく失われるでしょう」

エリックはぴたりと足を止めた。

「お前の主は誰だ?サミーじゃないだろう?もしも俺がこれ以上先へ進むことで、お前の職が失われるとしたら、クリスにそうさせないように言っておくから安心しろ。もしくはその妻に――俺の妹だが――一言言えばだれも逆らえない」

執事はそれでもエリックの邪魔をしたが、直接身体に触れ止めることが出来ない為、やや時間がかかったものの無事図書室の前に到着した。

扉を乱雑に押し開けると、外の騒ぎなど気付いていないかのようにサミーが悠然とソファで読書をしていた。

「読んでもいない本を広げて何してる?」

エリックはズカズカと押し入り、サミーの手から本を奪い取った。
サミーは動くことが面倒だという様に、ゆっくりと――本当にゆっくりと顔を上げエリックをひたと見据えた。

「サミュエル様申し訳ありません」
執事がおろおろと気弱そうな声を出す。

「お前はよくやっている。こいつが図々しいだけなんだ。さがっていいよ」
サミーはエリックから視線をそらさず言った。

「承知いたしました。あの……お茶をお持ちいたしましょうか?」

「結構だ。ここを出て扉を閉めてくれればそれでいい」
エリックはまるで自分の部下を扱うように、執事向かって命じた。

執事が伺うような視線をサミーに向けている。

「そうして」

「承知いたしました」
執事は深々と頭を下げ部屋を出て、ゆっくりと確実に扉を閉めた。

「さて、どうして余計な事をしたのか、説明をして貰おうか」
手にした本をクッションの並ぶソファに放り投げ、背筋を伸ばし腕組みをしてみせる。こうやって身体を大きく見せたところでサミーが動じないと分かっている。
心を掻き乱されているのはエリックの方で、冷静さを装う事はそうたやすくはなかった。

つづく


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あとがき
こんばんは、やぴです。
前回、エリックがロンドンを発った時、サミーはジュリエットに会いに行きましたが、
その後のお話。 

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裏・花嫁の秘密 4-2 [裏・花嫁の秘密]

くそっ!苛々する。

涼しい顔で見上げてくるサミーの瞳はまるで責めているようで――

「どうしてあの女に会ったりした?」

サミーを優位に立たせたくないが、まるで冷静になれない。新聞記事には、サミーと思われる男がジュリエットの新しいパトロンに名乗りを上げたとあった。
三流の新聞だが、サミーの口から聞くまでは、その記事が全くのでたらめだとは決めつけられない。

それにジュリエットは男を虜にする術を心得ている。楚々とした美しさからは想像もつかないほどの男性遍歴の持ち主だ。
最初の結婚は彼女が十七歳の時。夫はその二年後に病気で亡くなっている。
そして若くして未亡人になったジュリエットはとある舞踏会でクリスと出会った。付き合いは二年ほど続き、その後彼女はナイト子爵と結婚をした。
しかし二度目の結婚生活も三年で終わりを告げ、ジュリエットは再び未亡人となった。

公に分かっているのはこれだけだが、ギャンブルにのめり込むあまり、金を引き出せる相手となれば見境なくその身体を開くという噂だ。
いや、噂ではない。この事はしっかりと裏をとってある。
 
「君にいちいち報告をしなければいけないのか?」

やっと返事をしたと思えば、くそ生意気な。

「あの女を追い詰める為にこっちはいろいろ動いているんだ。勝手な事をされたら困る」

またしても間が開く。

エリックは指先で腿を叩きながら、根気強くサミーの返しを待った。

サミーは見上げるのが疲れたとでも言うように、首をぐるりと回しはぁっとわざとらしく溜息を吐いた。

「座ったらどうだ」

「そうしようと思っていたところだ」

エリックは暫く居座るつもりで手近なソファに腰をおろした。サミーの左側の頬は部屋の暖かさでほんのりと色づいているが、その美しい横顔は一週間も経たないうちに拒絶するようなものに変化している。

一週間前にロンドンを発ったときは、俺の狭いアパートで襲われはしないかとビクビクとしていた。キスをしてやると、思った通り、馬鹿みたいに驚き、顔を無垢な少女のように赤らめていた。

エリックの額にジワリと冷や汗が滲んだ。もしかするとすでにあの女と関係をもったのかもしれない。

もともと俺を受け入れていた訳ではないが、こんなに高い防御壁を築く理由はそれしか見当たらない。

「それで、君は新聞記事を見てここへやって来たのか?それとも、僕は見張りをつけられているのだろうか」

エリックは返答に窮した。
サミーはそれが答えだとばかりに、エリックに非難の眼差しを向けた。

「だったら訊くまでもなく、僕がどこで何をしていたか知っているんだろう?それなら、君がここへ来た理由もないわけだ。玄関の場所は言わなくても分かるだろう。さっさと――」

「それ以上、生意気な口をきいたら、その身体に嫌というほど思い知らせてやるぞ」
エリックはサミーの言葉を鋭く遮った。少し黙っていただけでこれだ。

本当にこれ以上反抗的な態度を取るようなら、いますぐここで犯してやる。

サミーはエリックの殺気のようなものに気付いたのか、ぷいっと不貞腐れ、顔を逸らした。

「で、あの女と寝たのか?」
もはやいちいち遠回しなやり取りはしていられない。いますぐに返事がなければ――犯してやる。

「数回、公の場に一緒にいる姿を見せたら、そう解釈されるのか?」
皮肉った物言いが、サミーのせめてもの反抗だろう。
だがこの返答では、寝たのか寝ていないのか、どちらとも判断がつかなかった。

つづく


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裏・花嫁の秘密 4-3 [裏・花嫁の秘密]

「数回公の場だと?同じホテルに宿泊して、部屋にも行っただろう。俺が知らないとでも思っているのか」

知っているのに何故訊く?自分の事を棚に上げて、人の行動をすみずみまで監視して、何様のつもりだ。

「ああ、そうだったな。君は僕に見張りをつけていたんだったな。そうさ、部屋へ行ったさ。自分がどんなに理不尽な扱いをされているかを聞かされ、アンジェラにした惨い仕打ちを他人事のように口にするあの女と、ホテルの狭い部屋で何時間も過ごした。吐き気がした。けど、僕は彼女にパトロンになってもいいと――」

「言ったのか!」
エリックが噛みつくように言った。

「な、なに…?」
あまりの剣幕にサミーはたじろいだ。
いったいなんだってエリックはこんなに興奮しているんだ?

「パトロンになると言ったのか?もうなったのか?ハニーの為に吐き気のするほど嫌な女に金と身体を提供するのか?」

「身体を提供するのはあっちだ」
エリックの言い方が癪に触って、サミーはむきになって言い返した。

「言ったんだな」
憤怒に顔を真っ赤にして、エリックはいまにも飛びかかって来そうだ。腰を浮かし、攻撃態勢に入っている。

「直接は言っていない。ほのめかしただけだ」
エリックの怒りが自分に降りかかるのは好まない。サミーは慌てて言い繕うが、エリックにはすでにサミーの言葉が耳に入っていない。

「言っておくがな、あの女が喰い付きそうな男をこっちは準備していたんだ。おまえが横やりを入れた事で計画が台無しだ。計画通りに進めるにはお前がその男の役目を引き継いで、あの女と寝る事だな」

言葉ではそう言っているものの、エリックはサミーが他の誰かと触れ合う事さえも許さないだろう。そう言っている本人にも、言われたサミーにもそれは分かっていた。
ただ、サミーはエリックの気持ちには気付かない振りをすると随分前に決めている。

「それであの女を地獄へ落とせるなら、いくらでもやってやるさ」
そう言う事でエリックが更に怒りを増大させると分かっているが、大人しくはいはいという事など出来ない。
「で、具体的にはどうやって地獄へ突き落そうとしていたんだ?僕の代わりに男を派遣して、骨抜きにするだけなのか?それを利用して、犯罪に再び手を染めさせるのか?」

サミーはエリックをまねて自分を大きく見せるように、背筋をぴんと伸ばし、腕を組んだ。顎先をあげ、エリックの反論を促すような視線を送る。アンジェラを苦しめたあの女が最も苦しむ方法をエリックが知っているというなら是非聞きたい。

「まあ、まずまずってところだな」

エリックの気の抜けた返事に拍子抜けした。返事というよりも、まったくサミーに取り合っていない。

「いいところを突いていると言いたいのか?」
サミーは片眉をあげた。

「そんなところかな。おそらくあの女は再びハニーを襲うだろう。今度は失敗しないように、もっと使える奴を雇うだろうな。サミー、お前のせいでハニーが危険な目に遭う確率が増したという事は分かっているんだろうな?」

「僕のせいで?それは見当違いだろう。それよりも、どうしてアンジェラをそんなに恨むと思う?自尊心を傷つけたのはクリスでアンジェラではない」

「ふんっ。なんたってハニーは男だからな。女の本能というべきものがそれを感じているんだろうさ」

確かに。
そこは納得せざるを得ない。女というのはやたらと敏感な機能が備わっているものだ。
その敏感さがアンジェラに備わっているのは、不思議でもなんでもない事が、不思議だ。


「それはそうと、新聞社にはいくら払った?あのくだらない記事に」

「僕が依頼したと分かっているんだな。金額は言えないが、当分は紙面をこの話題で独占させる様に手を打った」

「本当に、お前はくだらない事をする」
エリックは呆れて言葉を投げ捨てた。

とりあえずはあの女を罠にかける事には成功している。しばらくこの生意気な男の好きにさせておこう。そのあとは嫌でも俺の好きにさせて貰う。




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あとがき
こんばんは、やぴです。
この続きは本編で……の、予定です^_^;
この二人はまだまだくっつきそうにもないですけどね。

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