はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナおうちに帰る ブログトップ
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ヒナおうちに帰る 11 [ヒナおうちに帰る]

ダンに焚きつけられたウェインは、お腹をしっかり満たすと、談話室の隣の執務室を覗いた。

「ホームズさん、ちょっといいですか?」

ホームズはチラと顔を上げ、帳簿をぱたりと閉じた。「なんですか?ウェイン」特別に注文した回転椅子をくるりと回して、ウェインに向き直る。

「カイルのお世話、僕に任せてもらえませんか?」ウェインは身体の前で組んだ手を揉み合わせた。ホームズへの頼み事は、何であれ緊張する。

「旦那様はどうするのです?他の者に任せるなら旦那様にお伝えしなければ」ホームズは目に見えて不機嫌になった。いつでも無表情だと思ったら大間違いだ。

「旦那様のお世話を誰かに譲る気はありません」取られてたまるか。「どちらもきちんとやります」

ホームズは批判に片眉をわずかに吊り上げた。「どちらもなど、不可能です。旦那様はおおらかな心でお前を従者にしているが、不満に思われていないと思うか?」

「へ、不満?」おおらかな心って?ウェインはホームズの想定外の発言に虚を突かれた。

「それに、カイルは自分のことは自分で出来る子だ。お前の手など必要としないだろう」ホームズは半人前の従者をなじるように言う。

「いったいカイルの何を知っているんです?僕の方がカイルに詳しいんです。カイルはひとりで心細いんです。僕を必要としているんです」ウェインは偉そうに言ったが、ほとんどがダンの受け売りだ。

「では、ウェインにはカイルのお世話を任せましょう」

「やった!」

「待ちなさい、まだ続きがある」

ウェインは口をつぐんだ。

「旦那様のお世話は、エヴァンに任せる」ホームズがとびきりの重大発言をこともなげに言う。

「え!エヴァンですって!そんな――」

「黙りなさい!決定に従わないなら、使用人見習いに落とすぞ」ホームズがいちいち言葉を遮るウェインを一喝する。

ウェインはうぐっと呻いた。

旦那様の従者が見習いに!?無理無理!絶対無理。

ウェインは完全に敗北した。「カイルがここにいる間、旦那様のことはエヴァンに任せます。そのあとはちゃんと元に戻りますからね」ぶちぶちと唇を尖らせながら言う。

「では、ぐずぐずせずに行動しなさい」

ホームズの厳しい口調に、ウェインは逃げるようにして執務室を出た。

つづく


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ヒナおうちに帰る 12 [ヒナおうちに帰る]

「ヒナの部屋はどこなの?」カイルは案内された部屋の前で、ヒナに訊ねた。

「あっち」ヒナはカイルの横に立って、自分の部屋の方を指差した。案内すると言ったわりに先を歩いたのはカイルだ。

「近いんだ。よかった」カイルはほっとした。いまだウェインに会えず、心細くしていたのだ。ヒナが傍にいれば、これほど心強いことはない。

「ヒナ、戻ってきましたね。そろそろ着替えをしないと、晩餐に間に合いませんよ」ヒナの部屋からダンが顔を覗かせた。

「このままでいいのに」ヒナはむっつりと言って、カイルの陰に隠れた。

「よくありません。カイルも支度をしなきゃいけませんよ。部屋でウェインが待っています」

ダンの口調はあきらかにラドフォード館にいる時と違っていた。けれどもそんなことより気になったのは、その内容だ。

「え!!ウェインさんが?」カイルはヒナも何もかも置き去りにして、部屋のドアを勢いよく押し開け、中に踏み込んだ。

「やあ、カイル。荷物出しておいたからね」当然のようにそこにいるウェインが笑顔で出迎える。

「ふわぁ~!ウェインさ~ん、会いたかったよぉ~!」我慢できずに思い切って胸に飛び込んだ。

「どうしたの?お昼までは一緒だったじゃない」ウェインは驚いた様子でくすくすと笑った。

「うん、うん。そうだけど、でも、僕……」カイルは気持ちをどうにか伝えようとするが、会いたかった以上の言葉を口にするのはとても難しく、口ごもってしまった。そして、そっと身体を離す。

「わかってるって。心細かったんだろう。ここにいる間、カイルのお世話は僕がするからね」ウェインはぴんと伸ばした背を、偉そうにぐぐぐっと反らした。

「え、でも、ウェインさんはウォーターさんのものなのに」カイルは嬉しさと戸惑いとがないまぜになった表情でウェインを見上げた。

ウェインは悲しげに目を伏せた。ちょうどカイルと視線が合う。「心配はいらないよ」そう言って、何かを吹っ切るようににこりとする。「少しの間なら、エヴァンに任せてもいいかなぁって。もちろん旦那様にもお許しをもらったし、僕がいなきゃだめってほどでもないだろうしね。ヒナと違って」

「ヒナはダンがいなきゃ、ひどい格好のままだもんね」カイルはさっきまで一緒だったヒナのリラックスした服装を思い出して、にやりと笑った。

「さて、そろそろ着替えようか。ヒナに付き合っておやつをたっぷり食べてたら、晩餐は入らないかもしれないけど、初日だからね。みんな揃ってテーブルに着くことになっているんだ」

「平気。まだまだ食べれるよ。でも、ウェインさんはいないんでしょ?」カイルはしゅんとなって訊ねた。

「そうだね。でもほら、ヒナがいるから大丈夫さ。ジェームズはちょっとおっかないけど、クロフト卿がいるし、何も恐いことなんてないからね」ウェインは元気づけるように言い、前もって用意されていた夜会服を手に取った。「旦那様がカイルにってさ」

「わぁ~!すごいや。ヒナみたいだ」カイルは目を輝かせた。

「ふふ、そうだね。ではでは、支度をしましょうか。お坊ちゃま」

「ふへへ、やめてよぉ~。恥ずかしい」カイルは照れ照れ、どさくさに紛れてウェインにじゃれついた。

まだ始まったばかりのここでの生活は、とても楽しいものになりそうだ。

つづく


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ヒナおうちに帰る 13 [ヒナおうちに帰る]

いつまでも支度の整わないヒナを迎えにやってきたジャスティンだが、かれこれもう五分ほどは待たされている。

ダンがあれやこれやとヒナをいじくりまわし、いったい何をしているのかと思えば、髪型が決まらないという。

しかもこっちがちょっとでも口を出そうものなら、鋭いひと睨みが飛んでくる。主人に対して何たる無礼。それもこれも、ヒナがダンに対して注文を付けているから仕方がないのだが、二人のこだわりようときたら……。

「リボンは青と緑のシマシマがいい!」ヒナがダンの手にあるワイン色のリボンにケチをつけた。

「でも、今夜の服装にはこちらがぴったりです」反論するダン。

確かにダンの言う通りだ。今夜のヒナは、ボルドー産のワインを思わせる深い赤紫色の上下を着ている。リボンもワイン色が妥当だが、ヒナは頑として譲らない。

これでは埒が明かないので、ジャスティンは折衷案を差し出した。

「髪はおろしたままにしたらどうだ?俺はその方が好きだ」さりげなく自分の好みも伝える。ヒナのふんわりとした髪に胸を擽られると、すごく興奮する。お返しに薄桃色の乳首を吸ってやると、ヒナはきゃっきゃと転げ回って、お返しをしてくる。

「いけません!」

すぐさま反論された。妄想をぶちこわしやがって!

「だったら、おだんごにする!」ヒナが抵抗を見せる。

「横を編み込んだらオダンゴは出来ませんよ」ダンが頑固に言う。

「あ、編み込むんだから」ヒナが慌てて言う。今夜は編み込みが重要らしい。

ジャスティンはどうでもいいと思いつつも、口を出さずひたすら待った。前髪を切ったヒナは前より幼くなった気がする。まっ、そこがまたいいのだが。

ヒナの希望通り、横は編み込まれて背中に三つ編みが垂らされた。結果、リボンはワイン色で落ち着いた。

ダンはヒナを送り出し、ヒナはジャスティンの手を取ってダイニングルームへ向かう。ようやくだ。

「カイルはもう下に降りたぞ」

「ヒナたち、ちこく?」ヒナが握った手を振り振り訊ねる。おかげでジャスティンも子供みたいに手を振る羽目になった。

「ヒナのせいで遅刻だ」ジャスティンは言い直した。

「えー!そうなの?」ヒナは不服そうに唇を突き出した。

「冗談だ。今夜のヒナはとても素敵だぞ。晩餐が終わったら、二人でゆっくりしような」ジャスティンはカイルに取られる前に予約を入れた。

「ヒナ、晩餐いらない。ジュスとゴロゴロしたい」ヒナがさっそく誘いに乗る。こういうところが、ジャスティンがヒナに夢中になってしまう要素だ。

「それもいい考えだな」ジャスティンは立ち止まってヒナを抱き寄せ、首を傾げてキスをする。吸い付きたくなるような唇をしたヒナが悪い。背後でダンの咳払いが聞こえたが、かまわずたっぷりと味わった。「じゃあ、行こうか」

「はぁい!」

夜が楽しみだ。

つづく


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ヒナおうちに帰る 14 [ヒナおうちに帰る]

「ヒナ、遅刻です」

ジャスティンとヒナがのろのろとダイニングルームへ入ってくると、ジェームズが事実だけを端的に述べた。

確かに、ヒナは一分ほど遅れた。けれど、遅れたのはヒナだけではない。ジャスティンもだ。

パーシヴァルは不満げに口元を歪め、ジェームズの指摘に補足した。「ジャスティンも遅刻。今夜はカイルの歓迎会だってのにさ」イヤミもプラスする。ジェームズのジャスティン贔屓にも困ったものだ。

「ヒナがリボンのことでダンと揉めてな……」ジャスティンは仕方がないだろうとばかりに言い、さりげなく席に着いた。いつものようにみんなを見渡せる、主の席だ。

「ごめんねカイル。ヒナは青と緑のシマシマがいいってゆったのに、ダンがだめぇって」ヒナは言い訳をしながら、カイルの向かいに腰を下ろした。

「平気だよ。クロフト卿がジェームズさんを紹介してくれて、お仕事の話もいろいろ聞かせてくれてたんだ。ねぇ」カイルはヒナの隣に座るパーシヴァルに同意を求めた。

「仕事の話?」ジャスティンは警戒するようにパーシヴァルを見る。仕事の話はカイルに聞かせていいようなものではない。

パーシヴァルは何食わぬ顔で、ぴかぴかに磨かれた爪の先にふっと息を吹きかけた。「僕がどれだけジェームズの役に立っているのか、ちょっとばかり教えてあげたんだ」

「まったく役には立っていませんが」ジェームズが、つと口を挟む。

「何を言う!僕がフロアを歩いただけで客たちがどれだけ興奮したか、君だって――」

「おい!その辺で口を閉じないと、ここから追い出すぞ」ジャスティンは慌ててパーシヴァルの不埒な発言を制した。

「パーシー出て行くの?」ヒナはナプキンを膝にのせながら訊ねる。

「いかないよっ!ヒナってば、ジャスティンの言うこと真に受けちゃだめだって、いつも言ってるじゃないか」追い出されたら行くところのないパーシヴァルは必死になって言った。

「でしたら、子供たちの前では言葉に気を付けてください。それから、ジャスティンもお客様の前だということを忘れないでください」ジェームズは子供っぽい大人二名を厳しい口調でたしなめ、部屋の隅に控えるホームズに目配せをした。

ホームズがドアの外に控える給仕係に合図をすると、ずらずらと美男集団がシモン自慢の料理を運んできた。

今夜は主人の帰宅祝いと新しい住人の歓迎会を兼ねているので、大人たちにはシャンパン、子供たちにはシードルが用意されている。ヒナは普段口にしない飲み物に興味津々で、興奮気味にグラスに手を伸ばした。

そして、予想通り――グラスを指先で弾いて倒してしまった。それもこれも、ヒナの手が短いためだが、新人がヒナとグラスの間合いを図り損ねたせいでもある。これはベテランでもなかなか難しく、完璧な仕事ができるのはホームズを置いて他にはいない。

ジャスティンはチッと舌打ちをし、顔面蒼白の新人を下がらせた。そのあいだにホームズが風のように素早くヒナのそばにやってきて、テーブルを瞬く間に元通りにした。

カイルもひっそりと手を伸ばしていたが、手伝うには及ばなかった。

「なんだか、ヒナが戻ってきたって感じしない?」パーシヴァルは嬉しそうに手を叩いて、グラスを手に取った。「さあ、無事の帰宅を祝って乾杯しよう」

もちろん挨拶は主人であるジャスティンの役目だったが、一足遅かった。

「わぁー!かんぱ~いっ!」ヒナが先に言ってしまった。

つづく


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ヒナおうちに帰る 15 [ヒナおうちに帰る]

食事が始まりしばらく経って、ジャスティンは驚きとともに訊ねた。

「これはなんだ?」触ったら火傷しそうな耐熱の器を指差す。

「チーズグラタン」フォークを器用に操るヒナは、チーズをびよ~んと伸ばして、ジャスティンの疑問に答えた。

「それはわかっている。なんでこんなものが――」晩餐のテーブルにのるのかということ。シモンらしからぬ献立だ。

「ヒナのリクエストだからに決まってるだろう?シモンはヒナに頼まれれば、鴨のローストオレンジソース添えと一緒にチーズグラタンを出すなんてこと、いくらだって出来るんだ」パーシヴァルはチーズをはふはふと頬張るヒナの手元から、そっとグラスを遠ざけた。

「シモンの高いプライドも、ヒナが相手ではないに等しいということですよ」いい加減気付きなさいと、ジェームズはつんとすました顔で鴨肉を口に運んだ。

「それで朝でもないのにオムレツが出て来たのか?」

ジャスティンがそう言った時、ホームズの手からヒナの前に、ふわふわのオムレツの乗った皿がすべり降りた。もちろん、カイルの前にも。

「うわぁ~。ブルーノのよりもふわふわだぁ」カイルは両手で皿の端を掴んで、ふるふると振った。

「食べたらもっと驚くよ」パーシヴァルはそう言って、僕にも寄越せと、目に留まった給仕係をせっついた。

「きのこのクリームだ!」ヒナはオムレツを囲むクリームソースを平たいフィッシュスプーンですくい上げて、ちゅるんと吸い込んだ。「セボン」

「シモンは幸せ者だね」パーシヴァルもちゅるんする。

「あなたも幸せそうで何よりです」ジェームズは嫌味ともつかない言葉を呟き、赤ワインで満たされていくグラスに目を据えた。これで何杯目だろうかと、ふと思う。

自制心の塊のようなジェームズも、今夜は家族が揃った安堵感から、少々飲み過ぎていた。パーシヴァルが浮かれ、ヒナがはしゃぎ、新しいお客様も大いに喜んでいる。そしてそれをジャスティンが微笑ましげに眺めているとあっては、ジェームズも幸せを感じずにはいられない。

「あ、そうだジェームズ。今夜の予定だけど、僕の部屋に来るかい?それとも君の部屋に行こうか?」パーシヴァルのあからさまな誘い文句に、ジャスティンは眉を吊り上げた。ついさっき、口に気を付けろと注意されたばかりだ。

「予定?このあとクラブに戻りますが」仕事をするには飲み過ぎているジェームズだが、パーシヴァルの誘いをあっけなく退ける。ちなみに、約束を忘れているわけではない。

「なんだって!今夜は僕と過ごす予定だろう?」パーシヴァルは口を拭っていたナプキンをテーブルに叩きつけた。

「ヒナはジュスと過ごす予定」うふふとヒナは笑う。

「僕はウェインさんに街のお話を聞くんだ」カイルもうふふと笑う。

「二人ともずるい」パーシヴァルはすっかりいじけ、恨めしげにジェームズを見やった。「僕もクラブに戻るからな」

「ええ、執務室でお待ちしております。くれぐれも、フロアをうろうろしないように」ジェームズは警告するように言った。

こう見えて、なかなか嫉妬深い男である。

つづく


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ヒナおうちに帰る 16 [ヒナおうちに帰る]

デザートはシモンの自信作、カスタードクリームたっぷりの桃のタルト。

ヒナとカイルはズボンのボタンをひとつふたつと外して、感動モノの一品をぺろりと平らげた。

大人たちは大人の話があるというので、ヒナとカイルは重たいお腹を抱えてふらふらと部屋に戻った。

「あとで一緒に本を選びに行こうね」

「うん。あとでね」

カイルはヒナが手を振りながら自分の部屋に入るのを見届けると、くるりと向きを変え、ウェインがいると思しき使用人区画に通じる通路をじっと見つめた。

「向こうに行けば、ウェインさんに会える」でも、今はきっと休み時間だから行っちゃだめだ。「がまん、がまん」

諦めて、ドアの取っ手を掴んだ。吸った息を吐きながら、ぐっとドアを押し開けると、そこにはなんと!

ウェインさんがいたーーー!

ウェインは窓際でカーテンを閉めていた。カイルを見てたちまち顔をほころばせる。ジャスティンに仕えているときは絶対に見せない顔だ。

「どうしたの!ウェインさん休憩中でしょ?」カイルはバタバタと駆け寄り、心配そうにウェインを見上げる。大好きな人が無理をしていると思うと、たまらなく胸が苦しい。

「ヒナとカイルがダイニングルームを出たって聞いたから、先回りしたんだよ」これでよしと、ぴたりと閉じたカーテンの合わせ目を指差し、カイルに向き直る。

目が合ってドキリとする。「でも……ウェインさん、すごく疲れてるでしょ?」目を伏せて、甘えた声を出す。「僕、ひとりで大丈夫だよ」

「平気平気。さっきまでゆっくりしてたから。それにしばらくは色々な仕事が免除されているんだ」

「そうなの?」

「そうだよ。さあ、上着にブラシをかけるから、後ろを向いて」

カイルは従順に背を向け、どきどきしながらウェインに脱がされるのを待った。上着だけじゃなくて、全部脱いでしまいたい。そう思う僕は、おかしいのかな?

「お風呂はもう少し後にするだろう?それまで、よければお喋りでもしない?カイルのおじさんの話も聞きたいし」ウェインは上着をハンガーにかけると、準備しておいたティーセットをサイドテーブルから運んできて、カイルにソファに座るように促した。

カイルは樽のように膨らんだお腹を恥ずかしげに隠しながら、ソファに浅く腰掛けた。

「明日、アダムス先生が来るんだって。僕、先生に気に入られるかな?」

ウェインはテーブルの前に跪き、とぽとぽと紅茶をカップに注ぎながら返事をする。「もちろん、気に入るさ。カイルはとてもいい子だし、ヒナの友達なんだから。アダムス先生はヒナの好きなものはたいてい好きなんだ。はい、レモンティーだよ」

いい子だって。うふふ。

「ねぇ、ウェインさんもチーズグラタン食べた?」カイルはカップを手にして、フーフーと息を吹きかけた。

「もちろん、食べたさ。オムレツはなかったけどね」そう言って、ウェインはカイルの向かいに腰を下ろした。

「そうなの?あぁ、知ってたら僕のあげたのに」カイルはカップに口をつけ、一緒にいられなかった時間を埋めるように、ウェインがカップに手を伸ばす様子をじっと見つめた。

向こうにいたときみたいに一緒に食事ができたらどんなにいいか。でも今はまだお茶を飲むだけで我慢する。ふわふわパンみたいにがっついて、ウェインさんを驚かせたらいけないもん。

つづく


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ヒナおうちに帰る 17 [ヒナおうちに帰る]

カイルがウェインをがっつきたいと思っているなどと、つゆほども考えていないウェインは、のんびりとレモンティーを飲みながら、カイルの叔父の話に耳を傾けていた。

クラウド・ロスはヒューバートの弟で、スペンサーとよく似ているという。

バーンズ邸からさほど離れていない場所にタウンハウスを所有していて、帽子屋を営み、カイルが知らない仕事をいくつかしているという。詳しいことはスペンサーに聞いてとカイルは言ったが、ウェインはスペンサーが苦手だ。それを言うなら、ブルーノも。なぜダンがあの二人と仲良くしているのか、全く理解できない。どうせ仲良くなるなら、カイルみたいに愛嬌があって慕ってくれるような子がいい。

「カイルはそこで何か手伝うの?」ウェインはすっかりくつろいだ様子で訊ねた。

カイルは首を振った。「ううん。僕の仕事は勉強だもん。それに僕がおじさんの仕事を手伝えるとは思えないよ」

「どうして?カイルに帽子を勧められたら、僕なら買っちゃうな。僕が買えるような帽子、売ってるといいけど」この界隈の帽子屋ってことは、価格もそれなりだ。

「もし気に入ったのがあったら、おじさんにまけてってお願いしてみる」カイルはぺろりと舌を出して、屈託なく笑った。

「ほんと!助かるなぁ~」せっかくだからひとつ新調してみるかな?

「僕、ここにいられたらいいのに。ヒナとウォーターさんみたいに、ウェインさんと一緒にいられたらいいのに……」カイルは不意に真顔になって、囁くように言った。

ヒナと旦那様のように?それは、また、何と言うか……知らないってこわいな。二人はカイルが考えているような、ただの仲良しさんとは違うんだよ。

ウェインは真実を告げてしまい衝動をなんとか抑え込んだ。一時的に主人の従者から外されているとはいえ、忠実なしもべであることには変わりない。

でも、確かにカイルの言う通りだ。僕もカイルがずっとここにいればいいと思う。

「おじさんのタウンハウスはすぐそばだろう?毎日会おうと思えば会えるじゃないか」

「うん。そうだね」そう言ったカイルは、少しがっかりしているように見えた。

つづく


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ヒナおうちに帰る 18 [ヒナおうちに帰る]

お風呂から上がったヒナは、手際よくタオルを頭に巻き付け、バスルームの外で待ちかまえていたジャスティンの胸にひとまず飛び込んだ。

ジャスティンがそこにいれば、何はさておき、抱き付かずにはいられない。

「ジュスもお風呂?」ほかほかの身体をジャスティンに擦り付ける。

「いや、ヒナが約束を忘れているようだから迎えに来た」ジャスティンはヒナのおでこに口づけた。

「約束?」ヒナは小首を傾げた。

「今夜は二人でゆっくりと過ごすという、あれだ」

「あ!」ヒナはすっかり忘れていた。楽しい時間はヒナの頭を鈍らせるようだ。

「あ、というのは何だ?」ジャスティンはぶすっとした表情でヒナに問う。

「えっと……カイルと図書室で本を探すの。これから」ヒナはすまなそうな顔をした。

相手がカイルとくれば、ジャスティンもあれこれ不満をぶつけられない。初めて友達がうちに泊まりに来ているのだ、ヒナが浮かれ過ぎるのも仕方がない。ヒナの喜びはジャスティンの喜び。

「それじゃあ風邪を引かないようにきちんと髪を乾かしてから、カイルと図書室へ行きなさい。ダンにココアを淹れるように言っておくから。それともお腹いっぱいで、ココアもいらないか?」

「いるいるっ!」甘いものは別腹。

「よしよし。お願いのキスしてもらおうかな」ジャスティンは唇を指で叩いた。

「いいよ。ジュス、お願い」ヒナは爪先立ってジャスティンの顎先にキスをした。

「もう少し上」ジャスティンはいい位置に頭を下げた。

ヒナのぽかぽかの唇がジャスティンの唇に触れる。受け身に徹していたジャスティンだが、羽のように軽いキスでは我慢できず、ヒナの背にまわした手にぐっと力を込めて湯たんぽのような身体を抱き上げた。頭に巻かれたタオルがはらりと落ちる。

ヒナは首尾よく寝間着の裾から突き出た小枝みたいな脚をジャスティンの腰に絡め、襲いかかってくる魅力的な唇を迎え撃った。

「きゃ……くふふっ」

「こら、ヒナ」

「ぷふふ」

「二人で何してるの?」

ヒナとジャスティンの甘ったるいくすくす笑いを遮ったのは、戸惑いと驚きとが入り交じった顔で立ち尽くすカイル。二人が廊下で絡み合ってキスしているようにしか見えないが、自分の見たものが信じられないといった様子。

素早く動いたのはジャスティン。ヒナは動かなかったので、ジャスティンにしがみついたままだ。

「カイル、これは――」言い訳をしようとしたジャスティンだが、言葉が見つからなかった。

「カイルもお風呂?」のんきなヒナ。

「え、うん。そうだけど……ヒナとウォーターさんは、そこで、その……」カイルは顔を赤らめ、まるで身を守るように着替えをぎゅっと抱いた。

「ヒナ、ちょっと降りてくれるか?」ジャスティンはヒナの両脇の下を掴んで床に降ろすと、カイルに向き直った。下手な言い訳はしても仕方がない。いずれ分かることだ。むしろ、いままで知らなかったのが不思議だ。てっきりヒナが暴露しているものと思っていた。

さて、なんと言うべきか。

つづく


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ヒナおうちに帰る 19 [ヒナおうちに帰る]

足が動かない。石みたいにカチカチで、膝を無理に曲げようとしたらポキンと折れてしまいそう。それなのに、ウォーターさんが悪魔みたいな顔で迫ってくる。

「僕、何も見てません。僕、僕……」チビっちゃいそう!

「いいんだ、カイル。俺とヒナは好き合っているんだ」ジャスティンはカイルを驚かせないように、ゆっくりとそれでいてはっきりと伝えた。

ヒナはにやにやしながら、床から拾ったタオルを頭に巻いている。ジャスティンに好きと言われて超絶ご機嫌だ。

「知ってます!ヒナはウォーターさんが大好きで、ウォーターさんもそうなんだって気付いてました。でも、キスとか、そういうのことするなんて、びっくりです」

ああっ!言い過ぎちゃった。僕のばかっ!

「そうだろうな。おかしいかもしれないけど、それだけヒナのことが好きなんだ」ジャスティンは真剣に答えた。相手が子供だからって誤魔化しはしない。

「ヒナも好き」くふふと笑うヒナ。ひとり、この状況を楽しんでいる。

「おかしくなんてありません!僕だって、ウェインさんとだったら――」カイルは自分がとんでもないことを口にしていると気付いて、はたと口を閉じた。でも、これでようやくはっきりした。ウェインさんへの気持ちは、ただの憧れとは違う。

ううん。そんなのとっくに気付いていた。ただこの気持ちをどう表したらいいのかわからなかっただけ。ヒナとウォーターさんと同じ。キスしたいくらい好きだってこと。

「カイルはウェインが好きなんだったな」ジャスティンは確認するように言い、ヒナと目を合わせた。

ヒナはうんと頷き、カイルを見た。ここでその話ししちゃうの?とでも言いたげな目で。

カイルも同じことを思ったが、返事をしないわけにいかなかった。「そうです。でも、ウェインさんは、僕のことなんて――お、お風呂入らなきゃ。ヒナ、あとで図書室行くよね?それとも、ウォーターさんと……」キスとかする予定?

「図書室行くよ」とヒナ。今夜は友情を優先するようだ。

「それじゃあ早く部屋に戻って、ダンに髪を乾かしてもらいなさい。ココアはホームズに頼んでおくから」ジャスティンはヒナの肩に触れ、そっと送り出した。

「はぁい。カイル、またあとでね」

ヒナは行き、ジャスティンが残った。

「カイル、何かできることがあったら力になるから、いつでも言ってくれ。これでも、ウェインの事はよくわかっているつもりだ。この二年、ずっと一緒にいるからな」

「はい!お願いしますっ!」カイルは即答した。

つづく


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ヒナおうちに帰る 20 [ヒナおうちに帰る]

カイルがお風呂から上がっても、バスルームの外でウェインが待っているなんてことはなかった。

今日のウェインの仕事は終わり。すでに自分の部屋でくつろぎ中だ。特に呼び出しがない限り、今夜はこのままベッドに入るつもりだった。

が、ダンが邪魔しにやってきた。まだまだ仕事をする気なのか、服装は完璧なままだ。

「ヒナは?」くつろぎを邪魔されたウェインはムッとした口調で訊ねた。

ダンと違って、こっちはこの二日ばかり、身体のあちこちが痛くなるような仕事をこなした。隣でカイルが励ましてくれなければ、帰宅はもうあと一日は遅れただろう。

「髪を乾かして、図書室に行きました。カイルと約束しているんだそうです」ダンはウェインの機嫌などお構いなしでずかずかと部屋に入り込んできた。この屋敷の使用人のほとんどは個室を与えられていて、プライバシーは守られている。けど、案外出入りは自由だ。

「ああ、それで旦那様の機嫌が悪かったんだ」ウェインは主人から下げ渡された安楽椅子の上で伸びて丸まった。今日はもう動きたくない。

「あのさ、ワインでも飲まない?」ダンはどこから持ち出したのかワインボトルを見せつけるように掲げ、安楽椅子とセットになっている足のせ台にどかりと腰を下ろした。

「どうしたんだ、そのワイン?それって旦那様のじゃないのか?」まさか!失敬してきたとか?

「旦那様がご褒美にくれたんだ。ウェインとぱあーっとやったらどうだって」とはいえ、ぱあーっとやったらダンはすぐに寝てしまうだろう。

「えっ。旦那様が?」ちゃんと僕のこと考えてくれたんだ。頑張ったご褒美?いい響きだ。

「とっておきのをホームズが出してくれたんだ。グラス、あるよね?」飲めないくせにホクホク顔で言う。

「えっと、そこの台の上に」ウェインはダンの後ろの小さなキャビネットを指し示した。上等なワインを飲めるようなグラスはないだろうけど、飲めればなんだっていい。

「ああ、あれね」ダンは立ち上がって、伏せられていたグラスをふたつ上に向けると、コルク栓を抜いてワインを注いだ。「こういうの、ルビー色って言うのかな」

「だろうね。でも旦那様がお持ちのルビーはそんな色じゃないけどね」

「確かに、ヒナの持っているルビーもこんな色じゃないかな。はい、どうぞ」ダンはウェインにグラスをひとつ渡し、足のせ台に戻った。「なんだかあっという間だったけど、いろいろあったよね」感慨深げに言う。

「ほんと、でも無事戻ってこれてよかった。あのままあそこにいなきゃいけないってことにでもなってたら、退屈でおかしくなってたよ」

「そう?けっこう楽しそうにしてたと思うけど。僕と違って、仕事も少なかったでしょう?ロシターがいたから」グラスを傾げるダンは、ちろりと舌を出してワインを舐めた。

「ああ、あいつね。僕の仕事を奪ってやろうって気満々だったけど、そうはさせないっての」ウェインは鼻息荒く言い、ワインをぐびりとやった。

ダンはもっと味わったら?という顔をしたが、当人はちびちびやり過ぎて味わうも何もあったもんじゃない。

ウェインはそのうち戻って来るであろうロシターの事を思って憂鬱になった。いまでさえエヴァンに仕事を奪われて今後が危ういというのに、そこにロシターまでやってきたら、クラブの方へ移動ということにもなりかねない。

「でもさ、カイルも一緒に来れてよかったよね」

「まったくだよ。カイルがずっとここにいればいいのにな」そうしたら、旦那様の従者をクビになっても、お屋敷に残っていられる。

「ほんと、おじさんのとこになんか行かなきゃいいのにね」ダンはニヤリと笑った。

つづく


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