はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

溺れるほど愛は遠のく ブログトップ
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溺れるほど愛は遠のく 11 [溺れるほど愛は遠のく]

二〇分ほどで、須山は海の望むアイスを手に入れ、家へ戻った。

玄関に海の靴がまだあるのを見て、正直驚いた。
出掛けている間にてっきり帰っていると思ったからだ。

「海、アイス食べるのか?」そう言いながらドアを開けた先に、ベッドに腰掛ける海が見えた。須山の心臓は大きく跳ねた。

「後にする」と、海は須山の右手にぶら下がる袋をちらりと見て言った。

「ん、わかった。じゃ、これ冷蔵庫に入れて来るわ」
須山がアイスの入ったビニール袋を持ち上げてみせると、海が嬉しそうに顔を綻ばせた。

須山はさっき海に腹を立てた事などすっかり忘れ、アイスを丁寧に冷凍室に仕舞った。
いくら海の事が好きでも、振り回されるのは御免だと思っていたが、この調子では何でも言う事を聞いてしまいそうだ。

部屋へ戻ると、海はまだベッドに腰掛けたままだった。いつのまにかネクタイは外して足元に落としている。
これで期待するなと言う方がおかしい。
「海、誘ってるのか?」

「ううん。別に。でも、お前が俺の事が好きで、したいっていうなら、してもいいよ」

あくまで受け身と言う事だ。須山はがっかりした。
海を抱きたいとは思うが、いまの状況は自分が思っていたのとは違う。気持ちがないにしても、それなりに求めて欲しかった。

須山は無言で海に近づいた。

「するの?」海が焦れたように問う。

「どうしようかな?」どうせ遊んでいると思われているんだから、誘われるままに海をものにすべきなのだろうか?「海の方こそやりたいんだろう?」と逆に尋ねてみる。

「俺は……どっちでも……」海は唇をきゅっと突き出しもごもごと言った。

この言い方は少しは脈があるという事なのだろうか?

「そっか――じゃあ、まずはアイスの礼を貰おうか」

須山は身をかがめ、海に口づけた。さきほどの海からの事務的なキスは忘れる事にしよう。
なぜなら今はすんなりと口を開き俺を迎い入れてくれたから。
海が脱力したように後ろに倒れた。それにつられて須山は海に圧し掛かった。真っ白なシーツに横たわる海はやはり昨日と同じで、どこか自暴自棄にさえ見えた。

まあ、それでもいい。

須山はキスを深めた。
海の舌が一瞬逃げるような素振りを見せたが、追いかけると、まるでそうして欲しかったかのように絡みついてきた。
下半身が痛いくらいに反応した。
たかがキスでここまであからさまに反応したのは初めてだ。しかもまだ始めたばかりだというのに。

「……う……ん」
海が吐息を洩らし、唇を離した。じっと見上げる瞳はどこか焦点が合っていない。
海は、いったい、誰を見ているのだろうか?

つづく


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溺れるほど愛は遠のく 12 [溺れるほど愛は遠のく]

「お前、キス上手いな」海はそう言ってのんびりとあくびをするように瞬きをした。

身体の芯をじんわりと温めるような須山のキスに、海は程よい気だるさと心地よさを感じていた。

「だから、昨日は遊んでると決めつけたのか?」
須山は表情こそムッとしているように見えたが、その声はどちらかといえばウキウキと弾むようだった。

「うん。でもそうなんだろう?」
須山の長い睫の一本一本を目尻から目頭にかけてぼんやりと数えながら、返事をする。

須山は綺麗だ。キスも上手い。
海は過去にキスをした人物をざざっと思い浮かべてみたが、須山が一番だという結論に達した。
あんなに好きだった一之瀬よりも須山が上の理由は、手を伸ばせば傍にいて触れることができ、相手もそれに応えてくれる事だった。それを感じ取ったかのように、須山は海の前髪を指で梳き、後ろに撫でつけるようにして掻き上げ、額にキスをした。

「否定はしないけど、海が思う程じゃない」須山が囁くように言った。

確かにそうかもしれない。だって俺は須山の事なんか全然知らないもん。
「うん、まあ、そうだね」と須山の言い分を認め、海はふふっと笑った。

「何が可笑しい?」須山が訝しげに尋ねる。

「お前には掻き上げる髪がないなと思って」
須山のふわふわの髪は、昨日までは肩に掛かるくらいあったのだ。

「海がそうしろって言ったんだろう?」

「するとは思わなかったから。あ、でも、もしかしたらとは思ったかな。だってさ、須山のお母さんは美容師さんだろう。頼めばすぐして貰えるじゃん。しかもタダで」

「まあね。案外高くついたけどさ」

「そうなんだ。でもさ、すごく似合ってる。俺、いまの方が好きかも」

「簡単に好きとか言うなよ」

「お前だって言うだろう」

「海以外には言ったことないよ。信じていないかもしれないけど、本気だからな」

「信じないし、本気は困る」
遊ばれるのは嫌なのに、本気は困るなどとよく言う。

須山は数秒の間を置き言った。「まあいいさ」

それきり会話は途切れた。須山が再び唇を重ねてきたからだ。

つづく


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溺れるほど愛は遠のく 13 [溺れるほど愛は遠のく]

いつ、どの瞬間、海に本気になってしまったのだろうか?
どう考えても、それはごくごく最近の事だ。
例えば、昨日とか……。
それまでは、そう……昨日海が言った様に暇つぶしだった。
けど、ひと目惚れと言ったのは全くの嘘ではない。たぶんそれが本当のところなのではないかと思う。

急に海への気持ちを強くしたのは、ライバルになりえないはずの花村が、もしかするとそうではないかもしれないと気付いたからだ。

だから、今度のキスは本気だった。

戯れるようなキスとは違って、俺のものだと印を残すような、焼けるようなキスだった。
技巧も何もない。
欲するままの、まるでキスの味を初めて知った時のような、勢いだけの口づけ。

「あ……んっ、すや、ま――」
海は苦しげにもがき、須山をこぶしでどんどん叩く。その行為がさらに須山を煽るとも思わずに。

須山は海をぐっと抱き込み、身体を押し付け、昂る想いをぶつけた。
海を抱きたい。その思いが須山の頭の中で膨らんで、いよいよどうしようもなくなった時、ふと、ほんの僅かに残った理性が、このまま海をものにすれば、もう二度とその手に抱くことは出来ないと危険信号を発しているのに気づいた。

海は警戒している。
そして相手に服従を求めている。それは自分が傷つくのを恐れているからなのか?

だからこそ、須山は、海から引いた。
途端に飢えた身体が悲鳴を上げた。海から離れるなと。

海がやめないでと濡れた瞳で見上げてきた。

「海――今日はここまでだ」
その言葉を言うのにどれだけの時間を要したのか自分でも分からない。

「いや」
海の一言は須山の意思を粉々にするほどの破壊力がある。

「今日はもう十分海を味わったから、おしまい。約束だっただろう?」

「味わいたいって言ったのは、キスの事だったの?」

「今日のところはね」

「次はないよ」

「そう思うのか?」

「思うじゃなくて、そうなんだ」

「なら、次があるように、俺はもっと努力するべきなのかな?例えば、もう少し、海を味わうべき、とか――」

海の瞳が期待するように輝いた。
それを見て須山は嬉しくなった。これで、主導権を握ったも同然だ。

つづく


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溺れるほど愛は遠のく 14 [溺れるほど愛は遠のく]

須山の口が、俺のあそこを――
海を味わいたいと言ったのはこういう事だったのか?俺はてっきり……。

海は須山の頭頂部を見つめながら、自分の経験がいかに浅いのかを痛感していた。

それにしても、シャツのボタンはいつ外れたのだろうか?ズボンはいつ脱いだ?パンツを引き下げられたのは――いつ?

たぶん、須山の唇には魔力がある。そうとしか考えられない。

最初は確かに須山の唇は俺の唇と重なっていた。
それから、耳朶を口に含まれ、顎のラインを舌先でなぞられた。その舌と唇は徐々に身体をおりていき、須山の手がズボンのウエスト部分に掛かった頃には――はっきりと意識があったのかも不明だが――おそらく完全に勃起していた。それどころかぐっしょりと濡れていたに違いない。

そして須山は勢いよく飛び出たそれを見て、満足げに微笑んだのだ。

「ば、ばか。やめろっ!」
亀頭から溢れ出る蜜を舌先ですくわれ、思わず腰を引く。

「何?海、もしかしてされたことないの?」
須山は驚いたような声をあげ、パッと顔を上げた。

「そ、そんなこと」
とは言ったものの、実際は初めてだった。あいつはこんなことしようともしなかったし、俺だってそこまではしなかった。

「ふふっ。そうか。なあ、海、いま俺がどれだけ喜んでいるか分かるか?」

「分かるわけないだろっ――あっ……ああ、ばか――」

須山に完全に呑み込まれた。須山の口の中は温かく、柔らかで、想像もできないほど気持ちがいい。

まったく。須山は綺麗な顔でとんでもない事をする。それとも、これが普通なのか?
押しのけたいのに、手が勝手に須山の頭を掴み引き寄せてしまった。

須山がふふっと笑い、鼻息が肌の敏感な部分を擽った。

「なあ、男、初めてじゃないだろう?」
口の中から解放した分身を舌先でちろちろと舐めながら、須山は尋ねた。
喋りながら舐めながら、ついでに手も動かし、なんて器用なんだと海は感心する。

「そうだけど?」別に隠す気はない。須山だって、経験済みなんだろうから。

須山はその答えが不満だったのか、無言で海を一気に呑み込んだ。強く吸い舌をぐちゃぐちゃと動かし上下させる。海は快感に呻き、堪らず大きく喘いだ。

「ああっ」っと声をあげ、海はベッドの上で弓なりに仰け反った。
その拍子にいきり立った先端が須山の喉の奥を突いた。

「もっ、いい――須山、このままじゃイっちゃう。もう、やめて……」
いやだ。このまま一方的にいかされたくない。

けれど海の抵抗はあまりにも弱弱しく、須山の動きは激しさを増し、結果、登り詰めるまでものの数秒足らずだった。

つづく


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溺れるほど愛は遠のく 15 [溺れるほど愛は遠のく]

「ばかっ!出せよ!」

須山は海の言葉を無視して、口の中の青臭い液体をごくっと喉を鳴らし飲み下した。
そのままにやりと笑ってみせると、海は地団太踏みそうな勢いでイーッと歯を食いしばり、ベッドに突っ伏してしまった。

「海、恥ずかしいのか?」

これまでフェラをしてやって、こんな反応をしたのは海が初めてだ。大抵は、恥ずかしがっても最初だけだ。海の場合その逆だ。事が終わってから急に恥ずかしがっている。

「うーみ」と肩を揺すり、こちらへ向かせようとするが、なぜか頑なに拒んでいる。

まあ、それならそれでいいけどね。

須山は海の背中に口づけた。敏感な海の肌がぴくりと反応し、尻たぶにきゅっとえくぼが出来た。

「なにすんだよっ!」
海は素早く身をひるがえし、勢い余ってベッドの下に転げ落ちた。

「経験があるわりには、子供っぽい反応だな。さっきまでの威勢のよさはどこへ行ったんだ?もしかして男を知ってるのは実は嘘だったりする?」
ベッドの上から海を見おろし、手を伸ばしてみるが、あえなく振り払われた。

「なんで嘘吐く必要があるんだよ」海は不服そうな顔できょろきょろとし、脱ぎ散らかされた服を回収するため再びベッドへとあがって来た。

それにしても、海はいつ、素っ裸になったのだろうか?
シャツのボタンを外した記憶はあるが、脱がした覚えはない。

「嘘だったらいいなと思っただけだ。俺が海の初めての男になりたかったから」

「残念だったな」

こちらへ尻を向けて揺する姿は、あきらかに挑発している……よな。
なにも言わずつるんとしたゆで卵のような尻の間に突き立てたら怒るだろうか?
怒るな。確実に。

「ほんと、残念……」と呟くように言い、ベッドに仰向けに寝転がった。

俺はいったい何をしているんだか。
須山は小さく鼻から息を吐いた。

「しないのか?」と海が顔を覗き込み尋ねてきた。
須山はその顔をじっと見つめた。さっきまで恥ずかしがっていたくせに、こういうことは平気で言う海は、これまでいったいどんな男と付き合ってきたのだろうか?
会えばヤルだけの最低男なのか。それとも、海を大切にし過ぎるあまり欲求不満にでもさせていたのだろうか?

「今日はしないって言ったろ」

「次はないって言ったろ」

子供っぽい駆け引き。海らしくて好きだ。
けど、実際はほとんど海の事を知らない。もっと、もっと海の事が知りたい。だからこそ一度きりで終わらせてはダメなのだ。

須山は賭けに出ることにした。

「なら、仕方ないな」

これで海が乗って来なかったらどうする?
んじゃ、知らないからな。バイバイ。とでも言いかねないのに……。

海は目を伏せ唇をきゅっと突き出し、何かしばらく考え込んだ末、意を決したように口を開いた。

「俺も、さっきのした方がいいか?」

その言い方が本当に一大決心をした時のような口調で、須山は思わず吹き出してしまった。

つづく


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溺れるほど愛は遠のく 16 [溺れるほど愛は遠のく]

「なんだよっ。笑うな!」
せっかくやってやろうってのに、須山のやつ笑いやがって。

海は恥ずかしくなってぷいとそっぽを向いた。須山相手に自分の経験の方が上だとは思っていなかったけど、こうも余裕ぶられると、すべてにおいて自信がなくなる。

「海のそういうところ好きだな。訳も分からず無理するところ」

愉快そうな須山の声は耳に心地よかった。つい、惹きつけられるように視線を戻すと、須山は仰向けに寝転がったまま余裕の笑みを浮かべている。まったく、癪に障る。

「なにそれ?馬鹿にしてんの?」

「まさか。褒めてるんだよ」心外だというふうに眉をピクリとさせる。

余裕なやつって、どうして眉だけで感情を表現しようとするのだろうか?うちの鬼のような長兄、まさにいもそうだ。

「どうせ俺はお前みたいに経験豊富じゃないさ。付き合っても長くもたないし……」つい愚痴っぽくなってしまう。

「この間付き合ってた彼女とは一ヶ月だっけ?その前は?それも短かったのか?」須山は肘で体を支え、こちら向きになった。その仕草から、どうやら本当に今日はやるつもりがないようだ。

「前は……前も一ヶ月くらいかな」迷った末、もう昔の事だと割り切って答えた。ついでに傍にあった下着を身に着け、ズボンはどこだとキョロキョロする。あった!須山の下敷きになってる!!

「ふうん。そいつは男?」
須山の声に少し変化があった。何気なさを装っていても、声が僅かに緊張を帯びている。

海は須山をじっと見て、それから静かに答えた。
「……うん」

「その言い方だと、どうやらそいつが海の初めての男なようだな。一ヶ月も付き合って、フェラもしなかったのか?いったい何やってたんだ?」

「別に、普通にセックスしてただけだ」たぶんあれはセックスって言う。間違いない。

「普通ね……普通って何?」

挑発されているのは分かってた。それに一之瀬とどんなことをしたのか口にする気もなかった。けれど、無駄に負けず嫌いな海は、つい、言わないつもりの事も口にしてしまうのだ。

「さっきのはしたことなかったけど、それ以外は、たぶんちゃんとやってる」キスして裸になって、それから一緒にお風呂に入って、またキスして、お互いのあそこに触れて、一之瀬だけは俺の後ろの孔に触れて、それからベッドに戻って、二人は繋がる。

行為が苦しければ苦しいほど、一之瀬に愛されていると実感できた。
でも、一之瀬は一度も愛してると言った事はなかったし、好きだともそんなに言わなかったような気がする。
たぶん俺もあんまり言っていない、はず。

だって、言葉なんか口にしなくても、心で繋がっていると思っていたから。もちろん、一之瀬と一緒の時でも、いつも通りお喋りではあったが。

「――海?」

夢から醒めたように、海はハッとして目の前の男を見た。海と呼んだのは須山で一之瀬ではない。当たり前だ。もう一年も前に別れたんだから。

「俺、帰るね。もし須山がまだその気があれば、次ね」

ほとんど無意識にそう口にした海は、泣き笑いのような表情を浮かべ、須山に別れを告げた。

つづく


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溺れるほど愛は遠のく 17 [溺れるほど愛は遠のく]

今日はブッチの出迎えはなかった。たぶん先に陸が帰っているからだ。海は少々がっかりしながら、家の中に入った。

「おかえり。結構遅かったな」と台所に立つ陸が振り向き言った。

「そっちこそ。早いじゃん」ユーリとデートじゃないの?という言葉を海はすんでで呑み込んだ。どかっと椅子に座り、足元に鞄を投げ出す。

「ごはんやんなきゃいけないからね……」
陸はきゅっと唇を突き出し、不満顔を海に見せた後で、再び鍋に視線を戻した。

「ま、仕方ないね」

陸は昨日の夜とんでもないことをしでかした。
この家にユーリを連れ込み――陸はユーリが勝手に来たって言ってるけど――裸で絡み合っている現場を兄弟全員に見られてしまったのだ。
あれはほとんどやってたんじゃないかと思う。
この家で堂々とやっちゃう陸に、あの時尊敬の念を抱いてしまったのは、もちろんまさにいには秘密だ。

もっとも、陸がひとりで食事当番をすることになったのは、その事件よりも前に決まった事らしい。

「それよりさ、海のクラスに、なんてゆーかな……自分はいかにもかっこいいですって勘違いしてる奴いる?」
陸は鍋の火を落とし、手近な椅子に座った。

「うーん……吉沢かな?そいつ、唇にほくろあった?」

「どうかな?そこまでは――いや、あった!小さいのがふたつ。そいつさ、海と俺を間違えてたよ。誰と付き合ってもいいけどさ、俺たちを間違えるような奴とは付き合うなよ」

陸は気付いていないが、吉沢は中等部から一緒だ。そういう海もこの春同じクラスになって初めてその存在を知ったのだが。

「なにかされた?」

「馴れ馴れしくされた。しかもさ、それをユーリに見られてさ、大変だったんだよ。もう少しで保健室に連れて行かれるところだったんだから。その吉沢ってやつにちゃんと注意しといてよ」
ふんっと鼻を鳴らし、陸は立ちあがった。その仕草はブッチと同じだ。

「わかった。まあ、あいつは図々しいだけで大して害はないけどね」
うざったいのでつい邪険に扱ってしまうが、悪い奴ではないので、いちおう友達くらいには思っている。

「でも、力は強かったよ。腕掴まれて振りほどけなかったもん」陸はそう言って、冷蔵庫からケーキの乗った皿を取り出し、海の前に置いた。「これ、海昨日食べなかったからさ。飲み物は牛乳でいい?」

ごはん前にケーキ?しかもみんながつついた後でぐしゃぐしゃじゃん!

「うん、いいけど」ととりあえず返事をしたけど、どうせなら食後にして欲しかった。アイスも添えてさ。

「でさ、お願いがあるんだけど」と、牛乳を手に期待を込めた眼差しでこちらを見つめる陸。

そういうことか。なんだかサービスが良すぎると思った。

傍に来てちょこんと椅子に座った陸は、珍しく口をもごもごとさせている。お喋り陸はどこへやら。

「どうせ当番変わって、だろ?」
海はじれったくなり、差し出されたコップを受け取りながら言った。

「よくわかったね。やっぱ双子だからかな?」と陸。

まったく呆れてものも言えない。と言いつつ、言うけどさ。

「誰でもわかると思うよそんなの。んで、いつ?」
幸せオーラ全開の陸に意地悪な事を言わないように、海はぐちゃぐちゃのケーキを頬張った。

「土曜日。ユーリのお父さんに会いに行くんだ。会うのはさ、昼なんだけど、たぶん遅くなりそうだから……。土曜はまさにい遅いじゃん」

「なんでコウタに頼まないの?」
ってか、このケーキめちゃうま!やっぱ昨日寝た振りせずに騒動に巻き込まれればよかった。

「コウタに頼んだらまさにいに報告されちゃうからだよ。朋ちゃんがさ、コウタに押し付けたら俺が許さないからね、とかなんとか言って……」

「朋ちゃん怒らすからだよ」ったく。「いいよ」と渋い顔で付け加え、ケーキの最後の一口を頬張った。

まあ、ユーリのおかげで美味しいケーキが食べれたし、協力してやるよ。

つづく


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溺れるほど愛は遠のく 18 [溺れるほど愛は遠のく]

あの事が気になったのは、夜遅く、もうベッドに入ってからだった。

二段ベッドの上から、下にいる陸に話し掛ける。

「あのさ、陸。ちょっと聞きたいんだけどさ、アレ……ほら、ユーリの舐めたりしたことある?舐められたりさ」
セックスって言うのは簡単なのに、どうしてだかフェラは口にするのも恥ずかしい。

「え?え……なに?どういうこと?」
ベッドの木枠が軋み、陸が身を乗り出したのがわかった。

「だからさ、ふぇ……ら、したことあるかって聞いてるの」

「ああ、そっちね。どうしたの急に?そんな事訊くなんて珍しいね」

「いいから教えて」そっちねって他にどこが?

「――あるよ。でもさ、ユーリのって尋常じゃないからさ、結構大変なんだよね。向こうは余裕みたいだけど」陸はちょっと拗ねたような声で返事をした。

そういえば、一之瀬のアレもものすごく大きかった。だからさせなかったのかな?向こうがしなかったのはなぜだろう。

一之瀬は育ちがいいからか、ちょっと上品ぶったところがあった。たぶんそれだな。海はひとり納得した。

「海はあるの?」陸が尋ねた。こっちにだけ言わせるなんてずるいぞといった口調だ。

「それがさ、ないんだよね。というか、そういうことするとも思ってなくてさ――もちろん、そういうのがあるって知ってたけどさ、自分がしたりされたりは想像もしてなかったつーか……あーゆーのって――」

「なんかくどいっ!そういうのあーゆーのって、フェラでいいじゃん!ったく、そこ恥ずかしがるところ?」

「別に恥ずかしいとかじゃなくてさ――うん、まあ、恥ずかしいかな。だってさ、実際あれやってもらうのって恥ずかしくない?一方的って言うか、やられてる間、ひとりだけ気持ちいいんだよ。しかもその顔見られてるわけだしさ」

「海の言いたい事は分かるよ。俺も最初はすごく恥ずかしかったからさ。って、それよりも、誰にされたの?」

「ああ、えーっと……同じクラスの奴。セックスしてもいいよって言ったのにさ、それだけで終わっちゃったんだよね」
須山の奴、怖気づきやがって。

「海……お前さ――」

陸の呆れた溜息が聞こえた。
わかってるよ。陸の言いたい事はさ。どうせ、自分を大切にしろとかおっさんくさいこと言うんだろう?けど、どうしようもないんだよ。

しばらく沈黙があったかと思うと、陸がブッチを抱えて上にあがって来た。

「寄って」と言われ、素直にスペースを開けた海の隣に陸が寝転がった。

ブッチを挟んでの川の字だ。

ほんの少し前まではよくそうしていたのに、なんだかとても懐かしく感じる。

「久しぶりじゃない?こうするの。ねぇ、ブッチ」
陸はブッチの鼻先にチュッとし、それから海の顔を真剣な顔で見つめた。

別にやましい事なんかしていないのに、久しぶりに見た陸の兄貴面に海はたじろぎ、つい目を逸らしてしまった。

つづく


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溺れるほど愛は遠のく 19 [溺れるほど愛は遠のく]

「あー、うみぃ、めぇそらしたな」

元来、陸の口調はとても子供っぽいのだ。それは海も同じだ。

だからといって、いやに語尾を伸ばす陸にイラッとこないかといえば、それはまた別の話。

「違うよっ。ブッチを見たんだから、ねぇ、ブッチ。昨日は一緒に寝たもんねぇ。どこかの誰かが男連れ込んでたからさ」

海の反撃に陸はきゅっと口を突き出し、ブッチはそんな陸を首をグイッと伸ばし見上げている。

「ブッチ、見ないで」
恥ずかしげに手のひらでブッチの視界を遮る陸。

「ブッチ、浮気者を懲らしめてやれよ」
ブッチを煽る海。

「ぶみゃん」

「ブッチがうるさいってさ、海」

「お前に言ったんだよ、陸」

海と陸が頭上で言い合うなか、ブッチが耳を両手――両足?――で塞ぐようにしてぎゅうっと丸まった。

ということで、しばし休戦。

「それよりさ、海。なんかあったの?」

「なんかあったのはそっちでしょ。昨日まさにいに怒られてたじゃん。しかもそのあと、さらに特大の雷が落ちたし」

「え、ああ。それはさ、別に……まさにいがユーリと付き合っちゃダメって言うからさ。俺の事はいいから。海――もしかして、まだあいつの事、好きなの?」

陸は直接は一之瀬の事は知らない。
けれど、出会いから別れまで、いったい何があったのかは知っている。

「わかんない。けど、昨日久しぶりに声を聞いたんだ。そしたらさ、自分でもどうしていいか分かんない、ぐちゃぐちゃな感情がぐるぐるしてさ、もう、吐きそうなんだよね」
頑張れば、なんでもないふりをする事は出来たと思う。けど、目の前で心配する兄の顔を見ていると、無理に笑顔を作って大丈夫だとは到底言えなかった。

「電話、したの?」陸が怪訝そうに尋ねた。

「いいや。あ、うん。知らない番号から電話が合ってさ、掛け直したんだ。そしたら、あいつが出た。『楓はいま電話に出られない』とかなんとか――」

「楓って?」

「知らない。奥さんかもね。きっとあいつは今も浮気三昧で、奥さんがたまたま俺の番号でも見つけたんだろうね。そんで、慰謝料でも請求するつもりなんじゃない?」

「ひとのケータイ見るのって最低だよね!」
陸は以前ユーリに携帯電話を奪われた時のことを思いだしたのか、かなり立腹している。話のピントがずれたのには全く気付いていない。

海は仕方がないので、話を合わせこう言った。「俺は見られても平気」

「それからどうしたの?」と陸。

急に話が戻るのはごく当たり前のことだ。

「どうも。電話切ったし」と言ったところで、実際あの時の電話はどちらから先に切ったのだろうかと思い返してみる。
確か、一之瀬の声に気付いて、何かを考える間もなく切ったはず。向こうも同じように切っていたかもしれない。だからこそ電話はそれきり掛かってこないのだ。

あの時もそうだった。
お前とはもう会わない、連絡もするなと言ったのは俺。
けど、本当にメールのひとつもよこさないなんて、一之瀬のくそおやじめっ!

「海、なんか顔怖い」

陸は引き気味だ。ベッドの木枠に背を押し付け、ついでにブッチも自分の方に引き寄せた。

「怖くて上等!」

「そいつのせいで、海は同級生にフェラさせたの?」

陸のやつかなり話をまとめたなと海は思いつつ、「そう」と返事をした。

「相手は誰?」

「須山」

「ええっ、あの須山?ってゆーか、今日見たら坊主になってたけど?」

「それも俺がさせたようなもん。冗談で言ったら、坊主にしてきたんだ」

「海のこと好きなんだ」

「どうかな?あいつも遊び人だよ」

「そうかな?そんな風には見えないけど」

陸は知らないからそう言うんだ。俺がいま須山の過去を喋ったら、陸だってそう思うはず。けど、その話にはどこか腑に落ちないところがある。今度須山に直接聞いてみることにしよう。

須山は教えてくれるだろうか?

つづく


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溺れるほど愛は遠のく 20 [溺れるほど愛は遠のく]

「とにかく、ほどほどにしないとね」陸はそう言い残して、ブッチと共に自分のベッドへ戻った。

ほどほどね……。
もう手遅れかも。だって、もし須山が本気だったら、俺はあいつを拒絶できない。おそらく、両手を突き出し押しのけることすら出来ないだろう。その感情や行動を口にするのは難しいが、例えるならそれは、拾ってきた捨て猫をもう一度捨てに行くようなものだ。だから須山が本気じゃなくて、向こうから身を引いてくれることを願うしかない。

花村にしてもそうだ。
あいつとキスとか想像もできないけど、完全に拒めるかといえば、それはまた微妙だったりする。

俺は好きだって言われちゃうと弱いんだ。
だから一之瀬にもコロッと騙されちゃったんだよね。

海は深い溜息を吐き、コットンケットを頭からすっぽりと被り、目を閉じた。
下からは早くもブッチのいびきが聞こえてきている。

鼻、詰まってるんじゃ?陸の奴、鼻ほじってやればいいのに。

そんな事を思いながら、海はいつの間にか眠りに落ちていた。

翌朝、まるでいつもとかわらない一日が始まった。

朝ごはんを食べ終え、コウタが作った弁当を手に陸と一緒に自転車で学校へ向かう。
予鈴五分前に自転車置き場に到着し、そこで待ち受ける花村と合流する。三人で教室へ向かいながら、島田兄弟と合流する。

「ねえ、海。明日うちに来る?」そう尋ねたのは島田弟、海の左隣を陣取る翔だ。

「明日?んー、そうだな……兄貴はいるのか?いないなら行く」

「兄ちゃんは出掛けるからいないよ。なあ、航」

「うん。陸は来ないのか?」航は陸の二の腕を指先でつんつんと突きながら尋ねた。ニヤニヤとしているところを見ると、陸がなんて返事をするのかお見通しのようだ。

「陸はユーリとデートだってさ」海が陸に先んじて答える。

「ええ、またぁ?」と不満げにこぼす翔を、陸はチラッと横目で見て、何か言い掛けて、思い直したように口をつぐんだ。

陸はどうやら無言を貫くようだ。明日ユーリの父親に会いに行くとは、幼馴染の島田にも言えないらしい。まあ、確かに男と付き合ってる自体、大きな声で言えることじゃない。しかも相手がいろいろ問題のあるあの神宮優羽里となればなおさらだ。

「んじゃ」と言って、海は背後の花村と一緒に教室へ入る。廊下から島田たちの「んじゃ」と返す声が聞こえた。

「明日、花村も来る?」席に着き見上げ言うと、花村は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「いいの?」

「島田がいいって言えばね。あとで訊いとく」

「何を聞いておくって?おはよう、海」
教室の前の入口から入ってきた須山は、いつもと変わらず爽やかだ。

海もいつもと同じように「おはよう」と返し、質問の返事を待っている須山が勝手に前の席に座るのを見ていた。

「もうチャイム鳴るよ」と言うと、須山は「あと一分はあるよ」と身を乗り出して海の机に肘をついた。

一瞬、キスでもされるのかと思った。
須山の唇は、昨日と同じくしっとりと潤っていて魅力的だった。リップ、つけているのかな?

海は急に自分のかさついた唇が恥ずかしくなった。顔の前で指を組み合わせ口元をそれとなく隠すと、明日島田の家に遊びに行くのだと教えてやった。

「島田の家ね……花村も?」須山は目の端で花村をちらりと見やり尋ねた。

「まだ決まってないけどね。いちおうその予定。な、花村?」
肘で花村の太腿をつつくと、花村は呻くような声で「うん」と小さく言った。

その時須山が嫉妬に目をぎらつかせていたことは、さすがの海も気付いていた。

つづく


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