はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

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好きとか言ってないし 11 [好きとか言ってないし]

あいつ、三十歳の彼氏がいるとか言っていたが……。

ユーリはリビングのソファに愛猫と寝ころび、ぼんやりと今日の午後に起きた出来事を思い起こしていた。

あのガキに男がいるところなど想像できないが、なんて言ったか……そう、ブッチとかいう変なあだ名。

もしかして、犬か何かの名前か?
けど、さすがに三十歳は長生きし過ぎだろう?

「なんだ、ノア。トイレか?」
のそりと起き上がった愛猫に声を掛ける。雑種のくせに新雪のように真っ白なノアは元は捨て猫だった。拾った時は汚れてぼさぼさだった毛並みは、いまは見事なくらいつやつやとしている。ノアの日頃の手入れの賜物なのだろう。

現在の推定年齢はおよそ二歳。れっきとしたオスだが、いまはどちらでもなくなっている。

ノアはユーリの声掛けは無視して、廊下の向こうに消えた。

帰宅した時は大変だった。
初めて出会った時のように、ノアが鋭い歯をむき出しにして威嚇してきたのだ。

ノアが怒っている原因が分からず、とにかく抱き上げようと手を伸ばしたが、危うく鋭い爪で引っ掻かれそうになる始末だ。
一瞬ガキとやったのがばれたかと思ったが、さすがに猫にそんなことまでは分かるはずがない。いままでにそんなこと一度もなかったし。

それでも気になり、急いでバスルームでシャワーを浴び着替えをすませると、しばらくして何もなかったかのように膝の上に乗って来た。

ということは、ノアは陸が気に入らないのだという事なのだろう。まあ、どっちにしろ今後会う事はない。

いや、そんなこともないか……。

午後九時。
いつものように電話が鳴った。

無視したい気分だったが、二日ぶりの電話だったので、ユーリは身を起こしソファの背に身体を預けると、渋々通話ボタンを押した。

「なに?」

『僕だよ。今日はこっちへ顔を出す約束だったでしょう』

弟の新(あらた)だ。ふたつ年下の十五歳で、弟といっても血は半分しか繋がっていない。

「ああ、すっかり忘れてた。といっても、俺が行ったって誰も喜ばないだろう?」

『母さんは会いたがってたよ』

絶対嘘だ。
俺に会いたい人間が、神宮の家にいるはずがない。
どうやら新は違うようだが、それでも表立って俺の側につく勇気があるはずがない。

「そっか。それより、高校から寮に入るって聞いたけど、本当か?」

『うん』

「大丈夫か?」

『それって心配してるの?大丈夫だよ。僕だって全然人と馴染めない訳じゃないんだから。それに家よりも自由がありそうだから、楽しみなんだ』
新の声からは新しい生活に対する不安と憧れのようなものが感じられた。

こいつもハルと同じ、雁字搦めの生活を強いられている。それを羨ましいとは思わないが、それでも俺が持っていない多くを新は持っている。

その後ユーリは弟と十五分ほど話をして電話を切った。

再びソファに横になり、深い溜息を吐いた。

おいおい、あのガキは新と同い年じゃないか。そんなガキとやったのか、俺は?

ふと気づいた事実に衝撃を受け、ユーリは頭を抱えた。

今後は無防備なガキには手は出すまいと、ユーリは不本意ながら自身の下半身に誓った。が、その誓いが守られるのかはまったくもって不明だ。

つづく


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好きとか言ってないし 12 [好きとか言ってないし]

あの日の出来事などなかったかのように、日々過ぎていく。

一週間が過ぎ、二週間が過ぎ、気付けば冬休みに入っていた。クリスマスイブには海と島田の家のクリスマスパーティーにお呼ばれし――押し掛けたとも言う――約束通り、コウタと朋ちゃんにチャンスをあげた。もちろんまさにいは仕事だった。イブに休みだったことは一度もない。

あのあと、どうなったのか――コウタの初体験は無事済んだのか――報告されていないけど、今度追及するつもりだ。

そして正月がやって来た。
案の定両親は帰ってくるはずもなく、兄弟での年越しになったが、その方が気楽だった。

聖文は仕事に、朋とコウタは初詣に出掛けた。

「なあ、俺たちもどこか行く?」
コタツに入ってゲームをしている海が言った。

「どっかって?寒くない?」
正月にわざわざ出掛ける奴の気がしれない。それならブッチとコタツで丸くなっている方がよっぽどマシだ。むしろ楽しい。

「だってさ、なんもすることないじゃん。朋ちゃんはコウタとデートだろ。俺はさ……あれ以来誰とも付き合ってないしさ……」
海の落ち込みの原因は夏のある出来事にあった。コウタと朋ちゃんがイチャイチャしている間に、海はおっさんに騙されていた。
最初は単に騙されただけだった。そのあと、色々あって、とにかく海は傷心なのだ。

「あんな奴の事は忘れろよ。だってあいつ……海には相応しくないよ」
双子だからといって相手の変化に敏感という訳でもない。けど、同じような目に遭って――実際は全然違うけど――海のその時の気持ちが痛いほど理解できた。

「陸だって、なんかあったんだろう?」

「なんだ、気付いてたのか?」意外でもないけど。

「秘密にしたいのかと思って、訊かなかっただけ」
のんびりとした声とは裏腹に、海は3DSのボタンを連打している。
その激しさと言ったら……ブッチがびっくりして陸のお腹の辺りで耳を隠すようにしてぎゅうっと丸まるほどだ。

「んー、やっぱ恥ずかしかったからかな。海はさ、いちおう恋愛したじゃん。俺の場合、やり捨てられただけなんだよね」
よしよしとブッチを撫でる。

「あれー、そうなの?そいつの事好きだったの?」

「好きとかじゃない。全然知らないやつだもん」

「陸。お前いつからそんな――」さすがに海が3DSから顔を上げ陸を見た。

「おいっ!その嫌悪丸出しの顔やめろよ!だいたい俺に悪いとこなんて全然なかったんだからな。連れ込まれてやられて、はい終わり、だよ。あー思いだしたらムカついてきた。あいつ、ブッチの事忘れろとか言っちゃってさ」

「ブッチ?ブッチの事は忘れられないでしょ?」

「でしょ?俺もそう思ったもん。あぁ、あのあとブッチに避けられなくてよかった。変な匂いとかしたらどうしようって、ボディーソープ半分くらい使ったもん」

「ええっ、あんとき?次の日使おうと思ったらなかったんだけど。半分以上使ったんじゃないの?」

会話がどうでもいい方向へ進んでいることに、陸も海も気付かず、最終的に朋がなぜコウタを好きなのかで盛り上がることとなった。

つづく


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あとがき
こんばんは、やぴです。
次から高校編に入ります。
双子は高等部へ進学、みんなひとつづつ歳を取ります。

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好きとか言ってないし 13 [好きとか言ってないし]

春。桜の季節。

陸と海の双子は高等部へ進学した。

両親はさすがに生後二か月にも満たない子を連れて帰国するはずもなく、入学式には――断ったのに――聖文が出席した。

六人目の出産を終えた母は健康そのもので、無事に生まれた女の子は『姫』と名付けられた。
それをPCメール(画像付き)で受け取った聖文は、喜び安堵すると同時に、両親の名前の付け方のセンスの微妙さに渋面を作っていた。

「俺達だけじゃない?兄貴が来てる奴って」海が辺りを見回しながら言った。
式が終わり、講堂の外へ出た二人は、顔ぶれの変わりなさにがっかりとしていたところだ。

「去年だったら、母さん来てくれたのかな?」
つい感傷的な言い方になってしまった。

さすがに一年も両親に放っておかれている状況に、寂しさを感じてしまうのは当然だと、陸は心の中で自分を慰めた。

「いや、もうあっちに行ってたんじゃないっけ?」海が答える。

「そうだっけ?」

もはやこの話題はどうでもいいという様に、二人は教室へ向かって歩き始めた。

校舎はコノ字型をしていて、その脇に職員室や図書室がある別棟がある。

その別棟こそ、陸があの男と出会った場所だ。
この日は新入生しか学校へ来ていなかったため、あいつがここの在校生かどうかは分からない。できればもう卒業してくれていることを望む。あの時一緒だった、よわっちそうな男も。

ふんっ!
陸はなぜか気合を入れながら、新しい教室へ足を踏み入れた。

「あ、陸。陸は隣のクラスだけど?」

いつものくせで海と同じ教室に入ってしまった。しかも笑われてる。

「んじゃ、またあとで」
恥ずかしさなど微塵も見せないように、陸は自分の教室へ向かった。教室の入り口で島田の双子の兄、航(わたる)が陸を待っていた。

「陸、間違えたの?」
陸が教室に入ると航も後に続いた。

「余計なこと言うな」

陸は席を見つけ座ると、その後ろに航が座った。

「なあ、翔(かける)は?」
陸は後ろを振り返り、島田の弟の方について尋ねた。

島田家も迫田家と同様、双子は一卵性で激似だ。身近で接していれば性格や仕草でその違いが分かるが、陸たちはお互いの顔でその違いが判るのだ。

「たぶんふたつ隣くらいかな」
随分曖昧な返答をする航。どうやら新しい場所で緊張しているようだ。

「双子は解体されたってわけか……」

なんだか、案外つまらない高校生活になりそうだと、陸は早くもうんざりとした気分になっていた。何か、早急に面白い事を見つけなければ、退屈で三年間も過ごせそうにない。

つづく


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好きとか言ってないし 14 [好きとか言ってないし]

面白い事は入学式が終わった翌週に早速やって来た。

正確に言うならば、全然面白くないし、一日だってこの学校で過ごしたくないとすら思うような出来事だった。

予鈴が鳴る五分前。
早すぎず、遅すぎない時間に学校へ着くのが双子たちの常だった。
校舎裏の駐輪場に並んで自転車を止め、表の下足場へ向かう。

「来週末は雨だってさ」
海は毎朝気象予報士のように天気の報告をする。今週末もまだなのに、なぜ来週の天気がすでに分かっているのか謎だ。

「ああ、そう」
いつも通り、陸は適当に返事をする。と、その時――

あいつがいた!!
やり逃げ男――ユーリだ。

「どうした?陸」

どうしたもこうしたもあるかっ!
あいつが学校指定のブレザー姿でここにいるということは、多く見積もっても歳はふたつしか違わないという事だ。もちろんあいつが留年していないとして。

「あいつだよ……」
陸はそれだけ言った。それで充分海には伝わる。

「どれ?」
海はそう言いながらも、ひとりの男に目が釘付けになっていた。

ユーリは下駄箱に寄り掛かるようにして立っていた。視線は目の前に立つ男に向いている。
あれ?あいつ、ハルって呼ばれてたやつじゃん。
結局より戻してるんだ。

「大丈夫、陸?」

「もちろんっ!」
そう言った声が震えているのに、海は気付いたようだ。

「あいつ、背ぇ高いな。まさにいと同じくらいかな?八十五は余裕であるよな……」

とにかく、あいつの視界に入らないように靴を履き替えなければならない。別に、ビビってる訳じゃない。ただ面倒はなるべく避けるのが、俺の信条なだけだ。と陸は自分に言い聞かせた。

じわじわと近づきながらユーリの様子を伺う。

ユーリが耳元で何か囁くと、ハルがはにかみながら、ユーリの胸元を小さなこぶしでポンと叩いた。するとユーリはハルの耳を噛み、ぺろっと舐めた。

朝っぱらから誰が見ているかも分からない場所で、いや、言い換えるならば、誰もがみている場所でそんな馬鹿げたことをするなんて、こいつはいかれている。
この学校は校則が厳しくて有名だ。一般的には金持ちエリート学校と言われているが、陸と海はそのどちらでもない。

とにかく、こんないかがわしい現場を教師に見つかれば、学校を追い出されかねないという事だ。

「海、俺の前歩いて」
同じ顏を盾にしようと、海を肘で小突きながらユーリの様子を伺った。
その瞬間、ばっちり目が合った。

陸は金縛りにあった様に動けなくなった。ドクドクと耳の奥で血の流れる音が聞こえる。あいつが『陸』と呼んだ声が耳の奥に響いた。

だがすぐにユーリは目を逸らし、ハルと連れ立ってそこから立ち去った。教室に行くつもりはないようだ。

「陸、チャイム鳴ってる」

陸は返事をすることも出来ず、海に引きずられる様にしてなんとか自分の教室まで辿り着いた。

あいつは――俺を忘れていた。

つづく


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好きとか言ってないし 15 [好きとか言ってないし]

「ユーリ?」

僅かに非難めいた声にユーリはハッとし、唇を濡らしてキスを待つハルを見た。

結局、ユーリの嘘はすぐにばれた。
今後一切ユーリを独占しようなんて思わないからとハルに言われ、ひと月も経たずに以前の関係に戻った。

別に本気でハルを切ろうなんて思ってはなかった。ただハルがあまりこっちに気持ちを傾けないように牽制しただけだった。
正直、ハルと一緒にいるのは楽だし、好かれているのも悪い気はしない。

ユーリはハルの唇を軽く食むと、「さっさと教室へ行け」とグラウンドに面した保健室から追い出した。

さっきまでハルとヤル気だったが、いまはすっかり気持ちが萎えてしまった。
閉まったドアの向こうでハルが不満の声をあげていたが、ユーリはそれを聞き流し、真っ白なシーツの上に土足で寝転がると、カーテンを引いた。

陸――

ユーリはついさっき下足場で見た陸の顔を思い出して、笑みを零した。もう忘れていたと思った陸の顔はユーリの記憶よりも少し大人になっていた。驚いた顔は綺麗な卵型をしていて、少し開いた口元はキスが下手くそなくせに誘っているように見えた。

まあ、さすがにあの表情で誘っているとは思えなかったが。
あいつ、また犯されるんじゃないかと相当ビビッていた。

実際そうしようと身体が動きかけた。
だが自分の中の理性的な部分が、あのガキと二度と関わるなと告げていた。
世の中の汚い部分など何も知らないといったあどけない表情。

俺はあのガキを守ろうとしているのか?俺みたいな穢れた人間にかかわらないように?馬鹿馬鹿しい。そんなこと思う理由もないし、すでにあの時穢している。

そう、あの時穢してやりたいと思ったのだ。自分の欲を満たす道具と見なし、無邪気で世間知らずなガキを傷つけてやりたかった。

あいつは傷ついたのだろうか?
俺に穢されたことで年上の男と別れたりしたのだろうか?それとも見知らぬ男に犯されて、優しい恋人に慰めて貰ったのだろうか。

すっかり記憶から消し去った存在だったはずなのに、実際は違った。

陸の姿を見た瞬間、数か月前の出来事が目の前にまざまざとよみがえって来た。そしてあの続きをしたくて身体が疼いている。

くそっ!ハルを追い出すんじゃなかった。

ユーリは舌打ちをすると、硬くなった股間に触れた。
この馬鹿げた反応はもうひと月近くやっていないせいだ。絶対にあのガキを抱きたいからじゃない。もしそうだとしても、別に陸自身に執着しているからではない。あの身体が欲しいだけだ。

ユーリは背を丸め寝返りを打った。

そんなユーリの状態を分かっているかのように、追い出した十分後ハルが戻って来た。
ユーリは嬉々としてハルをベッドへ迎い入れた。

つづく


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好きとか言ってないし 16 [好きとか言ってないし]

「陸、大丈夫か?」
後ろの席に座る島田が陸の背を指先でつつきながら言った。

教室へ入って来たときによほどひどい顔をしていたのだろう。陸は軽く振りかえり、大丈夫だと答えた。
だが言葉とは裏腹に、気分が悪くなってきた。なんとなく吐き気がするのは気のせいだと思いながら、朝のホームルームをやり過ごした。

授業が始まって、十五分が過ぎた頃、いよいよ気分が最悪になってきた。朝食べた何かにあたったのか、それとも朝からあいつの不快な顔に遭遇したからか。

いや、そんなはずない。
陸は小さくかぶりを振り、ユーリのせいで自分の体調がおかしくなるなどあり得ないと、強く否定した。

別にあんな奴の事なんかすっかり忘れていたし――さっき見るまでは――だから向こうが俺の事を忘れていたからといって、ムカついたりはしていないし……。

そんなはずあるかっ!!

相当ムカついてる。だって、あいつ俺の事忘れてたんだぞ!あんなことしておいて。
俺の名前を呼びながら、あんなに褒めたくせにさ。『いい』とか『男を虜にする』とか『最高』とか『世界一』とか言ってなかったか?

陸の記憶も案外いい加減だ。

「先生!迫田くんが気分が悪そうです」と、突如教室に響いた声は島田のものだった。

陸が『まさか迫田くんとは俺の事じゃないよな』と後ろを振り返ると、島田が教壇に立つ教師に向かい手をあげていた。そしてちらっと陸に視線を向け、得意げに頷いて見せた。

わーたーるー!!高等部に入ったら目立つことはしないと決めていたのにっ!バカバカ!中等部とは違ってこっちはものすごく厳しいんだぞ。

「大丈夫か?顔も赤いようだが、熱があるんじゃないのか?」
近づいて来た古典のおじいちゃん先生が心配そうに尋ねた。

「大丈夫です、先生。授業を続けてください」
偉そうに言ったものの、陸は教科書も広げていない状態だ。

優しいおじいちゃん先生は、陸が授業なんかくそくらえなどと思っているとはつゆほども思わず、教科書も広げていないのは体調が悪いせいだと思ったようだ。「保健室へ行きなさい」と善行を果たした後のすっきりとした表情でそう言うと、元の居場所へ戻って行った。

「ついて行こうか?」島田が後ろで囁く。

「いい!一人で行く」

島田は陸がなぜ腹を立てているのか分からないまま、心配そうにその背を見送った。

つづく


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好きとか言ってないし 17 [好きとか言ってないし]

「ユーリ、もしかして久しぶり?」

ユーリを見上げるハルはうっとりとした顔つきで、ピンク色の舌をぺろりと差し出した。

「余計なお喋りするつもりなら――ッ」

ハルの舌がユーリの股の間でゆっくり滑り降りた。ユーリは敏感な根元を舐められて、心地よさに思わず仰け反った。間髪入れずに、根元から先へと一気に裏筋を舐めあげられ、堪らずハルの頭を掴み、喉の奥へ自身を突き入れた。
ハルは一瞬苦しそうな顔をしたが、ユーリのその性急さが嬉しいようで、咥えたままにっこりと微笑んだ。

こういう所がハルを気に入っている理由かもしれない。結局あのあと――陸と衝動的にやったあと――ほかのやつとは関係を終わらせたし。

ユーリはハルの絹糸のような長い前髪に触れ、そっと掻き上げた。

ハルの舌使いの巧みさには毎回驚かされる。ほっそりとした綺麗な顔からは想像もできないほどいやらしい顔で、しゃぶりついてくる。
ハルの両親がこの姿を見たらさぞ驚くだろうな。

「ハル、お前どこかで練習でもしてるのか?」ユーリは息も切れ切れに言った。そろそろ限界だ。

ユーリの問いにハルは心外だというように上目遣いの視線を送ると、口の中のユーリをわざと強く吸った。

「ハル、お前は最高だ」

そう口にした瞬間、同時に二つの出来事が起こった。

ハルの舌と唇、繊細な指先の美技によって、ユーリは約一か月ぶりに精液を外へ吐き出した。ユーリは陶然とした表情で、同じように陶然とするハルを満足げに見つめた。

だが、ほんの少し前にここへ誰かが入って来たことにユーリは気付いていた。

気まずいのは向こうで、こっちはそんなこと気にもしない。カーテンは引いてあるし、この場所がそういう目的で使用されることを知らない方が悪いのだ。

「ハル、上に来い」

「でも、誰か入って来たよ」
ハルが囁くように言う。

「気にするな。勝手に入って来た方が悪い」
ユーリはわざと大きな声でそう言うと、ハルの腕を掴み自分の身体の上に乗せた。自分でも意外だったが、戸惑ったハルの表情に魅力を感じてしまい、キスをしてやりたくなった。普段ならそんなこと思わないだろうが。

ユーリは顔を僅かに傾けると、ハルを更に引き寄せた。ハルが驚いた顔をしたかと思うと、ゆっくりと目を閉じた。

そして唇が重なる瞬間、勢いよくカーテンが開いた。ハルは咄嗟に自らの顔を隠すようにユーリの胸に貼りついた。

いったいなんなんだ?ユーリは怒りも露に淡いグリーンの布地を掴む人物を睨みつけようとしたが、驚きに目を見開いただけだった。

「勝手に入って来た方が悪いだとっ!」
勢いよくカーテンを開けたのは陸だった。しかも陸はもうちょっとマシな状態を想像していたようで、真っ赤になってカーテンを握る手をぶるぶると震わせている。

「くそうっ!お前、やっぱりサイテーだな!」
そう言い放つと、陸は開けた時と同様カーテンを勢いよく閉め、保健室からダッシュで逃げていった。

「ハル、悪い」
ユーリはすっかり萎えた一物を仕舞うと、ハルを残しベッドを後にした。

つづく


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好きとか言ってないし 18 [好きとか言ってないし]

あいつぅ!やっぱサイテーじゃんかよ。
保健室であんなことするか?

陸はむかむかする胃を抑えるようにして、元来た道を戻っていた。教室に戻りたくないけど、まだどこに何の教室があって、どこにいたらさぼれるのかを把握していない。

あいつ、ハルってやつとやってたのかな?
まだ服を着てたから、これから?

でも……でも、『ハル、お前は最高だ』って聞こえた。
誰にでも言うんだ、ああいうセリフって。

陸は手近なトイレに逃げ込んだ。なんとなくユーリが追いかけてきそうな気がしたからだ。

べ、別に追いかけて来て欲しいとかじゃない。口止めするためにもしかしたらって思っただけだからな。

「ああっ、もうやだ。俺、なに自分に言い訳してるんだよっ」

陸は洗面台に手をつき、鏡に映る自分の顔を見た。
ひどい顔だ。顔が熱いと思ったら真っ赤だ。それに目にうっすら涙が滲んでいる。

きっとゴミでも入ったのだと、陸は顔を洗おうと蛇口に手を伸ばした。

まだ蛇口をひねってもいないのに、ジャーっと水が勢いよく出て来た。

ビックリした!自動なら自動って言ってよね。もうっ!

もはや何に腹を立てているのかも分からない状態で、陸は冷たい水を手に溜め、顔をバシャバシャと二度三度と洗った。

もう一度鏡を見るが、顔は赤いままだ。

その時、トイレのドアがギッと音を立てた。
陸はぎょっとし、警戒する視線を戸口に向けた。

ドアが開いて入って来たのはスーツ姿の見知らぬ男だった。見知らぬといっても、陸が知らないだけでこの学校の先生か何かなのだろう。

「ここで何している?君は……一年か?」

トイレで何をしていると聞かれても……。とりあえず目の前に現れたのがユーリではなかったことにホッとした陸は、適当に言い訳して教室に戻ろうと決めた。

「あの、トイレに……」
案外適当な言い訳を思いつけなかった。

「ここは職員用のトイレだぞ」
ひょろりと背の高い職員と思しき男は、神経質そうにフレームのない眼鏡を人差し指の関節で持ち上げた。

「保健室に行こうとしてたんですけど、途中でトイレに行きたくなって……」

「保健室?どこが悪い?」
いかにも疑ってますと言った口調だ。

「なんとなく気分が悪くて」

「なんとなくぅ?」声が裏返った。

もうっ、こいつしつこい!わざとらしく語尾も上げちゃってさ。ネチネチ陰険男め!

「胃が――」むかむかして、と言い掛けた陸の言葉を遮ったのは、聞き覚えのある声だった。

「せーんせ」

突如現れたのは陸がいまもこれからも一番会いたくない男、ユーリだった。
「何揉めてんの?」ユーリはネチネチ陰険男の耳元で低く囁き、背後から身体を密着させた。

ネチネチ陰――長い――ネチケン男は耳に息がかかったからか、微かに震え、頬を紅潮させた。

まさか……こいつも?

陸はネチケン男に身体を密着させるユーリを嫌悪の眼差しで睨みつけた。

「ユ、ゴホンっ。神宮、お前こそここへ何しに来たんだ?」
ネチケン男がユーリから身体を離した。

いま明らかに『ユーリ』って言い掛けたよ、ね……わざとらしい咳払いなんかに誤魔化されないぞ。

すっかりネチケン男の弱点を掴んだ気になっている陸は、こちらが優位にあるのを主張するようにくいっと顎先をあげ両者を睨みつけた。

「先生、俺、本当に気分が悪いから保健室に行ってもいい?」

「えっ、ああ、そうだな」
しばしユーリを見つめていたネチケン男が、初めてそこに陸の存在を確かめたかのような顔で、適当な返事をした。

ムカつく!
そう思いながらも陸はふらつく足で二人の脇をすり抜けようとしたが、ここでもユーリに案の定腕を取られてしまった。

こいつ、俺の腕を掴むのが好きなのか?

つづく


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好きとか言ってないし 19 [好きとか言ってないし]

ユーリは脇をすり抜けようとする陸の腕を素早く取った。
どさくさまぎれに俺から逃げようなんて、馬鹿なガキだ。

「センセ、こいつに保健室の場所を教えてやるから」
掴んだ陸の腕を持ち上げニッと微笑むと、目の前に立つ物理の北野の顔が切なげに歪んだ。
神経質に眼鏡をいじり、物欲しげな視線をこちらへ向ける。

何度か相手をしてやっただけなのに、随分と厚かましい男だ。

ユーリはそんな北野を気にも留めず、くるりと背を向けるとその場から立ち去った。

陸を引きずり、保健室の場所なら知っていると言いだす前にすぐ隣にある生徒会室へ向かった。

「離せっ!」
陸がユーリの手を振り払った。案外あっさりと振りほどけたためか、陸はよろめいてこけてしまった。

呻きながら立ち上がろうとするが、なかなか立ち上がらない。

「おい、どうした?」

「なんでもないっ!バカっ」

陸がふらつきながら立ち上がった。威勢のいいのは口調だけで、身体の方は言う事をきかないらしい。

「お前、本当に具合が悪いのか?」
ユーリは抵抗されるのを承知で、陸の肩を掴み引き寄せた。

顔が赤い。
ユーリは手の甲で陸の頬に触れ、その熱さに驚いた。

せっかくハルとの情事を邪魔された穴埋めをさせようとしたのに、とんだ面倒を引き受けたようだ。
ユーリは溜息をひとつ吐くと、陸を肩に担ぐようにして抱き上げた。

保健室までのわずかな道のり、陸は力なさげに手足をばたつかせただけだった。

ユーリは保健室の前で立ち止まった。
ドアを開け、ハルがまだそこにいたら面倒だ。おそらく仮病を使い教室を抜け出したのだろうから、そこにいる確率は高い。

まあ、また面倒なことを言おうものなら、今度こそあいつとは終わりだ。
そう思いながら中へ入ったがハルはすでにいなくなっていて、ベッドも綺麗に整えられていた。

ユーリはホッとし、ぐったりとする陸をベッドの上におろした。

「いやだ、ここ」
陸が囁き声で言った。
あまりに小さな声で、ユーリは陸の口元に耳を近づけながら「なんだって?」と訊き返した。

「お前、さっきここで――やってた」

ぐったりとしている割に喋り方にはまだキレがある。思ったよりも元気だという事だ。
ユーリはベッドに片膝を乗せ、陸の顔を挟むように手を着き、のぼせた顔を見おろした。

「お前の、やってたの意味がセックスの事だとしたら――まだだ。お前に邪魔をされたからな」

「あっちに移せよ」目を逸らすことなく高飛車に命じる陸。

ユーリは愉快げに目を見開いた。
まったく、一年の分際でこの俺に命令するとは、怖いもの知らずもいいところだ。さっきは北野になぜか勝ち誇ったような顔を向けていたし、これが中等部のなかで最強と言われていた由縁なのだろうか。

「いやだね。ここまで運んでやっただけでも、ありがたく思え」
そう言い終わるか終らないかのうちに、ユーリは陸の口をキスで封じていた。自分では陸に反論させないためと思いながらも、実のところただ単に陸の唇をもう一度味わいたかっただけなのだと気付いていた。もう一度と言わず、何度もそうしたい気分だった。

唇が触れ合った瞬間から、数ヶ月前の感覚が余すことなく蘇ってきた。
男を惑わす甘い香り、唇の柔らかさ、わずかに抵抗して身を硬くする様、すべてを覚えている自分に驚いた。

中も味わいたい。

ユーリは舌先で陸の唇の隙間をなぞった。唇がわずかに開いた瞬間を逃さず、舌を滑り込ませ、口内をゆっくりとまさぐった。熱く蕩けそうな感覚。ユーリが舌を絡めようとすれば、陸の舌は逃げようとして、互いの舌が交差する。もどかしさが募り、陸を抑えつけキスを深めた。
抑えつける必要などないくらいぐったりしているのに、そうしたのは陸が俊敏な猫のようにすばやく腕をすり抜け逃げてしまいそうな気がしたからだ。

こいつはとんだ魔性だ。このままではキスだけで終わりそうにもない。

「何すんだよっ!病気がうつるだろ!」

ユーリが唇を離したとたん、陸が口を開いた。

「どうせただの風邪だろう?」
子供の風邪が怖くてキスが出来るか。

「馬鹿っ、違う!お前のに決まってるだろっ!早く上からどけよ」

つづく


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好きとか言ってないし 20 [好きとか言ってないし]

こいつは頭がおかしいに違いない。普通、病人に襲いかかるか?
陸は図々しくも再びキスをしようと唇を近づけてくるユーリに向かって手を伸ばした。熱があるくらいで手も縛られていないのにみすみすやられてたまるか。

両肩を掴み、ぐいと押してみるがびくともしない。

「それで押しているつもりか?」

得意げな顔が癪に障る。あの時は薄暗くてよく見えなかった顔が、あまりに鮮明に目の前にあり、その迫力に負けそうになった。

陸はここで屈してなるものかと、精一杯目を吊り上げ怒っているのだという事を強調した。
けど、実際は眩暈がして頭がぐるんぐるんしている。

ユーリの盛り上がった筋肉を掴む手からも、徐々に力が抜けてきている。

「なんで、そんなにキスするんだよ。お前、俺の事好きなのか?」

そう口にして、なんて馬鹿げた質問をしてしまったのだろうと後悔した。明らかにユーリが『その質問、生まれて初めてされました』という様な顔をしたからだ。
おそらくこいつは人を好きになんかならないタイプだ。
年中発情してるバカ猫みたいなもんだ。

陸は近所のボス的存在のボサボサのヒマラヤンを思いだしていた。あだ名はヒラヤマ。
あいつはオスメス構わず、いつも誰かを追いかけている。

そう言えばさっきネチケン男に神宮って呼ばれていたけど、こいつのこと密かにヒラヤマって呼んでやろうか?

「お前、面白いこと言うな。そんな質問されたの初めてだ」ユーリが言った。

やっぱりな。陸は声に出さずに呟いた。

「お前こそ、なんであの時の事誰にも言わなかったんだ?俺に惚れたか?」

はぁ?こいつやっぱりいかれてる。

「お前、馬鹿か?お前みたいなサイテー男好きになるかっ!黙ってたのは、お前に二度と会わないと思ったからだ。会うと分かってたら、まさにいに頼んでお前なんか退学にして貰ってた。それと、誰にも言ってない訳じゃないからな」

「ふうん、それじゃあ彼氏には言ったって訳だ。他の男とやって許してもらえたのか?」

何か、話がおかしくないか……。彼氏って、誰の事?

ユーリの言葉の意味が分からなかったが、陸はひとまず「そうだ」と答えた。陸はつい知ったかぶりをするくせがあるのだが、それは海も同様で、とにかく負けず嫌いなのだ。

「言っておくが、俺を退学には出来ない」
ユーリの口調はさして得意げでもなく、どちらかと言えば、残念がっているようにも聞こえた。

「ふんっ、金持ちってことか。どうせ親が寄付とかいっぱいしてるんだろ。いい親持っててよかったな。うちはそんな余裕ないから、退学とかさせられたら困るんだよな」
陸は嘲るように吐き捨てた。実際、コウタと同じ公立高校へ行く方が家計には優しいのだが、聖文のおかげで入学できた手前――もちろん自分たちの努力もある――卒業までなんとか乗り切らなければならない。

「俺に、親はいない」
ユーリの驚くほど感情が排除された声に、陸の背筋が凍りついた。身体は熱いはずなのに、見下ろすユーリの冷たい視線に一気に血の気が引いて行く。

なんだかよく分からないけど、ヒラヤマを怒らせてしまったようだ。
こういう時は、謝っておくに限る。

「ごめん」

「もう遅い」
そう言って、ユーリは再び陸に襲いかかった。

つづく


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