はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

満ちる月 10 [満ちる月]

これ以上望月から、蔑みの目で見られるのは耐えられなかった。
だから、思わず口にした。

「君って、ゲイだよね」
望月は今の話の流れから全く関係のない事を口にされ、そして、自分の性癖を気付かれていたという動揺を隠せず、口をパクパクとさせ何も言う事が出来なくなっている。

そんな望月をぐっと抱きよせ、身体を絡め言葉を続ける。

「君次第で断ってもいいけど」

どうやら彼は僕がライバル会社へ移るのを阻止したいと思っているらしい。
そんなに憎しみのこもった眼で見ているくせに、都合が良過ぎる。

望月の態度から相当この店を大切にしているのがうかがえる。それもそうか。この店は、望月が企画から参加して作り上げた店なのだから。

僕がいままでプロデュースした店に愛着を抱いているよりも、もっと、この店を大切に思っているのだろう。

思ってもみない最悪な展開に、空は卑怯な手段に出るしかなかった。

もうすでに最低な男だと彼に思われているのだから、最低な方法で彼を手に入れるしかない。

彼はこの誘いに乗ってくるのだろうか?

「それって」
しばらくして、やっと望月が口を開いた。
空の言葉の意味をきちんと理解している返事だ。

「最近ご無沙汰でね……。君が私と付き合ってくれれば、この店に害は与えないと言う事だよ」
最低な奴だな。空は自嘲しながらも、断らせないために望月を抱きしめる腕に力を入れた。

望月は荒く息をしている。
きっと僕に怒っているのだろう。いや、呆れているのか。それとも憐れんでいるのだろうか?

望月の頬に涙が伝うのが見えた。
彼は卑劣な申し出に屈するのだろう。
そこまでする必要など何もないのに。
まっすぐな彼の事だから、きっと一つの考えに取りつかれているのだろう。
僕が他社へ行く事で、この店がつぶれるという考えに。

そんな彼が愛おしくてたまらない。もう絶対に彼の心が自分のものにはならないと分かっているけど、彼を少しの間でも傍に置いておけるなら、憎まれてもいい。

空は返事をせかすように、望月の耳朶を甘く噛んだ。
望月はこくりと俯きそれに応じた。

「では、君のマンションに行こうか?ここから近いのだろう?」

望月は急に顔をあげ、空を見据えた。濡れた瞳で、顔を横に小さく振り拒絶を表した。

「その拒絶は、どっちなのかな?僕を拒絶するのか、マンションへは行きたくないと言う事なのか」

「マンションは嫌です。ホテルへ…」

「僕は君のマンションへ行きたい」

「だ、だめです。なんでも言うこと聞きます。けど、マンションは……」

どうしてこんなにも嫌がるのだろうか?

「散らかっていても気にしない」

「お願いです」
なおも望月は切実に訴えてくる。

こんなに嫌がられれば、絶対にマンションへ行ってやろうと思う。
「なら、この話は終わりだ」
そう言って望月を離した。

そうだ、こんな馬鹿げた申し出は断るんだ。そう思いながらも、彼が縋ってくる事を期待している。

「う、ぐ……わかりました」
俯いたまま涙がこぼれ落ちるのが見えた。鼻をすすり、返事をする望月の姿に空の心は打ちのめされた。

このまま非情な人間としてずっと望月の心に残るかと思うと、このまま消えてしまいたくなる。
けれどそれ以上に、彼が欲しくて身体が疼いている。

つづく


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満ちる月 11 [満ちる月]

どうして急にこんなことになってしまったのだろうか?

望月は空と共に店を出て、自分の住むマンションへ向かった。
店からほんの十分の距離。

なるべくゆっくりと歩を進めているが、もうすぐ目的の場所へ辿り着いてしまう。

曇った空は月明かりもなく、暗闇を彷徨うような望月の心を表しているようだった。

胸が痛い。苦しい。
そしてその痛みはどんどん増し、鈍くずっしりと重いものになっている。
まだ容の事を忘れていないのに、他の男に抱かれる。
口づけさえもして貰えなかったセックスだったけど、それでもあの日の切ない記憶は望月の心に癒しと幸せをあたえてくれる。

とうとうここまでやって来た。
自分の部屋なのに、まったく違う場所へ来てしまったような気がする。

嫌だと言ったのに、ホテルに行こうと言ったのに、空は頑として譲らなかった。
ここには容との思い出があるのに。望月の瞳からはまた涙が溢れていた。

言葉は交わされなかった、お互いシャワーを浴び思い出の残るベッドで繋がった。
望月は空に何度も執拗に口づけをされた。
それはしょっぱくて、余計に胸が苦しくなった。

そして、自分があの日の容と同じ目をして空に抱かれている事など気付きもしなかった。

いつ身体が解放されたのかは分からなかった。
朝目が覚めると、身体中に小さな赤い痣が出来ていた。空のものだという印だ。
空はいつの間にか帰ってしまっていた。

望月はぼうっとしながら、昨夜からの出来事をぼんやり考えていた。

抱かれている最中、空はこれからよろしくと言っていた。
一回限りの関係ではないのだ。
空が望月に飽きるまでこの関係は続くのだ。

せめて、空が引き抜きを断るまで何とかつなぎ留めなければならない、そう思った。

その日から二人の関係は変わってしまったが、日常は変わらず過ぎていく。

空が店に顔を出しても、特に気に留めなかった。
確かに気まずい気持ちはあるけれど、空に思考を奪われるほど、店が暇ではないからだ。
それに、空との関係も店を守るためだと思えば、初めて抱かれた時のような苦しい状態にはならなかった。

それどころか抱かれるたびに自分の身体が空を求めて疼いてしまう。
空の愛撫は丁寧で、執拗で、そして心地いい。
それは空が望月の中に侵入してきても変わらない。
まるで望月の身体の隅々まで知り尽くしているかのように、的確に感じる場所を探り当て望月はいつも気を失ってしまう。

感情とは別のところで、空を求め、どんどん淫らになっていく自分が情けない。

つづく


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満ちる月 12 [満ちる月]

※一応注意書き※
唐突に性描写で始まります。こんな時もあるので、読まれる方はご注意を。



「空さんっ、もう…やっ……そこだめ、いやぁ」

望月の股間に顔を埋める空は、執拗な愛撫を続ける。

望月のアナルをゆるゆると刺激しながら、ペニスを口に含み舌をなめらかに動かす。
舌先で尿道を押し拡げるようにして刺激しながら、きゅうっと亀頭を強く吸うと望月はすぐさま達しそうになる。
シーツをぎゅっと掴み我慢する望月を空は満足そうに確認すると、舌先をぐっと亀頭を裂くように孔に突っ込む。
望月は、あああっと大きく喘ぐと空の舌を押しのけるようにしてビュッと精液を飛ばした。

「君は本当にここが弱いなぁ。後ろももう私を欲しがっているみたいだが」
いつもの目を細めた甘い微笑みで、意地悪く望月を追い込む。

早く僕を求めるんだ。
身体はこんなにも僕を求めているのに、心では頑なに拒絶しようとする。毎回無駄だと分かっているのに、そんなに意地を張れば自分がただ苦しいだけなのに。

空は望月の身体を昂らせるだけ昂らせて、そのまま身体を繋げない時もある。執拗に愛撫をして、ただ精液を搾り取るだけの時もある。
乳首を指で舌先で弄り続け、身体に無数の印を残すだけの時も。

そうしているうちに、望月が自然と僕を求めてくれる。身体だけだと分かっていても、その瞬間は至福の時だ。

「これからどうして欲しい?」
そう言うと空は、望月のアナルに挿し込まれたままの指で前立腺を刺激し始めた。
「いやぁ……っ…ぁぁ……っ」
背を撓らせると同時に、先ほど空に搾り取られぐったりしたペニスが早くも上を向き始める。
それどころか、その先からは白い粘液が溢れてきている。
「いやらしい身体だな……ここはいつも自分で弄って遊んでいたんだろう」
空はアナルを刺激し続けながら、触れられるのを待っているかのように尖った望月の乳首を口に咥えた。
舌先で包み込むように舐め回し、時々優しく吸う。
望月は乳首は優しく扱われる方が感じるらしく、淫らに喘ぎ、空の髪の毛をぎゅっと掴む。
そうなるともう限界が近づいているのが分かる。
空は口に含んでいた乳首を口から出すと、今度は舌先だけでチロチロと小刻みに刺激する。
そうすると、とうとう望月が空を求めて声を出す。

「空さぁんっ……お願いっ」
言葉通りに望月のアナルにくい込む空の指を妖しく締め付け誘う。
「お願い――何を?」
空は望月の頭をぐっとつかむと、その綺麗な顔を寄せ、潤んで虚ろな望月の目を見る。

「欲しい……空さんのペニスがっ……入れてください」
「そんなに美しい顔でいつも私を誘うんだな……他の男を想いながらっ!」
空は指を引き抜き、一気に望月のアナルにペニスを突き立てた。

「ああっっ!あっ…あぁ……」

空は挿入してもゆっくりと焦らすように腰を動かしながら、望月の耳元に唇を寄せる。
耳の中に舌を入れられた望月は、後孔の中の空のペニスを激しく締め付ける。

それに満足し、今度はその耳の奥に届くように空は優しく囁く。

「本当は誰に抱かれたい?君を今優しく抱いているのは誰だ?んっ?」
「ふっぁ…あぁ、よう…さん……」
「そうだ。もっと名前を言ってごらん」
そう言って腰をぐっと打ち込む。

「容っ……容…、もっと」
望月が容の名を言うたびに、空の心臓は握り潰された様な痛みが走ると同時に激しく興奮する。

こんな繋がり方間違っていると思いながらも、一度耳にしてしまったその名を掻き消すことは出来なかった。

つづく


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満ちる月 13 [満ちる月]

ある日無意識に口にしてしまったかつての想い人、容の名。
けして口にしてはいけないその名を口にした時、空が逆上するのが分かった。

今まさに繋がっている最中なのに、相手は空で、容ではないのに。

「あ、あの――」

すぐさま口は塞がれた。
お前は僕のものだと、所有欲もあらわにした口づけに興奮した。

空に口をふさがれてよかったのだ。
下手な言い訳はできない。口にした言葉もなかったことには出来ない。きっと、「あの」と言った後、言葉は続かなかっただろう。

自慰をする時何度も口にした容の名。もう吹っ切ったはず、吹っ切ろうとしたはずだが、まだ望月の心を大きく占めているのだ。

空さんは気付いたのだろうか?容さんが、浅野食品の副社長だと言う事に。

ほんの一瞬だけそんな事を考えたが、すぐさま思考は戻される。
いや、何も考えられない。

空は望月を無茶苦茶に掻き乱し、いつもの理性的なセックスはどこかへ行ってしまっている。お互い目の前の男しか見えてない。激しく淫らに絡み合い、そして何度達しても満足しないかのようにお互いを貪る。

この日のセックスは今までにないくらい盛り上がった。
どうかしているが、確実に二人ともいつもよりも興奮していた。

そして、この日から空は執拗に容の名を口にするように求める。

本当は口にしたくないのに。
あの人を淫らに穢したくないのに。

けれど、空は許してくれない。

***

空は望月が口にした名前の男が誰なのかすぐに分かった。いや、すぐにではないがその後望月の会社の副社長をしている奴だと気付いた。

自分とは全く違うタイプの男。
望月をあんなに苦しめた、望月の愛しい男。
きっと身体の関係があったのだろう。

僕はあの男よりも望月を満足させているのだろうか?心を満たすことが出来ないのは分かっているが、せめて僕とのセックスの方がいいと思われたい。

いや、無理だろう。
嫌いな男とのセックスよりも、好きな男とする方が何倍もいいに決まっている。現に望月を抱いている時の自分は、最高に満足している。その後、どんなに虚しさに襲われようとも。

けれど、胸の苦しさに耐えながら、愛しい男が他の男の名を呼ぶのを許す。
そうしながら抱くしか、空には出来なかった。

望月はいつも最後には意識を飛ばす。
その時だけ、空は涙を零しながら愛おしい男の顔をゆっくりと見つめることが出来る。
優しく髪を梳き、眠る望月の瞼にキスをする。
そして、そのまま望月の部屋を後にする。

つづく


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満ちる月 14 [満ちる月]

もうすぐ返事をしなければならない。相手はいい加減痺れを切らしている。

何度か催促をされたのだが、なぜかあの気持ちが悪い男を二度と見る事は無かった。
それどころか本当にこの会社が自分を欲しがっているのか疑問に感じるほどだった。
最初は何が何でもうちの会社へ、というスタンスだったのに、次に会った時は独立したうえで、うちの会社の専属になって欲しいという、回りくどい誘いに変わっていた。
だが、空にとってはその方が都合がよかった。
いずれは独立をと思っていたし、この会社が最初の仕事相手になるだけの事だ。

しかし空は迷っていた。
この話を受け入れれば望月は手放すことになる。
いや、断った時点で、望月は自分の元から去る。
どちらを選んでも、もはや望月が自分から離れていくのは目に見えている。
どうしたら、繋ぎとめられるのか……そんなくだらない事を四六時中考えているのだ。どうすることも出来ないのに。

ほんの少しの間の関係でもいいと、割り切ろうとしていたはずなのに、関係が一度二度と増える度に離れられなくなっていくのが分かった。

それに望月は他の男を想っていても、自分に抱かれ、愛撫され、気が遠くなるほど気持ちよくなってくれる。

それは、空が一瞬勘違いしてしまう程だった。


望月との関係が始まって、もう二か月が過ぎる。
どっちにしろ関係が終わってしまうのなら、愛しい人を苦しめたくはない。

そう思っていたのに、あの男が店に来て空の気持ちは変わった。

「どうしたんですかっ、副社長!」
ちょうどランチの時間が終了した頃に、望月の想い人、容が店を訪れた。
望月は明らかに嬉しそうな顔で容を迎えた。
容のいつもの硬い表情は変わらない、そしてその二人を空はじっと見つめていた。
空は容に殺気に似た嫉妬を覚えつつ、いつもの甘く優しい笑顔で容に挨拶をした。

「近くまで来たから、店の様子と、例の店の進捗具合を確認しに来たんだ」
ライバル会社による出店場所は、解体工事も終え、基礎工事に取り掛かっていた。
どんな店舗かによるが、普通のレストラン程度ならきっと半年もすれば店の形は出来ているだろう。

「どうやらビルの様なものを建てるみたいだ……何軒か入れるらしい…」
「そんなっ――でも、なぜこんな場所に?」
「そうだな。ビルなら大通りに立てればいいのに、ここは裏通りだからな……」
道路を挟んだ向こうは住宅街が広がる静かな居住区で、立ち並ぶ建物は大きさを同じくして、景観を崩さないように気を使っている。

容もさすがに渋い顔をしていた。
「まあ、でも同じような店が出来てもうちと同じという訳にはいかないから、うちはうちで頑張っていれば大丈夫だと思う。お前がしっかり店を作ってくれているからな」
そういって望月の肩をポンとたたいた。

容のその何気ないしぐさ、それに反応して頬をほんのり赤く染める望月に、空の苛立ちは沸騰寸前だった。
苦しめたくないと思っていた愛しい男を、憎い男と共に地獄に突き落としてやりたくなった。

「ねぇ、容…副社長まだですか?」
ピリッとした空気をほわりとさせるように、容の秘書が店内に入って来た。
中性的な顔立ちのほっそりとした彼は、なぜか不快感を露にしている。

空はすぐに気付いた。
この二人が愛し合っていることに。

望月を苦しめた二人。そして、僕を苦しめる望月。
空の気持ちは固まった。

「いや、もう行く。じゃあ、よろしく頼むな」
容はそう言って、秘書にそっと手を添え店を後にした。

つづく


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満ちる月 15 [満ちる月]

これが最後だ――

空は望月が悦ぶように一から順番に隅々まで愛撫し、身体を溶かし、最後に激しく孔内を掻き乱している。

僕に抱かれている望月はとても気持ち良さそうに求めてくるのに、本当は違う人を想っている。何度も何度も抱くたびに感じていたのに、やはり最後も望月はあの男の事を思って抱かれている。

望月はこんな目で僕を見たりしない。
その瞳は僕の向こう、あの男を見ている。

「あっ、あっ、空さん…もうだめ――っいく――」
望月が絶頂を極め、身体を震わせても、空はなおも快感を与え続け、至福の時を長引かせた。
空にしがみつきぐったりとする望月の意識は遥か彼方へと行ってしまっている。

ベッドに横たわる愛しい男にそっと口づけ、この選択が間違っていない事を自分に言い聞かせた。

望月をそっと揺り動かし声を掛ける。
望月はうっすらと目を開け、その目に空が映った事に驚いているようだった。
いつもはそのまま帰ってしまうからだ。

「空さん……」
「望月、今日でこの関係は終わりだ」

望月はその言葉を脳内で噛み砕くようにたっぷりと間を取ると、目を見開いた。

「それは……どういう意味ですか?」
「分かるだろ意味は……僕は会社を辞める」
「そんなっ!それでは……引き抜きに応じるってことですか?うちの店を捨てるんですか?どうして――」
望月は身を起こし、ベッドの脇に立つ空に縋り付いた。

その行動に空は動揺した。望月の行為が店を守るためだと分かっていても、自分に少しは気持ちがあるのではと錯覚してしまう。それでも、もう限界だった。
他の男を想う望月を抱くのにはもう耐えられない。

「君は僕を身体で繋ぎとめていたと、それで裏切り行為を阻止できているとでも思っていたのか?他の男の名を呼び、一人満足する君を抱いて僕が満足しているとでも?君は僕に何をしてくれた?君程度の男などいくらでもいる。君は、僕が自分の将来を潰してまで抱くような男でもない。つまり、飽きたんだよ――」

苦しかった。
きっとこの苦しみを表に出さずに言いきれただろう。望月がそっと手を離したのだから。

そして空は初めて望月が見送る中この部屋を去ろうとしている。もう二度と来ることはないだろう。
望月に背を向けた瞬間、もう一度振り返り「愛している」と言いたい衝動に駆られた。だが、言えるはずなかった。卑怯な手段で関係をもった男の言葉など何の意味もなさない。
それに彼には想い人がいる。
背中に愛しい男の視線を感じながら、頬に伝う涙に気づかれないように、肩が震えているのにも気づかれないように、部屋を後にした。

つづく


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満ちる月 16 [満ちる月]

「飽きたんだよ」

空にそう言われ、望月の身体に震えがきた。

なにか言葉を発したかったが、頭は働いてくれず何の反論も出来なかった。
それに考えるまでもなく自分は空に何もしていない。ただ抱かれていただけだ。それもいつも自分ばかりが気持ちよくなって、おかしくなって気が遠くなる。空がいつ帰ったのかも知らずに。

自然と空を掴む手が緩んでいた。
だらりと腕が垂れ、空はそのまま部屋を後にした。

引き留めて何とかしなければと思うのに、身体は全く動かなかった。

しばらく呆然としていたが、急に乾いたような情けない笑いが漏れた。
引き留めるだなんて、彼を引き留められるほどの何かを自分が持っているわけでもないのに、どうしてそんな事を思ったのだろうか?

それにどうして彼と関係を持つ事で、引き抜きを止めようとしたのだろうか?どうしてそんな事をして、店を守れると思ったのだろうか?
それよりも、なぜ店が潰されてしまうなどと思ったのだろうか……。

自分がこの二ヶ月何をしていたのかと思うと情けなくて笑うしかない。
結局、空に抱かれ満足していた自分しか思い出せなかった。

望月はいつの間にか嗚咽していた。
溢れ出る涙が何を意味するのかも分からないまま。


空は翌日から店には顔を出さなかった。
暫くして会社を辞めたことを知った。

以前の変わらない日常に戻ったのだ。何も変わりはしない。
だが望月の心はぽっかりと穴があいたような空虚な感情に支配されていた。

そして、例の店が形を現しつつある頃、店の前を通り過ぎる空を見掛けた。

望月は思わず飛び出し、店を通り過ぎた空の背に声をかけた。

「空さんっ!」
空はその声に足を止めた。
しばらくそのまま立ち止まっていたが、また歩き始めた。
望月は空を追いかけ、背後から肩に触れて、歩みを止めさせようとした。

「空さん、待ってください――」
空は肩を掴む望月の手を払いのけると、ゆっくり振り返った。
その表情は以前と何も変わっていなくて、少し目を細め笑みを浮かべていた。

「何か用ですか?」
空のその言葉に、望月は全身が氷水に浸かったようにヒヤリと麻痺した。

「……あ、いえ…」
(やだ、どうしてこんな時に……)

望月の瞳からは涙が溢れそうになっていた。

「何もないなら――」
空はそう言うとそのまま望月を残して立ち去った。
その瞬間望月の頬を熱い雫が伝った。

最初は店を守るために空に抱かれたと思っていた。
本当は自分が容さんを忘れるために、空を利用していたのだ。

セックスの最中、ポロリと容さんの名を呼んでしまってからすごく胸が痛んでいた。

それでも容さんの名を口にすることで、想像以上に気持ちが昂ぶり空とのセックスが気持ちよかったのも事実だ。
たぶん、空もそうだったのだろう、執拗に名を口にするように煽っていた。

しかし、それも途中から苦痛になっていた。興奮とは違うところで、胸がズキズキと痛み、心に錘が圧し掛かったようで辛かった。

「今更好きだなんて……気付くの遅すぎだな……」
望月は空の姿が見えなくなった通りをしばらく見つめた後、大きく息をつき涙を拭うと店の中へ戻った。

つづく


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満ちる月 17 [満ちる月]

オープンの日、店内店外に多くの業界関係者が集まっていた。
その中には、浅野社長、高塚社長、そして空がいた。
望月はこの日はオフだったのだが、ライバル店オープンということもあり偵察も兼ねて休日返上で出勤していた。

少し離れた場所から空の背を見ながら、心の中でお祝いの言葉をつぶやく。
ちらりと見えた横顔には、無事店を開店させた安堵の表情が浮かんでいた。
以前と変わらない、優しい笑みを浮かべたその顔に懐かしさのようなものがこみ上げる。

「望月――」
その声に振り返ると、容がいた。
「副社長、どうしてこちらに?」
「一応オープンに関係者として招待されているからな」
そう言って容は数軒先の店舗に目を向けた。

「関係者として招待……?どういうことですか?」
望月には言葉の意味が分からなかった。
ライバル会社による出店だったはず――確かにうちの社長や、高塚グループの社長が来ているのにも少し違和感を感じた。しかし同じ業種だとそれなりに横の繋がりもあって、招待されることは多い。

「まあ、詳しい話はあいつに聞くべきだな――」
そう言って、店先で関係者と談笑する空を指差した。
「それって……空さんのことですか?あの店をトータルプロデュースしたんですよね…」
「そうだ。さすが高塚でもトップをいっただけある。いい店に仕上がってるな」

容は知っているのだろうか?空さんがライバル会社に引き抜きされたことを……。

その瞬間、すっと違う空気が流れた。
容が望月に顔を寄せそっと耳打ちをする。
「このままでいいのか?俺はどうやっても無理だったが、あいつは手に入れるべきだと思う。諦めずにいけよ」

そう言うとそのまま望月の傍から離れ、空のいる店へと歩を進めた。
その背を見送っていると、背後から声がした。

「こんなに近づくのは最後だからねっ!」
そう言って容の後を追うように、一葉が通り過ぎて行った。

店先に残された望月は、容の言葉の意味する事を考えていた。
容には縋りついたくせに、空には何も言えなかった。
店のプロデュースを終えた空は、きっともうこの場所には来ないだろう。
自分の本当の気持ちも言えず、このまま別れてしまうのだろうか?もし、自分が空を満足する事が出来れば、以前の関係に戻れるのだろうか?
違う。以前の関係は望んでいない。あんなに苦しい関係はもう嫌だ。
でも、自分が思うような関係は築けるのだろうか?

結論は最初から出ていたのだ。空と別れてからずっともやもやとしていた。光を探して暗闇を彷徨うかのように。

何もせず失うくらいなら、傷ついても気持ちを伝えるべきなのだ。
容がそうするようにと背を押してくれたのに、どうして自分に逃げることができるのだろうか。

それから望月は鈍くなっていた頭を回転させた。
今、空に声をかけるわけにはいかない。それに今日は遅くまでいろいろな付き合いもあるだろうし……。

店の前の通りを挟んだ向こうに浅野社長の秘書、森野が立っているのが見えた。
望月は森野に訊くべきことを聞くと、一旦帰宅した。

つづく


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満ちる月 18 [満ちる月]

それから夜になると本社会議の日にしか着ないスーツを着込み身支度をするとまた店へ戻った。
どうやら空はもう店にはいないようで、望月は先ほど森野に調べてもらった空の自宅へ向かった。

途中、こんなに意気込んで空の自宅へ向かいながら空のことは何も知らないことに気付いた。

もし空に恋人がいたらどうしよう。
空との関係が終わって、半年以上経っている。
それに、もしかすると空は結婚しているかもしれない。
自分とはただの遊びだったわけだし、空の私生活など知る由もないのだから、その可能性もある。

それでも、望月はそのままどんどん空の住むマンションへ近づいている。
帰っているのか分からないが、いつまでも待つつもりだった。

その為に、店の従業員には迷惑をかけるが頼み込んで明日も休みを貰ったのだ。

目的の場所に近づくにつれ、心はどんどん落ち着いてきていた。
嵐の前の一瞬の静けさ、これから嵐が来ると分かっていても落ち着いていられる。
きっとその後には、爽やかな心地よい晴れた空に出会えると信じるしかなかった。

やはり、空はまだ帰宅していなかった。
予想していたが、少し気が抜けてしまった。
それに居たとしても、こんなセキュリティのしっかりしたマンションなら門前払いを食らいそうだ。
望月はいたって普通の何でもないマンション住まいだが、空は見上げたら首が痛くなりそうな高さのマンションに住んでいた。
もちろんマンション内へ入るには、住人が開けないとはいれない。

マンションのまん前で待つには怪しすぎると思い、その斜め向かいの公園のベンチに腰掛け、入口を見張っていた。

我ながら馬鹿馬鹿しいことをしているなと思った。
どうせなら電話番号を聞けばよかったと今更ながら思った。

電話番号すら知らず、二か月も付き合っていたかと思うと、その関係の薄さに笑いがこみ上げてくる。

「なんで、コート着てこなかったんだろ……」
深夜日付が変わりさすがに寒さが沁みてきた。今は春か冬かと聞かれれば、冬と答えてしまう季節だ。

時々見逃しているのかもしれないと思い、マンションの前をうろうろして、インターフォンを押してみるが返事はない。もしかすると今日は帰らないのかもしれない。いや、誰かのところへ泊りに行っているのかもしれない……そう思うと、さっきまで絶対会えるまで待つんだと思っていたのに、急にこの場から立ち去りたくなった。

すでに体の芯まで冷え切っていて、その冷えた体に追い打ちをかけるように心臓がきゅっと冷えるのを感じた。
だって、あの時言われたではないか……もう、飽きたのだと――

ふいに涙が込み上げる。

帰ろう。
望月は冷えて硬くなった体を引きずるようにマンションから遠ざかって行った。

つづく


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満ちる月 19 [満ちる月]

大きな通りでタクシーを拾うと、そのまま自分の住むマンションへ帰った。たどり着いた時には、午前三時を回っていた。
「お風呂入ろ……」ぽつりと呟きながら、部屋の前まで来て顔を上げるとドアの前に誰か座っているのが見えた。

「空……さん…?」
望月のその声にドアの前に座っていた、男が顔を上げた。
「遅かったな……」
そう言って立ち上がると、スーツのズボンをパンパンとはたいた。
「どうして?ここに?」
まさかの出来事に困惑しきっている望月に、空がぐっと抱きついてきた。
「とにかく中へ入れて。寒いし、夜中だし…」
「はい」
まだ混乱中の望月は言われるがまま、一緒に部屋の中へ入った。
エアコンのスイッチを入れて急いで部屋を暖める。
さっき抱きついてきた。空の体はとても冷たかった。
どのくらいここで待っていたのだろうか?
それよりもなぜここに居たのだろうか……。
温かいお茶を入れ、二人でずずっと啜りながら体を温める。
少し熱めのお茶が体に沁みて痛いくらいに感じた。

「こんな遅くまでどこに行ってた?飲み……ではなさそうだな……」
少し温まった体に血が巡り始めたように、空が口を開いた。
「あの……空さんのマンションに……」
望月はマグカップを手にしたままそこに視線を落とし、答えた。

「うちに?どうして……というより、君はなんでスーツを着てるんだ?」

望月は吐き気がしてきた。
心臓がぐるぐる回っているのではないかというくらい激しく鼓動している。

緊張ともつかぬ状態に、今しかないと顔を上げて空を見据えた。

「俺、空さんに会いたくて、会社で住所調べて行ったんです。どうしても伝えたいことがあって――」
冷え切っているはずの身体が、なぜだか燃えるように熱く感じた。

「空さんの事が、好きなんです」
その言葉に空が眉間に皺を寄せ、望月の顔をじっと見る。

「何言ってる……そんなはずは…」
「すみません…こんなこと言う資格ないのは分かってます。ただ、気持ちを伝えたかっただけですから――」

望月はいつも控えめにしか気持ちを伝えることが出来なかった。
容の時もそうだった……好きな人に触れて貰えるだけで満足だった。

「どうしてっ!資格がないのは私の方だ――君に酷いことした……君を脅して、身体を手にした」

「俺も、空さんを利用しました。浅野副社長を忘れるために――とっくに忘れていたのに、名前を口にするたび、胸がチクチクして苦しかったのに、空さんへの気持ちにずっと気付かなかったんです……」
さっきまで唇が震えて上手く喋れるのか分からなかったのに、思う以上に気持ちを伝えることが出来た自分に驚いていた。

驚きと戸惑った表情の二人が顔を見合わせている。
しばしの沈黙のあと、空が立ち上がった。

(――やっぱり……ダメだよね…)

望月は俯くとぎゅっと目を瞑り、涙をこらえた。
あっという間もなく、空が望月に飛びつくように抱き付いた。
その拍子に空と望月は一緒に倒れ込み、テーブルの上のマグカップが倒れた。

「そ、ら、さん?」
「どうして言ってくれなかった。どうして……私はずっと好きだったのに――ずっと苦しくて……」
「空さんが、俺を?でもっ、飽きたって――」
「嘘に決まってる。今も変わらず好きなのに――」
「じゃあ、どうして、ライバル会社に……うちの店を捨てて行ったんですか?」

空が望月を抱きしめる腕を緩めた。

「とりあえず、お茶零れてるから……拭いた方がいい」
空は何とも言えない曖昧な表情で、テーブルの上のマグカップをおこした。。

望月は曖昧な表情をちらりと盗み見ながら、零れたお茶を拭いた。
いったい何がどうなっている?

空がそっと近づき、望月の唇に触れた。
重なった唇は思ったよりも暖かかった。
「話は後にして、今すぐ君を抱きたい」
空の優しい顔は、望月を求める男の顔になっていた。
「あ、あの……じゃあ、お風呂に、入らないと――ずっと外にいたから、汚れてるし」

真っ赤な顔の望月に空は「そうだね」と言って、目を細め笑った。

つづく


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