はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 246 [花嫁の秘密]

エリックは夜会服姿のサミーを階段の上からしばらく眺めていた。
痩せすぎなのを除けば、何もかも完璧だ。髪は後ろに軽く撫でつけ、額をあらわにしている。思わず口づけたくなる。

「ふうん、意外だな」さも、いま降りてきたというように声をかけると、サミーがじろりと睨みつけてきた。綺麗な瞳だ。

「なに?」サミーは不機嫌この上ない返事を返し、外套を羽織った。

「いや、セシルがちゃんと伝言をしていたことに驚いただけだ」それからサミーがきちんと支度をして待っていたことにも。

エリックが屋敷に戻ったのは一時間ほど前。朝から詰め込みすぎた予定をすべてこなし、予定外だったS&J探偵事務所にも寄って、仕事の依頼を済ませてきた。

「君が僕の今夜の予定を勝手に決めてしまったことかな?」サミーはチクリと言い、プラットの差し出したステッキを手にした。中に剣が仕込んであって武器にもなる。

「どうせ行こうとしてただろう?あそこは連れがいた方が楽しめる」エリックも外套を羽織り、同じように武器となるステッキを受け取った。サミーのものよりも幾分か重く、より武器としての役目が大きい。

「遊びじゃない」

「そうイライラするな。例の四人が来てるかもしれないだろう。賭けの進捗具合も確認できるし、美味いものにもありつける。いい夜を過ごせるはずだ」エリックはプルートスへ行く利点を並べ立てた。

「君と一緒でいい夜になるはずないだろう?それに賭けはもう締め切られているし、ここでだって美味しいものは食べられる」

まったく憎らしい男だ。支度も済んでいるのに、まだぐずぐず言うか。「お前はいちいち反論しなきゃ気が済まないのか?とにかく行くぞ。ほら、馬車をつかまえておいたから」エリックはサミーを急かし、屋敷を出た。空気が湿っていて、なんとなく嫌な夜だ。

玄関を出ると、前もって頼んでおいた辻馬車が待機しているのが目に入った。エリックはサミーをエスコートするように階段を下りて、馬車に押し込んだ。

従僕が扉を閉めると、目的の場所目指して、馬車はすぐに動き出した。おそらく十五分もあれば着くだろう。

「それで、ハリエットおばさまの朝食会はどうだった」

てっきり会話はなしだと思っていたが、意外にもサミーは朝からずっと気になっていたと言わんばかりに訊いてきた。話すほどでもないが、ロジャーのために自分が払った犠牲をお裾分けすることにした。まあ、アビーの為だと思えば幾分かはマシなのだが。

「部屋を埋め尽くす女性たちを想像してみろ」日頃の訓練の賜物か普段はほとんど動じることのないエリックも、これにはさすがに狼狽えた。

「ゾッとするね」サミーはエリックの恐怖を理解したようだ。

「しかも未婚だ。ハリエットおばさまは俺が結婚に興味ないことを理解していると思っていたから、まさに不意打ちだった。いつものように既婚女性ばかりを集めた会合かなんかだと思っていたからな」

「君は結婚に興味ないのか?」サミーは真顔で尋ねた。

エリックは今朝ハリエットおばさまに食らった不意打ちよりも、一〇〇〇倍は驚いてサミーを見た。こいつは昨日の告白をすっかり忘れてしまったのだろうか?もしかして覚えていないとか?それとも聞こえなかった、もしくは聞かなかったふりをするつもりか?

「俺が一度でも結婚に興味がある素振りを見せたか?」つい力を込めて訊き返す。

「いや、ちょっと聞いてみただけだ。君は昔から恋愛の対象は男なのか?」サミーが珍しく立ち入ったことまで聞いてきた。少しでも興味を持ってもらったことを喜ぶべきか?

「俺は誰も好きにならない」そこまで言って、これは過去の自分で、今はもう違うと思い直す。「いや、まて。これまで好きになったことはなかった、お前が初めてだ」

「そんな言葉信じるとでも?」サミーは胡散臭いとばかりに、眉根を寄せた。

サミーがそう言うのも頷ける。確かに白々しい言葉だ。自分だったらまず信用しない。「別に、信じられないならそれでもいいさ。そういうお前はハニーが女でも好きになってたか?」こんなこと訊いて何になる?エリックはうっかり口を滑らせたことを悔やんだが、返事は気になった。

「僕はアンジェラを女性だと思ったことはない。でも、エリックの質問に答えるなら――」

ちょっと、待て!「いや、答えはいらない。もしもとかそういう話は無駄でしかない。お前は女の子のふりをするハニーを好きになった。それが事実だ」聞くまでもなく、サミーはハニーを好きで、それは最初から最後まで変わらない。俺はなぜ自分を痛めつけようなどと思ったのだろう。

「また、僕の傷をつつこうって言うのか?」サミーは不快感を隠そうともせず、憮然と言い返した。何度も言われてうんざりとした様子。

エリックは口を閉じた。サミーの傷をつつくのは挨拶のようなもので、いつもなら平気で傷口をえぐり広げるのだが、今夜はまずい。険悪なままでは計画に支障をきたすし、サミーとのことは、腹をくくったからにはこういうのはやめにしなければならない。

「サミー、今夜は俺のそばから離れるな」

「危険はないだろう?」少なからず信頼を寄せてくれている返事だ。

「ああ、もちろんだ」あったとしても、サミーが気付くことなく排除するだけだ。

つづく


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