はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 226 [花嫁の秘密]
クリスはひとりになって、再び書斎机についた。引き出しから先ほど届いたばかりの手紙を取り出し開封する。日付からして、雪の為に手紙は通常よりも二日遅れで届いたようだ。
内容を確認して、クリスは溜息を吐いた。
「溜息なんかついて何か問題でも?」
部屋の端から声が聞こえ、クリスは手紙からサミーに視線を移した。
サミーは部屋を横切りこちらへ歩いて来ていた。机の前を通り過ぎ、暖炉の前の椅子に座った。
「なんだか、寒くてね。だから温室へは行かなかったんだ。あそこに辿り着くまでに凍え死にそうな気がしたから」サミーはクリスに問われる前に答えた。
「風邪ではないのか?」
クリスの言葉にサミーは大丈夫だという様に手を振って見せた。
「それならいいが、客も多い。風邪なら早めに対処しておいた方がいい。温室へは誰が付き添いを?」
クリスは机に肘を突き組み合わせた指の上に顎を置いた。雪の中を足取り軽く出かけるアンジェラの姿を思い浮かべ、嫌な知らせを運んできた手紙の事をしばし忘れる。
「女性陣のお供にはセシルとエリックが、まあ無理矢理引きずられていったと言った方がいいかな。彼女たちの有り余る力の源はいったいなんだろうね。それで、いったいなにが起こったんだ?」
どうやら面倒な事に背を向けるのは許されないようだ。クリスは壁に掛かったアンジェラの肖像画に向かって、どうかご慈悲をと呟いた。
「大したことではない、と言いたいところだが、ラムズデンの土地管理人が金を持って行方をくらました」
「ははっ、は……まさか?あそこは去年管理人を変えたばかりで、とても出来た男だったじゃないか。こっちのくたばりそうなじいさんなんかよりもずっと役に立っていると思っていたし、この間帳簿を見たけど、何も問題はなかった」
「そうだ。だが、どんなにそいつを褒めても、年末に支払う金は戻ってこない」
領地のなかで一番北に位置するラムズデンを訪れたのはいつだっただろうか?記憶が確かなら爵位を継いだ時に各地を回って以来だ。
「とにかく、早急に金を用意する必要があるね。まだクリスマスまで時間があってよかった、と思うくらいしか慰めはないだろうけど」
「まったくだ。すぐに手配させなければ」
「じゃあ、それは僕がやっておくよ。向こうの弁護士はなんていうやつだったっけ?」
机の傍までやって来たサミーは、手紙を取り上げ、黙読しながら傍の椅子を引き寄せ座った。
「フォークナーだ」クリスは答えた。
「そうだったね。それにしても、フォークナーの手紙によれば、随分と領地が荒れ果てているようだね。小作人の不満が爆発する前に、領地へ直接行くべきだと思うけど」
「そうしようと今考えていたところだ。今年はもう無理だから、年明けにでも――いや、春になったら――」
「そんなこと言ってるといつまで経っても行けないよ」呆れてものも言えないといった口調だ。
サミーは手紙を机に戻し、寒くて仕方がないとぼやきながら暖炉の前の椅子に戻った。
クリスは手紙を読んだ時よりも深い溜息を吐いた。
わかっている。けれど、寒い時期にアンジェラを連れて北へ旅をするのは気が進まない。ならば一人で行くか?ああ、それこそ気が進まないが、問題が大きくなる前に対処しなくてはならないだろう。
「年明け、すぐにでも行く」
クリスは渋々だが、領主として最善の言葉を口にした。
つづく
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内容を確認して、クリスは溜息を吐いた。
「溜息なんかついて何か問題でも?」
部屋の端から声が聞こえ、クリスは手紙からサミーに視線を移した。
サミーは部屋を横切りこちらへ歩いて来ていた。机の前を通り過ぎ、暖炉の前の椅子に座った。
「なんだか、寒くてね。だから温室へは行かなかったんだ。あそこに辿り着くまでに凍え死にそうな気がしたから」サミーはクリスに問われる前に答えた。
「風邪ではないのか?」
クリスの言葉にサミーは大丈夫だという様に手を振って見せた。
「それならいいが、客も多い。風邪なら早めに対処しておいた方がいい。温室へは誰が付き添いを?」
クリスは机に肘を突き組み合わせた指の上に顎を置いた。雪の中を足取り軽く出かけるアンジェラの姿を思い浮かべ、嫌な知らせを運んできた手紙の事をしばし忘れる。
「女性陣のお供にはセシルとエリックが、まあ無理矢理引きずられていったと言った方がいいかな。彼女たちの有り余る力の源はいったいなんだろうね。それで、いったいなにが起こったんだ?」
どうやら面倒な事に背を向けるのは許されないようだ。クリスは壁に掛かったアンジェラの肖像画に向かって、どうかご慈悲をと呟いた。
「大したことではない、と言いたいところだが、ラムズデンの土地管理人が金を持って行方をくらました」
「ははっ、は……まさか?あそこは去年管理人を変えたばかりで、とても出来た男だったじゃないか。こっちのくたばりそうなじいさんなんかよりもずっと役に立っていると思っていたし、この間帳簿を見たけど、何も問題はなかった」
「そうだ。だが、どんなにそいつを褒めても、年末に支払う金は戻ってこない」
領地のなかで一番北に位置するラムズデンを訪れたのはいつだっただろうか?記憶が確かなら爵位を継いだ時に各地を回って以来だ。
「とにかく、早急に金を用意する必要があるね。まだクリスマスまで時間があってよかった、と思うくらいしか慰めはないだろうけど」
「まったくだ。すぐに手配させなければ」
「じゃあ、それは僕がやっておくよ。向こうの弁護士はなんていうやつだったっけ?」
机の傍までやって来たサミーは、手紙を取り上げ、黙読しながら傍の椅子を引き寄せ座った。
「フォークナーだ」クリスは答えた。
「そうだったね。それにしても、フォークナーの手紙によれば、随分と領地が荒れ果てているようだね。小作人の不満が爆発する前に、領地へ直接行くべきだと思うけど」
「そうしようと今考えていたところだ。今年はもう無理だから、年明けにでも――いや、春になったら――」
「そんなこと言ってるといつまで経っても行けないよ」呆れてものも言えないといった口調だ。
サミーは手紙を机に戻し、寒くて仕方がないとぼやきながら暖炉の前の椅子に戻った。
クリスは手紙を読んだ時よりも深い溜息を吐いた。
わかっている。けれど、寒い時期にアンジェラを連れて北へ旅をするのは気が進まない。ならば一人で行くか?ああ、それこそ気が進まないが、問題が大きくなる前に対処しなくてはならないだろう。
「年明け、すぐにでも行く」
クリスは渋々だが、領主として最善の言葉を口にした。
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2012-09-10 22:31
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