はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 225 [花嫁の秘密]

「それで、頼みと言うのは?」

クリスは椅子から立ち上がり、ロジャーに背を向けると窓の外を眺めた。
もう雪はやんでいる。積もった雪に太陽が反射してクリスの目を眩ませた。

ロジャーから折り入って頼みがあると真面目な顔つきで言われたのは初めてだ。もっとも、真面目な顔以外見たことがないし、頼みごと自体が初めてなのだが。

ロジャーが話を切り出さないので、クリスは窓際から離れ、書斎机の上の手紙を引き出しに仕舞うと、ロジャーの向かいの椅子に腰かけた。

「夏から色々な出来事があった」ロジャーは静かに話し始めた。「あの大きな事件に比べれば些細なことかもしれないが、私からするとクリスたちの結婚自体、狂気の沙汰だった。もちろんクリスは知らずに結婚したわけだが――」

ロジャーは一旦言葉を切った。いったい何が言いたいのだろうかとクリスは眉を顰めた。もしかしていまさら婚姻無効の申し立てでもしろというつもりなのか?

冗談じゃない。確かに結婚は違法なものだ。だからなんだというのだ。俺はハニーを愛しているし、あんな事件のあとでは余計に離れられるはずない。

ひとりで憤慨するクリスをよそに、ロジャーが話を続ける。

「二人が今シーズンを最後に領地に引きこもることを決めたのは理解している。あの残酷な出来事のあとならなおさら。けど、アビーの為に――いや私の為に、社交場から退くのは来シーズン以降にして貰えないだろうか?」

ロジャーの表情は切なるもので、まったく違う事を考えていたクリスは自分が恥ずかしくなった。ロジャーがいまさらアンジェラと別れろと言うはずがないではないか。

「それはどういう意味だ?」

ロジャーは伯爵で、世間の評判もすこぶるいい。侯爵夫人である妹の力を借りずとも、社交場で困ることもないだろう。

「アビーの両親は、特に父親の方だが、大の貴族嫌いだ。それで婚約するまでに長い時間かかったが、ようやく許しをもらえた。だが問題が――」

「そうかっ!バクストン――そうか、そうか、あのバクストンか。貴族嫌いの植物学者。軍人の血筋だが、軍人も嫌いだったはずだ。彼は公の場でそういう事を口にするのをはばからない。世間では変わり者のバックス大佐と揶揄されている。なるほどね。アビーがこれから入る世界の多くを敵にまわしているわけだ」

それで理解できた。アビーを社交界へ受け入れさせるには、ロジャーの力だけでは足りないのだ。

「そう。それで、社交界の人気者のクリスとハニーの力を借りたい。もちろん人気者というだけではなく、その地位の高さもあるが。後ろ盾になっていると分かれば、だれもアビーを軽視しないだろう。そもそもアビーは遠縁にあたる子爵令嬢の付き添いのコンパニオンをしていたんだ。彼女たちはアビーをあからさまに見下していた」
ロジャーは当時の事を思い出したのか、怒りにも似た表情を見せ言葉を途切らせた。

「だがその時君は無礼にも彼女にキスをしたんだろう?」クリスは冗談めかして訊いた。

ロジャーは顔を赤くし、もごもごと反論する。

「あれは、私が悪かったんだ。彼女にやり込められて、頭に血が上って、つい――」

弁の立つアビーにカッとなったロジャーはその口を口で塞いだというわけだ。その気持ちよくわかる。クリスも時折、好奇心旺盛な妻を黙らせるときに使う手だ。

ロジャーはクリスとは違って、社交界に背を向けることはしない訳だ。認めて貰えないなら、こっちからそんな世界願い下げだとは思わないのだろう。ロジャーは議会では重要な役目を担っている。議員同士での集まりもあるだろうから、妻がその中で冷遇されることを危惧しているのだ。

「話はわかった。すぐに返事をしたいところだが、いちおうハニーに相談してからにする。もちろん反対することなどあり得ないと思うが」

アンジェラはきっと、わたしに任せてと張り切るに違いない。

しかし、事件も未解決だというのに、いったいロジャーはどうやってアンジェラを守るつもりなのだろう。それとも、事件は解決したと思っているのだろうか?

誰もがひた隠しにするなか、クリスはロジャーにそれを訊ねることが出来なかった。

どちらにせよ、アンジェラを守れるのはクリスだけなのだ。

つづく


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