はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 224 [花嫁の秘密]

暖かでにぎやかな応接室では、まだ午前中だというのに、すでに二度目のティータイムが始まろうとしている。そんななか、アビーが静かに口を開いた。

「ところで、ちょっといいかしら?」

「なに?」アンジェラとセシルの言葉が重なった。

アビーは微笑ましい姿にニコリと笑い、ナッツケーキをやや大きめにカットして皿に盛って、セシルの前に差し出した。すでにサーモンサンドに手を伸ばしていたセシルはどちらから先に食べようかと、しばし悩む。

「家族の立ち入った話になりそうだけれど、わたしがいてもいいのかしら?」
遠慮がちにそう言ったアビーは、いまの自分の立場がとても中途半端なものだと感じていた。ロジャーとの付き合いは二年近くになる。婚約はしたものの、両家の交流はほとんどなく、今回ここフェルリッジにロジャーとともに招待されたのもメイフィールド侯爵の計らいがあったからこそだと思っている。

「何言ってるの?アビーはもう家族よ」アンジェラの憤慨したような口調はアビーを気遣ってのものだ。もうすぐ結婚するのに、だれがアビーを他人だと思うのだろう。

「そうだよ。アビーは家族だ」セシルは我慢できず、まずはサーモンサンドを口に入れた。アビーが気を利かせて熱々の紅茶をカップに注ぎ入れると、セシルはずずっと行儀悪く音を立てて啜り、素早くナッツケーキを手にした。「アビーもどうぞ」声をかけることも忘れない。

「よかった。ナッツケーキまだ食べたかったの」

アンジェラは笑いながら「わたしも」と同調した。

「それで、何の話をしてたっけ?」とセシル。

「マーサの話よ」アンジェラは答え、少し顔を曇らせた。

「ああ、そうそう。で、マーサは納得したの?」

「納得はしてないみたい。マーサの事を思った決断だったけど、間違っていたのかもしれないって思ってたところよ。でもね、メグも傍に置いておきたいの。マーサにはついあまえてしまうけど、メグはそんなの許さないでしょ?リックに勧められたのもあるけど、わたしにはメグが必要なんだって……それは、マーサには言えなかったんだけど」

「確かにね。マーサはクリスと同じくらいハニーに甘いから。僕はハニーの決断に賛成だよ。マーサには少し休養が必要なんだ。これまで頑張った分」

セシルのお腹にも休養が必要よと言いたいところだが、当のアンジェラのお腹も朝から働きっぱなしだ。

「マーサはとても幸せな人ね。それにあのメグって子は結構手強そうに見えたわ」
アビーはなかなか鋭い。ちらりとしか見ていないはずなのに、メグがどんなに優れた侍女か見抜いている。

「そうなのっ!」アンジェラは握り締めたこぶしを勢いよく腿に打ちつけた。

メグの侯爵夫人教育は相当厳しい。もしこの場にメグがいれば、いまのアンジェラの仕草にも厳しく注意がいった事だろう。

「なにが、そうなのっ!なんだ?」

アンジェラの声真似をしながら応接室に現われたのは、朝食の途中で姿を消したエリックだ。戸口に寄りかかり腕組みをして、いつものように胡散臭い笑みを浮かべている。

「リック!な、なんでもないわ」
アンジェラはエリックに弱点を握られまいと居ずまいを正し、レディらしく上品にティーカップに手を伸ばした。なぜかいつもこういう所を見られてしまう。アンジェラは紅茶を一口すすり、こちらへやってくるエリックを澄ました顔で見やった。

「なんでもないね――まあいいさ。ハニーが次のシーズンには、いまよりももっと侯爵夫人らしく振舞えるように、メグの仕事ぶりをじっくりと見守らせてもらうよ」エリックは招かれてもいないお茶会に参加するつもりなのか、アビーの傍の椅子に座り、ずうずうしくもこう言った。「ああ、アビー、俺にも一杯くれるかな?」

つづく


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